要はなんといっても年齢のせいに違いないのだが、3日前、風呂場で体をひねったら腰に激痛が走った。翌朝になっても治らないので近くの整形外科へ行って、骨に異常はないことを確認、例によってシップ薬を処方された。こうなると早くても3日はまともに生活できないとあきらめて、ベッドで気楽に読める本を、と思って大沢在昌の本を2冊、買ってきた。
大沢は日本のハードボイルド作家の中で高く評価されている人だが、今まで、”新宿鮫“ シリーズの1冊しか読んだことはなかったのでいい機会だと思った。”新宿鮫“ は舘ひろし主演でTVドラマにもなった大沢の代表作だが、この ”狩人“ もシリーズキャラクタ本で人気が高いらしい。
”冬の狩人“ はかなり入り組んだ謎解きの部分があり、ミステリとしての重みもあるが、なんといってもテンポの良い文体が気に入った。ハードボイルド、というのは一つの ”書き方“ のジャンルではあるけれども、必ずしも ”ミステリ“ である必要はない。主人公の生き方、事の処し方が徹底的に主体的であり、文体とそれが生む一種の乾燥した雰囲気、そしてそれがもたらす人生に対する透徹した諦観が響いて来る作品、というのが僕の定義するHB文学だと思っているのだが、この作品とついでに買ったもう一冊、”悪魔には悪魔を“ を2日かけて読了して、まず感じたのはスピード感のある大沢の文体のすばらしさだ。
ポケットブックの裏表紙に書かれる宣伝文句のなかに “読みだしたら最後、終わるまでこの本を置くことは不可能です” といったのがよくある。正直、そんな気になった経験はあまりないのだが、この ”冬の狩人“ はそもそも読み始めた動機がいわば不純でたいした期待ははなから持っていなかったのだが、結果的には2冊とも、朝食を済ませてゴロゴロした後ベッドに寝て、朝寝をして昼飯を食べてまた寝転がって、という体たらくのほぼ5時間で、たしかに本を置く気にはならなかった。その理由は謎解きやストーリーの展開、ではなく、スピーディな文体にはまってしまったからだと思う。ミステリ、である以上、筋を書くのは控えておくけれども、大沢作品をこれからも読んでいこうという気になった。日本のHB作家でぼくのイチオシは前にも書いたが原尞、なのだが、この人はなんといっても寡作なので、ここ数年、新著は出てこない。まったく逆に大沢は多作な人なので、本を入手するには問題はないようだ(その分、今回のようにぴったりはまる作品にうまく当たるかどうか、という懸念もあるのだが)。