乱読報告ファイル (7) スウェーデン発ミステリシリーズ  (44 安田耕太郎)

推理小説はほんのかじるほどしか読んでいない。読んだのはコナン・ドイル、アガサ・クリスティー、エラリー・クィーンなどの英米作品と江戸川乱歩、横溝正史、東野圭吾などを少々である。そんなミス冒には門外漢の僕が10年ほど前「ミレニアム」(Millennium) を読んで惹き込まれた。会社勤めの現役中であったが、久方振りに夜更けまで本から目が離せなくなるほど面白かった。

 北欧ミステリーブームの火付け役となったのが、スウェ―デン人作家スティーグ・ラーソンの処女推理小説「ミレニアムシリーズ」だった。作者のラーソンは全10部の構想を持っていたが、第1部の出版を待たずして2004年心筋梗塞で急逝。亡くなった時、彼のパソコンには第4部の4分の3ほどに相当する原稿が残されていた。死後の2005年に「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」、2006年に「ミレニアム2  火と戯れる女」、2007年に「ミレニアム3  眠れる女と狂卓の騎士」が出版され、世界的大ヒットを記録しながらも絶筆のため第3部をもって完結した。

スウェ―デンでは「読まないと職場で話題についていけない」と云われるほどの人気を博し、3部シリーズ合計で国の人口の40%に当たる380万部を売り上げるベストセラーとなった。30か国以上で翻訳出版され、既に6000万部を超える大ヒットとなっている。日本には2008年から2009年にかけて早川書房から出版され、大きな話題となった。読んでおられる人も多いと推察する。

シリーズ3部とも上・下巻からなり、1部当たり上・下併せて900~1,100ページに及び3部合計すると3,000ページを超える大作だ。ミレニアムは1千年の期間を意味する言葉で、大袈裟な題名だと身構えたが、主人公が勤める出版社の月刊誌名であった。

巻頭の複雑な家系図、紹介されている登場人物の多さに驚く。しかもスウェ―デン人の名前なので覚えにくい上に、舞台となる地名もスウェーデン国内の各地で馴染みは全くなく怯む。登場人物紹介ページと家系図を頻繁に参照しつつ何度もあと戻りしながら読み進めていかざるを得なかった。が、エンジンがかかるとアクセルの踏みっぱなしで10日間ほどで全3部を続了したと記憶する。

月刊誌「ミレニアム」の発行責任者である主人公ミカエルは大物実業家の武器密売を暴く記事をスクープ発表したが、名誉棄損で訴えられ裁判で敗訴し全財産を失う。そんな失意の折、スウェ―デンを代表する富豪から家族の失踪事件の調査依頼を受ける。解決すれば、大物実業家を破滅させる証拠を渡すという交換条件で彼は依頼を受諾し、困難な調査を開始する。40年前に行方不明になった16歳の少女のことであり、一族の誰かに殺されたという。複雑な失踪事件の膨大な資料を調べる一方、富豪一族の謎にも分け入るが、助手が必要と感じた彼は、背中にドラゴンの入れ墨(タトゥー)を入れた女性調査員リスベットの協力を得て二人は調査を開始する。リスベットは富豪から頼まれてミカエルの身辺調査をしていて二人は知り合ったのだ。

二人の調査で明かされる忌まわしい事実、幾重にも張りめぐらされた深まる謎、愛と復讐。スウェ―デンと聞いて思い浮かぶのは、ボルボ、ABBA、IKEA、福祉国家、自由恋愛、金髪碧眼、ノーベル賞などの柔らかいイメージであるが、小説は人身売買、強制売春、拉致、殺人、巨大な陰謀、闇の組織・公安警察特別分析班などが複雑に絡み合い、あらゆるミステリーの要素を織り込んだ波乱万丈の物語と登場人物のユニークな素晴らしさに圧倒される。なかでも印象的なのが、タトゥーをした女性調査員リスベット。特異な風貌をしているが、ガラスのように繊細な心を持ち、超一流のハッカーでもあり情報収集に長けている。現在では良く知られた「ハッカー」だが小説を読んだ10年前当時では馴染みがなく、将来を予見するかのような「ハッカー」の不気味さだけが印象深く残っている。全編を通して彼女の危機と活躍に一喜一憂させられると同時に、主役の二人ミカエルとリスベットの時には二人三脚、時には相克する絡みにも堪能させられた。

ストーリ―を説明するのは膨大複雑すぎて無理であるが、その面白さに、途中で本を閉じることが出来ず、夜更かしする日が続いた。「ミレニアム3部作」は是非お勧めの本である。

「ドラゴン・タトゥーの女」は2011年映画になり、観に行った。が、多くの映画と同じで面白い原作本には足元にも及ばなかった。ミカエル役が007ボンド役で知られたイギリス俳優ダニエル・クレイグ、リスベット役はルーニー・マーラ。彼女は「グラディエーター」、「ジョーカー」でアカデミー主演男優賞のホアキン・フェニックスのパートナーで一子を授かっている。スウェーデンではテレビドラマ化され、久米行子さんは先ずそれをケーブルTVで、それから書籍を読み、最後にハリウッドで制作された映画を観たがスウェ―デン制作のTVドラマは原作に忠実に映像化していて面白かった記憶が鮮明で、ハリウッドのリメイクは全く面白くなかったと言っている。スウェ―デンのTVドラマと書籍の後では特にそう感じられれたのは頷ける。

なお、第3部で絶筆して完結したが、同じスウェ―デン作家のダヴィッド・ラーゲルクランツが続編として3作書き、それぞれ2015年、17年、19年に出版されたが、こちらは未だ読んでいない。

ウイキペディアから転載

スティーグ・ラーソン(Stieg Larsson 英語: [stiːɡ ˈlɑrsən]、本名:Karl Stig-Erland Larsson スウェーデン語: [ˈkɑːɭ ˈstiːɡ ˈæːɭand ˈlɑːʂɔn]1954年8月15 – 2004年11月9日)は、スウェーデンジャーナリスト及び作家。彼は推理小説ミレニアム」3部作を執筆したことで最もよく知られており、死後に出版され、映画化もされた。ラーソンはストックホルムでその人生の多くを過ごし、ジャーナリズムの分野や極右について研究する独立研究者(ラーソンは反極右の立場である)として働いた。

彼はカーレド・ホッセイニに次いで、2008年に世界で2番目に売れている小説家であった。「パブリッシャーズ・ウィークリー」によると、「ミレニアム」の第3部「眠れる女と狂卓の騎士」は、2010年にアメリカで最も売れた本になった[2]2015年3月までに、彼のシリーズは世界中で8000万部を売り上げている