真昼の決闘と ”クーパー” のはなし    (36 大塚文雄)

先日、映画「真昼の決闘」(High Noon)をNHK・BSで観ました。主役は人気絶頂時のGary Cooper (ゲイリー クーパー)、ヒロインはまだ無名のGrace Kellyです(後にモナコ公国の公妃)。

私事ですが、1991-1993の2年間アイルランド政府商務庁で勤務していました。NHK・BSを観ながら、アイリッシュウイスキーの日本向け輸出支援するために、ウイスキーABCの勉強と、醸造所を訪問したことを思いだしました。 思いだすままに、いくつかのウイスキー小話を書いてみたいと思います。ご興味のある方は頭の体操として読み進んでください。

  1. Cooperは「桶屋」とか「樽造屋」であることを知ってビックリ

「真昼の決闘」を観た高校生のときから芸名と思っていたCooperが、実は「桶屋」とか「樽造屋」を意味する一般名詞であると説明を受けてビックリしました。

ウイスキー造りにはウイスキー樽が不可欠です。小さいながらも数百もの醸造所が存在するようになった18世紀後半のアイルランドでは慢性的に樽数が不足しCooperの獲得が喫緊課題となり、成人男子全員がCooperの村があちこちに出現したそうです。ウイスキー造りが盛んだったスコットランドやイングランド東部でも同じだったとのことです。

Gary Cooperの父親はイングランド出身のMr. Charles Cooperです。両親がアメリカに移住しなければGary Cooperも樽造屋さんになっていたのかもしれません。

追記:Charles Cooper夫妻がアメリカに移住した年は不明です。AIに訊ねたら「チャールズ・ヘンリー・クーパーは、1924年に家族と共にアメリカに移住した」と答えてくれましたが、「ゲーリークーパーは1901年アメリカ合衆国モンタナ州出身の俳優」という別の情報と矛盾します。樽造りであるていどの蓄えを作った父親が、一旗あげるために、1890年代に米国に移住したと推測しています。

”クーパー”さんたちの仕事ぶりです
  1. スコッチとアイリッシュはバーボン熟成に使った空樽を再利用している

つめて言うと、ウイスキーは醸造したアルコールを木の樽に入れて3年以上熟成したものです。アイルランドもスコットランドもオーク材を使って自国で樽を造っているとばかり思っていましたが、1970年あたりからアメリカからバーボン醸成に使った後の空樽を輸入して、傷んだところを修理しながら使いまわしていると聞いてビックリしました。

キッカケは1964年成立のバーボン法で、バーボン原酒の熟成には新しい樽を使用する義務が生じたことだそうです。アメリカで空樽を安価で入手できるようになり、Cooperの成り手が少なくなったアイルランドとスッコトランドが輸入・再利用するのが一般化したそうです。伐採するオークの木も減らせて、三方良しです。(ダブリンにある修復作業場で私が撮った写真を添付してあります)。

記:AIに訊ねたら次のように答えてくれました。「日本ウイスキー樽の多くは日本国内で生産されています。特に、ミズナラ(ジャパニーズオーク)を使用した樽は日本特有のもので、日本国内の蒸溜所で製造されています。秩父蒸溜所や山崎蒸溜所などがその代表例です」

3.アイリッシュは3回蒸留しスコッチは2回蒸留な純度が違う

アイルランドとスコットランドがウイスキーの発祥地と言われていますが、アイルランド商務庁によると、蒸留回数がアイリッシュは3回、スコッチは2回が一般的でアイリッシュの純度が高く、これが「セールスポイント」だそうです。

  1. アイリッシュが世界一の座を失ったのは米国の禁酒法がキッカケ

蒸留回数が3回で質の良い「アイリッシュ」は20世紀初頭までウイスキーの代名詞だったそうです。特に19世紀半ばのジャガイモ飢饉以降沢山のアイルランド人が移住したアメリカでは、絶対的な強さだったといいます。

そのアイリッシュがスコッチにその座を奪われた理由は、アイルランド商務庁の説明によると、アメリカの禁酒法(1920-1933年)、二度にわたる世界大戦、イギリスからの独立など人為的原因が重なったことのようです。中でも打撃が大きいのは、海外の米軍基地のPXやバーでスコッチが優勢になったことで、第二次世界大戦以降はスコッチがウイスキーの代名詞になったそうです。

5.「BUSHMILLS」(ブッシュミル)が現存する最古の蒸留所

アイルランドの最北端に、1608年に創業の「BUSHMILLS」(ブッシュミル)という蒸留所があり、現存する世界最古の蒸溜所だそうです。まろやかさに引かれて、アイルランド在住時に好んで飲んだものです。

日本にも輸入されていて、ボトルラベルに「Since 1608/Tripled Distilled Finest Blend/World’s Oldest」(祖業1608年/3回蒸留/世界最古)と印刷されていています。輸入元はアサヒビール株式で、十分な根拠があるものと思います。

(編集子)数年前、英国旅行を試みたとき、ブッシュミルの醸造所に行った。樽のことまでは頭が回らなかったが、いいところだった。ウイスキーに詳しい人は大勢いると思うので、今晩あたりは樽のことなど思いを至らせたらいかが。