エーガ愛好会 (209) 抜き打ち二挺拳銃 (34 小泉幾多郎)

オーディ・マーフィー(1925‾1971)主演の西部劇の放映とは珍しい。

マーフィは第二次大戦中、アメリカ陸軍の軍人として多数の勲章を受章し、戦後は俳優に転じ、20年以上に亘り40本以上の映画に出演した。この映画の題名通りのB級西部劇や戦争映画が殆んど。戦争体験の自伝に基づく「地獄の戦場 To Hell and Back 1955」が有名で、戦争映画の傑作とも言える。B級西部劇は、どれを観たかよく覚えていないが、結婚した女優ワンダ・ヘンドリックスや「大いなる西部」のパール・アイヴスが歌とギターを奏でながら共演した「シェラSierra 1950」は覚えている。

また純主演よりも「夜の道Night Passage1957」でジェームス・スチュアートの弟、「許されざる者The Unforgiven1960」で、バート・ランカスターの弟と重要な役柄を演じていたのが印象に残る。何れにせよ、ベビーフェイスの童顔で小柄だが、きびきびした演技で日本人好みのタイプだったかも知れない。今回も黒い帽子、黒い革ジャンに二丁拳銃は格好良い。ただ戦争で、あれだけの武勲を立てながらも、戦闘自体が彼の精神を蝕み、悪夢に悩まされ、ギャンブル癖もあったらしい。最後は飛行機事故で46歳の若さで亡くなった。

 この映画の監督は、あの「ダーティ・ハリー」で名を馳せたドン・シーゲルの若かりし頃の作品だけに、マーフィーの動きと共に、全体的に溌溂とした動き、テンポの良い展開で最後まで退屈しなかった。カリフォルニアのシルヴァーシティ付近は砂金採掘場への採掘強奪ギャングがはびこる状況下、その町の保安官タイロン(スティーヴン・マクナリー)と採掘していて父親を殺されたルーク・クロムウエル(オーディ・マーフィー)とギャングたちとの対立を描き、其処に、タイロンとルークを慕う女性ジェーン・ダスティ・ファーゴ(スーザン・キャボット)とギャング団の首領の妹オパール・レイシー(フェイス・ドマーグ)を絡ませる。保安官タイロンの右手が、最初の戦闘で撃たれ右手で引き金が引けなくなるのがミソで、最後強盗団首領ロッド・レイシー(ジェラルド・モーア)とタイロンとの決闘シーンに、ルークがこのままではタイロンがやられてしまうことを察知、タイロンの右手を射ち、決闘を取り上げた形で、首領ロッドとの決闘に持ち込み、ロッドを倒すのだった。

(飯田)
BSシネマで「抜き打ち二挺拳銃」を私も見ました。
小泉さんの名解説、今回は特にオーディ・マーフィの前歴に関する部分で大変参考になりました。
この映画は典型的な二流(B級)西部劇だと改めて思うと共に、その二流たるところが、今になって新鮮で面白かったです。先ずは強盗団と、それに対する保安官に伴われる民衛団(オーディ・マーフィもこの一員)が、共に、騎馬隊で追いつ追われつ西部の荒野を駆け抜ける。
次に、武器は拳銃のみで、ライフルも勿論、機関銃も出て来ないところが理屈っぽくなく単純に痛快で楽しめたというのが印象でした。

(編集子)初めのタイトル部分をよく見なかったので、タイロン役がだれだか最後まで分からず、調べてみてスティーヴン・マクナリと知ってびっくりした。今までこの人を意識してみたいくつかの作品では、本稿で取り上げた中でも ウインチェスタ銃73 のように、ほとんどが悪役だったからだ。

オーディ・マーフィについて小泉さんの解説を補足すると、映画でわかるように身長は166センチ、体重は50キロと、米国人としては非常に小柄だった。大学へは行けなかったため兵として陸軍に応募し、退役したときの階級は中尉だというから軍人としてのキャリアは抜群、当時 ”我が国で最も多い勲章を受章した軍人”とされ、勲章の中にはフランスのレジオン・ド・ヌールもあるという。こういうことはデビュー当時から知られていたが、映画俳優としてはヒット作に恵まれないまま、航空機事故で亡くなってしまった。そういう意味では ケイン号の反乱 で期待されながら早逝してしまったロバート・フランシスを思い出すような存在だった。

この作品のバックドロップになる砂金探しはゴールドラッシュの定番で、イーストウッドの ペイルライダー に細かく描写されている。