- エネルギー問題全般
エネルギー問題は保守かリベラルかといった政治スタンスとは無関係なはずである。エネルギー政策はサイエンスに基づき、経済性、安全性、持続可能性を評価して成されるべきで、これらは政治スタンスとは独立してしかるべきである。しかし、日本では(海外先進国も)これが密接にリンクしている。エネルギー問題を議論するとき、まず論者の政治スタンスが問題とされ、純粋にサイエンスの立場からの意見に対しても、政治的背景が問題とされることが多いのは不幸なことである。
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| 原子力 | 火力 | 再生可能エネルギー | 脱炭素 | | |
保守 | 維持or推進 | 徐々に縮小 | 導入に慎重 | 推進 | | |
リベラル | 縮小 | 縮小 | 積極的に導入 | 強く推進 | | |
小生の意見 | 縮小 | 維持 | 技術開発推進、FIT,FIP反対 未熟な技術での導入反対 | 反対 | | |
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- 地球温暖化は定性的にはその通りだが、定量的には問題にするレベルではない
脱炭素(カーボンニュートラル)の動きには反対。 - 原子力は技術的未熟さ(使用済み核燃料問題)と万が一のリスクがあり、縮小すべきである。温暖化より放射能の方が遙かに怖い。
- 火力は維持すべき。大規模水力発電と並んで出力調整が自在な発電方式で主電源を問わずバックアップとして必要問題は地球温暖化ではなく資源の有限性。
- 以上の観点から再生可能エネルギーは必須であって、本命は太陽光、技術的未熟なままで導入されたため、技術開発が停滞している。
FIT、FIPに使う金を技術開発(発電効率向上、蓄電システム)に使うべきだ。
2.気候変動(地球温暖化)論
(経緯)
20世紀後半になって、炭酸ガスの温室効果により地球が温暖化している という学説が知れ渡るようになった。
これは大気に少量含まれる水蒸気と微量含まれる炭酸ガスが太陽から発せられる赤外線(6000℃相当の黒体輻射)は透過するが、地球から発せられる赤外線(15℃相当の黒体輻射)は吸収するスペクトルを持つということからきている。これらの温暖化ガスがなければ地球の平均気温はマイナス18℃程度と試算されている。温暖化効果は量的に多い水蒸気がメインで、諸説あるが、約90%が水蒸気の寄与と言われている。尚、大気の主成分である窒素と酸素はその赤外線吸収の特性から温暖化効果は持たない。
1988年にはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が設立され、温暖化に対する科学的な研究が国際的に行われるようになった。以後、IPCCは気候変動のイニシアティブを執るようになる。1992年のリオデジャネイロサミットでの国連気候変動枠組み条約を経て、1997年には京都議定書が採択され、先進国は炭酸ガスの削減を義務づけられることになる。この頃は炭酸ガスによる地球温暖化については懐疑的な意見も多く、温暖化論者は「現時点では不明な点が多いが、温暖化は不可逆的に加速されるので、今対策を打たないと行けない」と主張していた。その後、クライメートゲート事件等の逆風もあったが、温暖化論は勢いを増し、2015年のKOP21においてパリ協定が合意された(発効は2016年)。IPCCは依然として予測に大きな幅を持たし、不確かな点を認めているが、主要国政府、環境団体、マスコミはカーボンニュートラルを金科玉条とし、今や宗教の感(教祖はグレタ・トゥーンベリ?)を呈している。この間、EUは一貫して温暖化対策に前向き、日本は京都議定書への不満もあって、当初は前向きなフリ、米国は京都議定書を批准せずと対応が別れていたが、パリ協定には米国も参加、新興国も含め多くの国が参加する世界的な協定となった。その後、米国ではトランプ大統領が「地球温暖化はフェイクだ」とパリ協定からの離脱を宣言、バイデン大統領になると直ぐに参加表明と政権によって大きく対応が別れている。日本では菅政権から2050年にカーボンニュートラルを目指すと宣言、前のめりになってきた。
