ミステリ小説にはときどき、something that keeps you awake at midnight などと言う表現が出てくる。主人公(つまり、多くの場合、いいやつ)はここで何か、解決のヒントを得たりするんだが、寝る直前、風邪対策に飲んだ高清水が多すぎたかな、などと思っているうちに、ふと気がついた。退職して丁度20年が経過した、という事実である。20年。十年一昔が2回。これは事件ではないか。
HPと横河電機との合弁会社に勤務してから、創立者ヒューレットとパッカードの経営哲学と、直接話をしたのは数回に過ぎなかったがその人間味とがそのまま僕の会社人としての基盤になっていた。その経営手法は HP Way と呼ばれてその存在と堅実な業績がHP社を常に America’s Best Companies という優秀会社リストのベスト10入りを約束していた。しかし皮肉なもので、HP社の拡大そのものが足かせになり、HPWayはグローバリゼーションなる魔物の前に形骸化して行く。経営数字だけが我が物顔に徘徊する俗称エクセルマネジメントという現実の前には実践は困難となり、言ってみれば歴史教科書の初めに登場する聖徳太子の詔のようなものに棚上げされていった。
変な野心や夜郎自大の驕りを捨て、のんびり過ごすさ、という帰結であり、それはよきKWVの仲間との時間を生きる、ということだった。世の中の多くの場合、旧交を温めるということはただ単に good old days への回顧だけに終わるのだろうが、僕らが恵まれているのは、同期や先輩のみならず、現役時代には知り合うこともできなかった後輩たちとの交流、すなわち現OB会を通じて常に何か新しい知識や刺激を得ることができることだ。最近の新しい仲間はすでに孫世代、それより若い世代になる。彼らにとってはうるさい、時代遅れの老人とのつきあいとしか思えないだろうが、いずれ、彼らも同じ境遇になるということで勘弁してもらって、ここではただ、日々、新たに生まれる友情に感謝をするだけだ。改めてこの組織を作られた妹尾さんの決断とそれを支えられた森田さんをはじめとする創業時の方々に深甚なる敬意と感謝をささげたいと思う。