エーガ愛好会 (336) 国宝    (44  安田耕太郎)

3ヶ月ほど前に教皇の死、次期教皇の選挙と時期をいつにするように映画「教皇選挙」が上映された。 複雑な「根比べ」を要する選挙はコンクラーヴェ(concalve)と呼ばれ話題となり、劇場にて興味深く鑑賞した。鑑賞録をブログに投稿したかと思う。その後、間もなくして公開された映画「国宝」は久方振りに大人気を博した日本映画の大作で前評判が頗るよく映画館に足を運んだ。予約席を確保するのに1週間以上を要して、前人気を裏付ける盛況ぶりであった。

任侠の世界に生まれた喜久雄(吉沢亮)は15歳の時、父親を抗争で亡くし、天涯孤独となる。喜久雄の天性の才能を見抜いた上方歌舞伎の名門の当主花井半二郎(渡辺謙)は喜久雄を引き取り、喜久雄は思いがけず歌舞伎の世界に飛び込むことに。花井家には喜久雄とほぼ同世代の花井の跡取り息子・俊介(横浜流星)がおり、二人は兄弟のように育てられ、親友としてお互いに高め合い、芸に青春を捧げて成長していく。だが、厳しい芸と伝統と血統を重んじる歌舞伎世界では二人はライバルとして宿命づけられ、やがて二人は運命の綾に翻弄されていくことになる。

喜久雄役の吉沢亮は2021年のNHK大河ドラマ「晴天を衝け」で主役の渋沢栄一を、親友だがライバルとなる俊介役の横浜流星は今年度の大河ドラマ「べらぼう」で主役の蔦屋重三郎を演じ、当代きっての旬な人気若手俳優が主役と相手役として映画に於いて芸と存在感を競っている。歌舞伎の芸に青春を捧げ切磋琢磨して成人して暫く経ったあるお日、名門の歌舞伎役者である当主花井半二郎が事故で入院する。病室で半二郎は代役に花井の跡取りであるはずの息子の俊介でなく、喜久雄を指名する。血縁より芸を選んだ歌舞伎の世界では稀有な半二郎の判断に驚愕し、呆然とする二人。二人の運命は大きく揺るがされていく。

映画「国宝」は公開からわずか31日(5月末)で観客動員数319萬人。興行収入45億円を突破し、まさに空前の社会現象となっている。封切られて3ヶ月以上経つが、依然として上映されている。

歌舞伎は東銀座の歌舞伎座に数度足を運んで観たことがあるが、素人の域を出ない門外漢。映画を観て、先ず驚いたのはインターミッションなしに3時間ぶっ通しであること。映画館で観た映画の長編大作でインターミッションがあったのは、ずいぶん昔の「ベンハー」「十戒」「七人の侍」「赤ひげ」「黒部の太陽」などがあったが、最近3時間の長編を休憩なしで上映する映画はないと記憶する。3時間があっという間に過ぎるほど引き込まれたのは面白かったからに他ならなかったからだろう。映画の題名「国宝」は、名前の通り仰々しい大向こうを唸らせねばならない宿命を負った映画でなくてはならない、とは思う。それほどの映画なのであろうか?観終わってから考えたが、正直よくわからない。人間国宝は、芸能と工芸技術の2つの分野があり、2023年10月までに認定された芸能分野の人間国宝は、死去された者を含めて述べ203名。内、歌舞伎分野では25名。生存する歌舞伎人間国宝は、① 七代目「尾上菊五郎」(妻は富司純子、長女の寺島しのぶが映画「国宝」に渡辺謙演じる花井半二郎役の妻の役で出演している。なかなかの名演だった)、② 十五代目「片岡仁左衛門」、③ 五代目「坂東玉三郎」(女形役者)の3名のみ。これ程の希少価値があるのが人間国宝だが、それに値する映画だったのか、出演者の演技だったのか、監督の演出だったのか、舞台装置・衣装だったのか・・・、正直よくわからない。二度目を観に行くことを思案中である。