エーガ愛好会 (282)アルカトラズが舞台の映画  (44 安田耕太郎)

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アルカトラズを舞台にした3本の映画のことについての話をしたい。      1本は純粋に娯楽アクション映画の「ザ・ロック」(The Rock)1996年公開。2本目と3本目は共に史実を基に重厚で見応えがあった。1本は脱獄を描いた「アルカトラズからの脱出」(Escape From Alcatraz) , 監督ドン・シーゲル、主演クリント・イーストウッドの1979年の作品。この映画は最近NHK BSで放映されたので久し振りに再び観た。もう1本は、アルカトラズは1934年からアメリカ合衆国連邦刑務所となり’63年に閉鎖されたが、閉鎖のキッカケになった事件を基に描いた重苦しいが迫力ある映画だった「告発」(Murder In The First)

閉鎖されたアルカトラズは、10年後の1973年歴史的建造物として一般公開されて人気ある観光地となって今日に至っている。一度訪れたことがあるが、囚人収容規模は450人の監獄・独房がそのまま遺っていて、臨場感ある迫力はなかなかのもので実際使用されていた当時の模様を容易に想像させ, 可視化させてくれた。収容フルキャパの450人に対して実際に収監された囚人は250人を超えることはなかったという。アルカトラズは別名ザ・ロック(The Rock)と呼ばれるが、島のサイズは150m  x  500mほどの大きさで、岩盤の小高い丘になっている。文字通り、The Rock (岩山)だ。湾のその辺りは潮流が速く、海水温も低く、脱獄に成功しても生きては外部の世界に辿り着けれないだろうと言われていた。サンフランシスコ市内北端から2.5km離れた湾の中ほどに在る。島の歴史は1850年にアメリカ陸軍がこの島に要塞/城塞を建設したことに始まった。軍が1933年に軍捕虜の収容所として使用するが、やがて連邦刑務所となった。下図、左の縦に走る線は「金門橋」。右(東)へ橋を渡るとオークランド市(Oakland)だ。
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かの有名なマフィアのボス、アル・カポネは1932年に収監されたが梅毒の悪化で、’39年ロサンゼルスの矯正介護施設に移され   そこで刑期終了後1年先まで過ごす。刑期満了で出所したが、身体は著しく蝕まれ1947年、48歳で死去。

映画の話。「The Rock」はショーン・コネリー主演。”ザ・ロック”ことアルカトラズ島を占拠してVXガスをサンフランシスコに撃ち込むと政府を脅迫する元アメリカ海兵隊の将軍が率いるテロリスト(エド・ハリス)を阻止する

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FBI特別捜査官(ニコラス・ケイジ)と英国のM16の伝説的スパイ(ショーン・コネリー)奮闘を描いた映画。「007」や「ダーティーハリー」の映画のように単純に勧善懲悪の迫力ある大活劇を愉しめる映画。

映画「告発」の原語題名(Murder in the First)1995年公開は、第一級殺人の意。アルカトラズ刑務所こそが第一級の殺人として、糾弾されるべきではないかと言う意味(意図)が込められた題名ではないだろうか。

アルカトラズ連邦刑務所での過剰な虐待を告発し、同刑務所を閉鎖に追い込んだ実話を基にして制作された映画。ストーリーの詳細は割愛するが、収監された囚人(ケヴィン・ベーコン)と彼を弁護する弁護士(クリスチャン・スレイター)

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の渾身の迫真演技には目を見張った。刑務所長を演じた英国俳優ゲーリー・オールドマンは「ウインストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」2017年公開、でアカデミー主演男優賞を獲得した名優。弁護士、囚人・刑務所長、三者三様の名演技には度肝を抜かれた。観る価値ある素晴らしい映画だ。

「アルカトラズからの脱出」は「ダーティー・ハリー」シリーズで大当たりをした監督ドン・シーゲルと主演クリント・イーストウッドの最後のコンビとなった映画。脱出不可能と言われた刑務所から脱獄した実話を基にしている。“事実は小説より奇なり”で、脱獄を企てたイーストウッドが演じた囚人のアイディアと実際の手練手管は、独房の通気口を利用するというものだったが、映画でも描き切れていないほど巧妙で意外性が他にもあったのかも知れないとさえ思う。1962年、脱獄した3人の生死は不明で、今日まで62年経ったが、米国内どこにも何の痕跡もない。過酷な湾から陸地に到達して逃亡したのだろうか?謎は残っている。
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刑務所は一年後の1963年閉鎖された。閉鎖を決定したのはロバート・ケネディ司法長官。JFKの弟で1968年大統領候補として遊説中、ロサンゼルスのホテルで凶弾に斃れた。同じ年、僕は太平洋を渡りロサンゼルスに入っていた。強烈な印象がいまだに残る。閉鎖されたもう一つの大きな要因は、サンフランシスコから近いとはいえ、海に浮かんだ島。水・食料・燃料などの供給は船に頼り、荷下ろしを含め効率が悪く非経済的。また、地震の多い地域に位置していて、海の潮風もあり建物・設備の老朽化と劣化が早く、修繕費と維持費が予想より多く馬鹿にならない。これも閉鎖せざるを得なくなった大きな理由の一つであった。

Alcatrazは、18世紀、サンフランシスコを最初に開拓したスペイン人がこの島を「La Isla (島)de los Alcatraces」と名付けた。スペイン語で「ペリカンの島」という意味だ。これが英語風に短縮されて「Alcatraz」となった。
挙げた3本の映画を観れば、アルカトラズが位置する地理、直面していた諸問題が理解できると思う。特に「告発」アルカトラズからの脱出」は必見だ。脱獄を描いた映画では、この映画と「ショーシャンクの空に」(The Shawshannk Redemption)が双璧だと思う。第二次世界大戦時代の脱獄を描いた映画を加えると、スティーブ・マックイーンの「大脱走」(The Great Escape)1963年とウイリアム・ホールデンの「第十七捕虜収容所」(Stalag 17) 1953年を挙げたい。