米国の対中国政策について (4)

(つづき)

3.力による平和の維持 Preserve Peace through Strength

2018年制定の国家防衛戦略(訳注 National Defense Strategy, NDS)では、長期にわたる中国との競合を最優先とし、中国人民解放軍の技術的向上、戦力展開及び国外でのプレゼンスと発言力の増強に対抗する近代化と他国とのパートナーシップが強調されている。核戦略レビュー(訳注 Nuclear Posture Review)に挙げたように、本政権は三元戦略核戦力(注 地上、潜水艦、長距離爆撃機という3種の核発射能力をいう)を主眼とし、中国の大量破壊兵器やそのほかの戦略的攻撃を抑止するため、これに伴う各種の能力の近代化を推進している。あわせて、われわれは中国指導部と一堂に会し、核兵器の近代化と拡大、また世界最大の中距離ミサイル群の削減について協議していくことを要求している。すべての国々にとって北京政策の透明度の向上、誤解による偶発の防止、膨大なコストのかかる武器増強を避けるために望ましいと考えるからである。

一方、国防当局は超音速の機体整備、サイバーおよび宇宙空間に関する投資、さらに強力で順応性に富みかつコストのかからない運搬手段の開発を続け、北京の拡大を続ける野心的行動をいましめ、中国軍の技術レベルの向上拡大を抑止しようとしている。

世界での航行の自由を確保するため、我々は中国の覇権主義と過剰な要求を断固として退け続ける。米国海軍は、国際法が認める限りにおいて、南シナ海を含む海域での航行の自由を主張し続け,この地域にある友好諸国とパートナーが、北京政府の軍、準軍事組織および警察組織による強制的問題解決と対抗する能力を保有することを支援していく。これに関連して、米国は2018年度は中国軍を隔年ごとに実施してきたパシフィックリム演習への招待をしなかった。中国が高性能のミサイルシステムを南シナ海の人工島に設置したことへの対応である。

NDSの中核の一つが同盟国やパートナー国との強力な提携関係である。米国は提携関係の強化とあわせて、武器などの共通化(訳注 interoperability)を深化させることで戦闘現場での確実性(訳注 combat-credible forward operating presence)を高め、これら同盟諸国との高度の融合によって、北京のいかなる攻撃も排除できる能力を構築している。通常兵器移転政策 (Conventional Arms Transfer policy)では、米国製兵器の各国への整備を促進して提携各国の戦闘能力が戦略的かつ補完的に機能するように変革されることを期待する。

また、2019年の国防省による初めてのインド太平洋報告(Indo-Pacific Report)には、NDS戦略をこの地域にも展開することが明記されている。

長い間にわたり、米国は台湾と非公式ではあるが強固な盟友関係にある。これは台湾関係法(訳注 Taiwan Relations Act)および米中間に交わされている共同宣言に基づいた”中国一国主義であり、米国は台湾海峡に関する論議はすべて平和裡に両国人民の意志により、いかなる脅威も強制にも依らずに解決すべきとする姿勢を堅持してきた。しかしながら北京政府はこのコミュニケの精神に違反し巨大な戦力の増強を行ってきており、その結果としてわれわれに台湾にしかるべき自衛を可能にし、地域の安定のためにする援助を継続せざるを得なくなっている実情である。1982年、当時のレーガン大統領は台湾支援の軍事援助の量、および質は中国の対応によってのみ決定される“と述べており、2019年度における台湾への武器援助の規模は100億ドルを超える額に上っている。

米国の基本方針は従来通り、中国との間に建設的かつ目に見える関係を維持することである。すなわち、我が国と中国間の防衛に関する接触の範囲は戦略目標を伝達し、それによって事故の発生を制御して、危機を招くに至るような誤解や偶発を予防して双方に関係のある地域の不安定化をはかることにある。このため、軍事当局は中国軍部との間に、万一の危機発生時に実行のあるコミュニケーションメカニズム、想定以外の問題が発生した時その不拡大に役立つ即効手段の維持に努めている。 

4.米国の影響の維持拡大 Advance American Influence

過去70年にわたって、自由で開かれた国際秩序は独立した主権国家の繁栄とかつてない経済成長をもたらしてきた。広大かつ先進国のひとつであり、この秩序の大きな受益者である中国は、地球上の各国がこの恩恵を受けられるように積極的にかかわるべき立場にある。しかしながらもし北京政府が権威主義、自己検閲、腐敗、重商主義経済、倫理や宗教の多様性の否定などを押し通すならば、米国はこのような悪意ある活動に抵抗し、それに対抗するよう、国際的活動を先導するであろう。