(温暖化懐疑論)
温暖化論が広く知れ渡るようになるとそれに対する懐疑論も多く出されるようになった。日本では丸山茂徳(地球科学)、渡辺正(化学)といった気象学以外のサイエンスで優れた業績を持つ学者が懐疑論を発表、それに対して温暖化論者の気象学者が反論、数の力、マスコミの報道姿勢もあって懐疑論は劣勢にある。これら異分野での著名人とは異なり、IPCCで委員を務め、報告書にも名前を連ねている杉山大志氏は専門家として真っ向から異議(懐疑論)を唱えている。
地球の気温が温暖化ガスだけで決まるのであれば、ことは簡単であるが、気温に影響を与える因子は他にもある。特に大きな影響を与えるのは雲の存在で太陽光の反射による冷却化効果と地球放射の反射・吸収による温暖化効果を併せ持つ。特に大きな冷却効果を持つ低層雲の存在は温暖化危機を唱える論者にとってはやっかいな存在のようで、温暖化が進むと低層雲が消えるといったモデルも提唱されている。
(地球温暖化はフェイクか)
トランプの「地球温暖化はフェイクだ」と言うのは半ば当たっているところがある。その理由は「不確かなことをあたかも真実であるかのように言い、対策を要求している」ことにある。
Factは産業革命以降、炭酸ガスは増加し続けていること、地球の気温が僅かではあるが上昇していること、炭酸ガスは温室効果をもたらす赤外線吸収があることである。これらは疑いの余地はない。また、炭酸ガス濃度の上昇が続く限り、気温の上昇が続くこともほぼ確かだと思われるが、どのくらいの気温の上昇に繋がるかはFactから直接導き出すことは出来ず、Forecastによらざるを得ない。
Forecastは気候モデルを作り、Simulationによって未来を予測する。Simulationというのは経験者は誰でもわかると思うが、パラメーターをいじれば、結果が大きく変わる。言い方を変えれば、望む結論を導くためにリーズナブルな範囲でパラメーターをいじるのはよく行われているようだ。IPCCは未来予測に幅を持たせているが、マスコミ等では温暖化の最大値にフォーカスされることが多い。
気候モデルの上で、温暖化論者も懐疑論者も頭を悩まされているのが前述した雲の挙動である。
「炭酸ガスによる地球温暖化は事実だが、量的には小さく、温暖化危機はフェイクだ。」が小生の意見である。地球温暖化で何が困るのか、ということについてよく喧伝されているのは下記であるが、致命的なものは無いと思うからだ。
- 海面上昇が起り、ツバル等の島嶼国が水没する
海面上昇はその通りだが、ツバルの場合は珊瑚礁の隆起の方が大きく、国土は拡大している。
水没の恐れがある全ての地域の護岸工事費は世界中が脱炭素にかける費用より遙かに少ないだろう。 - 山火事が増え、規模も拡大する
理屈の上ではその通り。近年の実績で、増えているのは米国西部。 - 降水量の差が極端になり、干ばつと豪雨が増える
これは気候モデル次第、近年になって干ばつと豪雨が増えたという客観的データはない。最低気温が上昇したというデータはある(気候はマイルド化?)。 - ③の結果、農産物の収量が減り、食糧危機に繋がる
これはフェイクに近い。世界の農産物の収量は増え続けている。炭酸ガス濃度の上昇で植物の生長が早まるのは常識。収量増加は事実で否定できないため、温暖化がなければもっと収量が上がっていたはずと言うのが食料危機論者の言い分。 - 大きな経済的損失がある
これは経済モデル次第。得失両面がある。明らかなのは温暖化対策が大きな経済的損失であること
尚、1970年頃までは未来の危機として地球寒冷化が語られていた。今のところ地球は温暖化傾向にあるのでその心配は杞憂かも知れないが、寒冷化は温暖化とは比べものにならない大きなリスクである。
3.再生可能エネルギー
再生可能エネルギーはタダのエネルギー源(太陽、風、水等を使うので)ので、コストは減価償却費とメンテナンス費が中心となる。初期投資額、耐用年数、稼働率にどの数字を採用するかで、経済性評価は変ってくる。恣意的にならないよう、現行技術の経済性については資源エネルギー庁のHPの数字を基にしている(そもそも資源エネルギーが恣意的だとの見方もあるが)。
