(中司発 檄文!)金藤メモによれば、22日金曜日BS3チャンネルシリーズ、”三人の名付親”、ジョン・フォードの最高傑作です。以前に西部魂の宣伝をしましたが、あれとはまた別ジャンルのセーブゲキです。お見逃しなく。
クライマックスの砂漠の嵐の中の彷徨、運命を知って自ら命を絶つ ペドロ・アーメンダリッツ は後年、癌を宣告されて本当に自殺しますが、ウエインの癌も多分このころ、米軍の原爆実験で汚染されたネバダの砂漠でかかったのだろう、といわれています。余計なことを書きましたが、それは別として、フォードロマンの結集と言える作品、ウエインの親友だったワード・ボンドが演じる保安官もいいし、ハリーケリー・ジュニアも好印象のいい映画です。母親役のミルドレッド・ナトウイックはちょっと老けすぎですけど、モーリン・オハラじゃ逆に
きれいすぎたんでしょうね。なんせ初期フォード一家の総出演です。見てよ!
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(小泉)冒頭「ハリー・ケリーの思い出に献ぐ。彼は古き西部の空に輝ける星であった。」との献辞で始まる。西部劇俳優ハリー・ケリーが死んだのは、1947年このエーガ完成の1年前。ジョン・フォード監督は、ケリー主演で、26本もの作品を撮り、お互い得るところがあったにしても、ケリーと組むことによって地歩を築いたことであろう。
ピーター・B・カインの原作は「恵みの光MarkedMenn1919」としてケリー主演で映画化、それ以前にも、1916年エドワード・ラ・セイント監督ケリー主演で、その後もウイリアム・ワイラー監督「砂漠の生霊1929」、リチャード・ポレスラブスキー監督「地獄への挑戦1936」が作られ、この「三人の名付親 1948」は5本目と言われている。
主演の3人は、ご存知ジョン・ウエイン、メキシコの大スター ペドロ・アルメンダリス、ケリーの長男ハリー・ケリーJr. (これまで「ローリング・ホーム」「追跡」「赤い河」に出演歴はあるものの、フォード作品は初めてで、これが認められて、その後フォードの9作品の名脇役として、欠かせぬ存在となった)。素晴らしい記憶力から出演したフォード作品全ての役者、スタッフの姿を臨場感あふれる筆致で「ジョン・フォードの旗の下に(高橋千尋訳)」に描いている。
物語りはアリゾナ州境の町ウエルカムで、三人の男が銀行強盗を働き、砂漠へ逃れ、幌馬車の中に産気づいた女と遭遇、無事出産したものの、女は三人の名、ロバート・ウイリアムス・ペドロ・ハイタワーという名付親として子供を残し死んでしまう。名付親三人は赤ん坊を抱き、ニュー・エルサレムを目指し、ワード・ポンド扮する保安官一行が追う。背中を撃たれていたケリーJrは途中で死に、アルメンダリスも足を折り銃で自殺。ウエインは、空からの二人の声に励まされ、ニューエルサレムへ辿り着く。
クリスマス興行用と言われるくらいに、聖書を基に、東方三博士をテーマに教示的な言葉が随所に登場、西部劇というよりは、ヒューマニズム溢れる人情ドラマで、射ち合いは、最初の銀行襲撃時のみ。音楽は「駅馬車」のリチャード・ヘイゲマン。駅馬車が走るところで、そのテーマが流れたり、メロディに近い音楽が流れる。最後の酒場でのピアノ弾きはヘイゲマン自身だそうだ。歌手志望だったケリーJrの歌も二曲聴ける。音楽もだが、砂漠のシーンはカリフォルニア州モハビ・デザートで撮影されたとのことで、砂嵐の場面を初め、砂漠を中心に、その景観が素晴らしい。死んだ妊婦を砂山に埋葬するシーン、照りつける荒野に死に行くケリーJrや赤子のために帽子で影を付けるシーン等々。