(保屋野)5回目の「カサブランカ」、ビデオでじっくり観ました。脚本、俳優、音楽と3拍子揃った、やはり、名作中の名作ですね。でなければ、5回も観ません。
今回、初めて気がついたことがあります。私は、これまで、戦後に制作された映画だと思っていましたが、何と戦争中に制作されたのですね。ネットによると、アメリカ参戦直後に制作された、ドイツを悪者にした「プロパガンダ」映画でもあるそうです。ですから、当然、モロッコ~カサブランカでのロケは無理なので、実際は、アメリカで撮影されたようです。もう一つ。当時カサブランカはフランス領で、ドイツの傀儡・ビシー政権の管轄下にあったものの、実質的なトップであるドイツ軍少佐が何故警察署長に遠慮して?(お尋ね者)のラズロを即逮捕できなかったのか、少々疑問。
ニヒルなボガードと美しいバーグマン、そして、黒人のピアノ弾き、日和見・警察署長、太った顔役、ラズロ役・・・皆、個性あふれる俳優でした。特にラストシーン「(賭に負けた)1万フランは2人分の飛行機代に」という署長のセリフが憎いですね。
(金藤)遅ればせながら「カサブランカ」初めて観ました。評判通り、とてもよかったです。
イングリッド・バーグマンの美しさは言うまでもなく、ハンフリー・ボガートは美男ではありませんでしたが、男らしく格好よかったあ。
雨の中 駅でバーグマンを濡れたトレンチコートを着て待つ姿、最後に飛行機を見送る時に着ていたよれよれになったトレンチコート。
トレンチコートが彼の心の内を語っているのでしょうか?格好いい男性のトレンチコート姿は、こうでなければ!と思いました(編集子注:申し訳ないけど、俺だってもう30年は着てるよ。アナタやミッキーと毎日顔を合わせてた頃はどうだったか、記憶にないけど)。
台詞回はお洒落で、昔の恋人と再会して、俺たちにはパリがある なんて言えますか?流れる曲も、ピアノ弾きのシーンも、ラ・マルセイエーズの合唱も良かったです。最後もホッ、しみじみ・・・ 良い映画でした。
君の瞳に乾杯
Here’s looking at you,kid
と書きたくなる 気持ち大変良くわかりました。
(小田)名画なので本当にいろいろなセリフがシェクスピアのことばのように使われているのですね。保屋野さん君の瞳に乾杯……のお言葉ありがとうございました。でも目も若くはなくなってきましたので、
“ゆうべはどこにいたの?”
“そんなに昔のことは覚えてない”
“今夜会ってくれる?”
“そんなに先のことはわからない”
が最近には近いかと。
(安田)主題曲 「アズ・タイム・ゴーズ・バイ(As time goes by) – 時の過ぎゆくままに 」 は素晴らしい。監督は、後年ハンフリー・ボガートが主演した映画 「俺たちは天使じゃない」 1955年でもメガホンを執ったハンガリー出身のユダヤ人マイケル・カーティス。公開は1942年。同じ年にチャップリンのサウンド版 「黄金狂時代」 とゲーリー・クーパーがヤンキースの不世出の野球選手ルー・ゲーリックを演じた「打撃王」 が公開。全米脚本家組合 (Writers Guild of America) が「歴史上もっとも優れた映画脚本ベスト101」 というリストを発表していて、第1位に 「カサブランカ」、第2位 「ゴッドファーザー」、第3位 「チャイナタウン」、第4位 「市民ケーン」。ちなみに、「ゴッドファーザーPart2」 10位、「アラビアのロレンス」 14位、「アパートの鍵貸します」 15位、「ショーシャンクの空に」 22位、「風と共に去りぬ」 23位。アメリカ以外の映画は選考に入ってない。
体制側であるはずの植民地警察の署長がイルザと夫ラズロの逃亡を見逃す飛行場のシーン、阿吽の呼吸で逃亡を助ける協力をしたボガートが署長役のクロード・レインズへ、「 美しい友情のはじまりだな 」 (This is the beginning of our beautiful friendship) と言いつつ満足げに並んで立ち去るシーンには爽やかな男気を感じ清々しい。
名セリフの多い映画だが、特に印象的だったのは 空港で別れ際にリックがラズロに向かって言う 「昨夜イルザが私のところまで来ましてね。出国ビザの件です。手に入れるために、まだ私を愛していますとまで彼女は言いました。でもそれはずっと昔のことです。あなたの為についた嘘ですよ」。このセリフを背中で聞きながら、イルザは涙を拭っている。ハイライト場面のひとつだ。
他にも名セリフが目白押しだ。今でも忘れえない幾度も出てくる名セリフ 「Here’s looking at you, kid] は特に有名だ。直訳すると「君を見ていることに乾杯!」 という意味だが、名和訳 「君の瞳に乾杯!」 が誕生した。末尾のkid は若者、若いの、子ども、という意味だが、ボガートとバーグマンは実年齢16歳離れているので、ここでは親しみを込めて「ねえ、きみ」 くらいの感じであろう。映画制作当時、ボガート43歳、バーグマン27歳。 この 「君の瞳に乾杯!」 のシーンは映画を通して4回出てくる。
さらに名セリフは続き、「昨日はどこに? そんな昔のことは覚えてない」 「今夜会える?そんな先のことはわからない」。 ルノー署長はリックの出国の意図を聞いて彼へのセリフ 「寂しくなるな。俺よりハレンチなやつがいなくなる 」。 ラズロのリックへのセリフ 「私はいい。彼女を助けてもらいたい。彼女と一緒にカサブランカを出て欲しい。私だってそれほど妻を愛している」、リックのイルザへのセリフ 「愛しているから。だから行って欲しい。君は彼の一部なのだ」。 正に会話のアクション映画である。
(編集子つけたし)
ロック・ハドソンが主演した トブルク戦線 の冒頭に、保屋野くんが言及しているヴィシイ政権下のフランスの状況がちょっとだが出てくる。第二次大戦のヨーロッパ解放についてはノルマンディ侵攻(映画で言えば史上最大の作戦)がいつでも出てくるが、歴史家リック・アトキンソンによると、北アフリカ戦線に投入されたアメリカ軍がドイツの名将ロンメルを制し、アフリカからイタリーへ転戦(有名なアンツィオの激戦を舞台にしたのがヴァン・ジョンソンの 二世部隊)、勝利したことが欧州の運命を決定したのだそうだ。この北アフリカ侵攻が始まったのはカサブランカのすぐ北、アルジェリアの海岸からで、この映画の背景になっているように中立国への逃避や亡命を図った人たちはどういう立場にあったのだろうか。また、ドイツの敗北を決定づけた英米両国の主脳会談がおこなわれたのもカサブランカであったし、そういう意味からも興味がある映画だ。
フィルムの持つ雰囲気、そのほかについてはあえて言うまでもない名画!