また、発電システムを語るとき、異なるシステム間での効率の比較をしているのを見かけるが、これは意味を持たない。現状の効率と理論効率の間の差が意味を持つ(効率アップとそれによるコストダウンの余地がある)。
適切な再生可能エネルギーは地域(国)によって異なるが、日本を念頭に置いて技術的に目処が立ち、現時点で採用されている太陽光、風力、バイオマスについてコメントする。
(本命は太陽光発電)
再生可能エネルギーの中で、発電効率の向上の余地が最も高い。問題は2つ
- エネルギー密度が低い(面積当たりの発電量が極めて小さい)
これはモジュール、システムの改良により、向上の可能性がある(最大で現状の2倍程度か)。
FITによる国家の補助により、本来は経済的に会わないレベルの太陽光発電(中国産がメイン)が溢れた。その結果、革新的技術の開発意欲が薄れた。
発電素子は50年以上の寿命があることは確実だが、付帯設備の寿命が短いものがあり、導入20年程度で廃棄問題が発生している。また、景観を損ねると言うことから大面積の太陽光発電システムには反対も多い。 - 意のままにならない。お日様任せで、人間の意思でコントロールできない。これの解決策は火力または水力によるバックアップ、もしくは蓄電システムである。
太陽光、風力等の再生可能エネルギーを主電源とするとき、その気まぐれさを補うレベルの蓄電システムはかなりハードルが高い。また、どんな蓄電システムであれ、蓄電、放電時の変換効率とシステム構築の投資によって、主電源そのものの発電コストより大幅に高くなる。バックアップ電源にしても出力調整、間欠運転が必要となり、コストアップは否めない。
蓄電システムの開発と蓄電によるコスト上昇をカバーできるだけの発電効率の向上が求められる。
(夢物語)
炭酸ガスの資源化(植物がやっていること)が出来れば、そのエネルギー源として太陽光の余剰電力、または太陽熱を使うという道がある。炭酸ガスは水と同様に最もエネルギーが低い状態にあり、資源化には外部からエネルギーを与える必要がある。時々、炭酸ガスを原料にして何か(大抵はポリカ-ボネート)を合成したという記事を見かけるが、必要なエネルギーについては触れられていない。
これが可能になれば、太陽光と火力で電力を補い、火力で生成した炭酸ガスは太陽光エネルギーにより資源化するという理想的なエネルギーシステムが出来上がる。小生の存命中には到底実現しないが。
(風力)
夜間発電が可能な点は太陽光に勝るが、意のままにならないのは同じ。
理論上の上限から考えて、発電効率アップの余地は少ないので、コスト低下の可能性は限られる。
ここに来て注目を浴びている洋上風力となると無理筋を感じる。陸上での適地が少ない日本で風力発電をするためにはこれしかないといったところか? 詳細は知るところではないが、建設費やメンテナンス費については陸上に比べ高くなるのは間違いないと思われ、FITやFIP等の補助無しに成り立つとは思えない。
(水力)
発電効率は高いが、向上の余地は殆ど無い。
現状の技術レベルでも経済的には適地さえあれば、新設でも成り立つが、ダム建設に対する根強い反対勢力の存在を考えると実現は困難か?
小規模水力は水利権を別にすれば経済性が最大の問題であろう。水力発電はスケールメリットが大きい。(太陽光、風力にもスケールメリットがあるがそれぞれの制約から水力ほど大きくない)。揚水発電は立派な蓄電システムであるが、量的にメインの蓄電システムとなることは難しいだろう。
(バイオマス)
バイオマス(発電)がカーボンニュートラルというのは半分フェイクである。
カーボンニュートラルであるためには以下の条件が必要である。
a.発電(燃焼)と同じレベル(量、時間)の植樹が行われること
量的なリンクは不可能ではないが、時間的なリンク(成長速度に合わせて燃焼)はあり得ない
b.伐採から燃焼までのプロセスでエネルギーを必要としないこと
これはペットボトル等のリサイクルが省エネになるのかという議論と類似
間伐材等、別目的で伐採されたものをエネルギー源として使うのはカーボンニュートラルと言える。伐採された木は燃やさなくても何時の日か炭酸ガス或いはメタンの発生源となる。