撮影が、「黄色いリボン」「静かなる男」でアカデミー受賞のウイントン・ホーク。セリフのやりとりでも印象的な場面に何回か遭遇した。最初と最後にウエインとポンドの名前に対してのやりとり。保安官の家に立ち寄った時、表札のBe Sweetを眺めウエインが大笑い。最後の審判で、ウエインの本名ロバート・ママデユーク・ハイタワーを呼ばれた時のポンドの大笑い。アルメンダリスが足を折り、もう歩けないと悟った時のセリフ、コヨーテが怖いから銃を置いて呉れという自殺するのを知りつつ渡すウエインの切なさ等々。後年アルメンダリスが癌を患い本当に自殺したとは、信じられない。
いずれにせよ人間の善性の輝きを歌いあげてのエンディングで、甘いと言えば甘いが幸福感に満たされるヒューマンな西部劇だった。最後の判決、1年1日というのはよくわからない。見送りに来た女性、冒頭に出た銀行頭取の娘か?ウエインと一緒になるのを暗示させる。
(小田)皆様の詳しい解説にはとても助けられました。激しい撃ち合いも無く、少し安心して観ていられました。銀行強盗をしようとしている男達が、保安官の奥さんからのコーヒーを外で頂くシーン、次に会ったのが銀行の頭取、なかなか貨車に乗り降りしないロバ、面白い駅のオバチャン、赤ちゃんに一生懸命な大の男達etc.楽しく観ました。やさしい3人の名付け親達全員生きていて欲しかったです。
(安田)キリスト教徒であれば物語が聖書に則ったことはすぐ分かるのであろうが、宗教色はそれほど強くなく、むしろ穏やかに優しく物語が流れていく。マッチョでたくましい大男ジョン・ウエインが小さな乳飲み子を抱えている西部劇は見るだけでほほえましい。今まで祈ったことがないような無法者が、無垢な赤ん坊を守るうちに聖書の言葉に心が動かされていく過程が見どころのひとつだ。
脇役で光っていたののは、ジョン・フォードのファミリー一家と言っても良いほどのジョン・ウエインの盟友・名脇役 である、ワード・ボンドである。この機会に数えると、「静かなる男」「駅馬車」「拳銃の町」「ダコタ荒原」「アパッチ砦」「捜索者」「リオ・ブラボー」などでジョン・ウエインの名脇役を演じている。更に「ヨーク軍曹」「我が家の楽園」「風と共に去りぬ」「怒りの葡萄」「マルタの鷹」「素晴らしき哉、人生!」「荒野の決闘」など名画あるところに名脇役ワード・ボンドありで、大変楽しませてもらった。肥満気味であったが1960年57歳の早過ぎる鬼籍いりであった。
(小川)素敵なエーガでした。小泉兄の名解説を読んだ後で観たのでより素晴らしかったです。
“西部劇というよりは、ヒューマニズム溢れる人情ドラマで、” 実にその通りでした。これはKWV必見ですね、情景については勿論非常に美しかったですが、砂漠での砂嵐は志賀高原のホワイトアウトを思い出し、バックに映える連山は安曇野から見る北アルプス、幌馬車はテント・食当、コンデンスミルクは非常食、水場探しは南アルプスで苦労したのを思い出させます。
駅馬車を思い出すバックミュージックもよかった。
“ロバート・ウイリアムス・ペドロ・ハイタワー、あばよ” のウエインはまだ若かったね。
(金藤) Giさんの「見てよ!」のお勧めです、観ました!西部劇?でこのような展開は初めてです!三人のゴッドファーザー、 優しかったですね!
ペドロ・アルメンダリスは良い俳優さんだと思いましたが、メキシコの大スターでしたか!ハリー・ケリーJr.の歌、もう何曲か聴きたかったです。
それにしても荒野の砂嵐は激しかったですね、TVで観ているだけでも眼がシバシバです!
(編集子)ジョン・ウエインはハリウッドで下働きをしているところをラオール・ウオルシュに見いだされ、 Big Trail に主演して西部劇俳優としてスタートし、ジョン・フォードがかの 駅馬車 に抜擢、その後西部劇のキング的存在になるのだが、フォード監督による作品は アパッチ砦・黄色いリボン・リオグランデの砦 といういわゆる騎兵隊三部作、リバティバランスを射った男 捜索者 騎兵隊 それとこの 三人の名付親 だけである。ウエイン西部劇、といえば1920年代からあるのですべてあげるのは不可能だが、我々の年代では ほかにも 赤い河 エルドラド スポイラース チザム リオ・ブラボー 勇気ある追跡 エルダ―兄弟 ウエインの遺作になった ラストシューティスト などなど数多い。ただこれらの作品の監督は ハワード・ホークスとかヘンリー・ハサウエイ、それと後半には親友だったヴィクター・マクラグレンの息子、アンドリュー・マクラグレンなど、大まかに言ってしまえば大作・活劇的なフィルムを得意とする人たちで、作品そのものにもアクション、派手なガンプレイなどの、言ってみれば西部劇の代名詞、といえるファクタが前面にでてくる。それだけに上記のフォード作品(と、主演はフォンダと違ったが小生にとってのベストフィルム 荒野の決闘 を加えて)との差というか隔たりは明確である。小泉さんはヒューマンな西部劇、という表現をされたが、どれをとってもこの形容詞はフォード―ウエイン作品に共通するものだろう。
またこの作品も、フォード一家、といわれた常連が顔をそろえているのが楽しい。わき役陣に騎兵隊三部作などの常連だったヴィクター・マクラグレンがいないのが寂しいが、ベン・ジョンスンもきっちり顔を出している (なおもう一人、名前が確定できない常連がいるのでご存じの方があればご教示願いたいのが、この作品ではラバの扱いで苦労し最後はウエインを護送する役の禿の老け役、赤い河 にも出たし、捜索者では先住民のとの戦いで正気をなくしてしまい、いつもゆり椅子に座っていた陽気な老人を演じた人)。ハリー・ケリー親子については上記小泉さんの文章に詳しいが、かの 赤い河 で苦労の末、アビリーンにたどり着いたモンゴメリ・クリフトと牛の取引をする親分的人物がハリー・ケリー・シニアであったことを付け加えておこう。フォードはこの先輩に敬意を表して、作品の名前を思い出せないがほかでも同じような役で出演してもらっている。このアビリーンという町は本作品ではその息子のジュニアが強盗をやって手配を受けている、という設定になっているのが面白い。西部に鉄道ができた初期は開拓の最前線だったところで、ほかにもダッジシティとかツームストーンやサンタフェ、エルパソなどと並んで西部劇ではおなじみだ。
小泉報告にあるように駅馬車が来る場面ではずばり ”駅馬車” の有名な主題歌のメロディ(原題は Bury me not on the lone prairie ということになっているが、例によってウイキってみるとさらにそのもとは Ocean Burial という水夫の歌らしい。ま、どっちにしても良いものはいいやね)) が流れるが、この作品での主題的旋律は ジョニー・キャッシュも歌っている Street of Laredo である。この歌詞は ラレドの街で白い布に覆われた若いカウボーイの葬列に逢った ということから始まる。負傷がもとで死んでしまうハリージュニアにかぶさって響いてくる旋律だった。歌詞はこういうで出だしではじまる。
As I walked out in the street of Laredo,
as I walked out in the street of Laredo one day
I saw a young cowboy wrapped in white linen
Wrapped out in white linen as cold as the clay ……
小生が高校時代、初めて聞いたのは当然キャッシュではなく、もう少し古いものだったと思うが、すり切れた古いSPからスクラッチノイズと一緒に流れた旋律がとても印象に残っている。聴いた時の精神状態にもよるのはもちろんだが、なんともいえない哀愁が突き刺さる旋律だった。