2018年と2019年、米国ははじめて宗教の自由に関する聖職者会議(訳注 Ministerial to Advance Religious Freedom)を主宰した。2019年9月に開かれた国連総会(UNGA)において大統領は宗教の自由の保護に関する地球運動(訳注 Global Call to Protect Religious Freedom)という異例のよびかけをおこなった。これらの会合によって、各国の宗教指導者が世界中で起きている宗教迫害行為に対する非難の声をあげることになったのである。2回の会合において米国と同志国は共同声明を発表し、北京政府に対してウイグル人およびトルコ系イスラム教、チベットの仏教徒及びキリスト教徒そのほかの宗教信徒への抑圧と迫害を撤廃するよう呼びかけを行い、2020年2月には米国国務省は同様の考え方に立つ25ケ国と史上初の国際自由宗教連盟(訳注 International Religious Freedom Alliance) を結成し、個人の信教の保護を訴えた。大統領は2019年の聖職者会議の時間を利用して中国からの脱出者や生存者と面会し、総会においては中国の宗教迫害の犠牲者とともに登壇もした。このほか米国政府は人権保護活動者や中国内外で活動する市民団体への支援を継続して推進する。

2019年10月、米国は同志的な国々と共同で中国がチワン自治区で継続している人権侵害そのほかの抑制行為が国際平和と安全保障を脅かすものと非難声明を出した。これに続き、米国政府は特定の中国政府機関と監視技術会社がチワン自治区の人権侵害行為に共謀してかかわっていたとして米国からの輸出を禁止、中国関係者とその家族が北京政府の国際人権という公約違反に責任があるとしてビザの発行を停止し、同自治区で強制労働によって製造された製品の輸入の禁止を開始している。

米国は中国の軍事および技術を駆使した権威主義にわれわれの技術が使用されることに対して、毅然とした原理に基づく反対行動をとる立場であり、同盟諸国やパートナー諸国の賛同を得ている。この方向に沿って、急速な技術変化に合わせ、中国が民間製品の軍用目的への転用をはかって、企業に安全保障や情報サービスの提供を強制していることに対応する政策を用意しているのが現状である。

これまでに述べたいろいろな方策は、第二次大戦後の国際的制度の基礎となる価値体系や規範を遵守するという米国の公約を明確にしたものである。米国は中国の内政問題にかかわるいかなる欲求も持たないが、中国がその国際的公約や責任ある行動から逸脱したとき、、特に米国の国益にかかわる場合には率直にこれを糾弾してゆくであろう。例えば、わが国は香港の将来は米国の国益に重大な関心を持つ。およそ8万5千人の米国市民、および1300を超える企業が香港に居住しているからである。大統領、副大統領、国務長官はたびたび北京政府に対して1984年の英中共同宣言と香港における高度の自治、法治の原則、民主的自由の順守を呼びかけてきた。これらの事項は香港が国際的商業及び金融のハブとして存在し続けるために必要だからである。

米国はインド太平洋地域においても、企業活動の自由と民主主義の統治の推進役の任務を果たす覚悟である。2019年11月、米国、日本、オーストラリアはブルードットネットワーク(訳注 Blue Dot Network)を創立した。このねらいは透明な財政基盤と高度に品質の高いインフラストラクチュアを世界各国の私企業の主導によって確立していくことにあり、インド太平洋地域だけでほぼ1兆ドルにのぼるアメリカ企業の投資を実現する。同時に国務省はインド太平洋地域戦略、自由インド太平洋:共有目的の推進報告(訳注 A Free and Open Indo-Pacific: Advancing a Shard Vision)を刊行し、我々の同地域での統一戦略の詳細な結果報告を行っている。 

結論  Conclusion

本政権の中国に対するアプローチの根幹は、米国の、世界最大の人口稠密国であり世界第二位の経済を有する国家の指導者に対処する方策を、最も基本的な立場から再評価した、ということに尽きる。米国は長期にわたる戦略的競合が二国間に生じていることを認識する。

全政府一貫体制のもと、NSSに明示されたように基本的な原点に回帰し、米国政府は国益と米国の影響力を守り続ける。しかし同時に、両国の国益が共有できる限り、建設的でひらかれた、成果重視(訳注 results-oriented)の協力体制には門戸を閉ざすことはない。我々は中国指導者に敬意を払い、冷静な方法を通じて、中国がその公約を果たすよう説得してゆくであろう。

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われわれが脅威と感じている軍事面での対決はどのようなことになるのだろうか。6月20日づけ週間東洋経済誌に笹川財団の主席研究員 小原凡司氏が書かれている記事の一部を抜粋しておく。

”価値観の対立が引き金 現実になった米中 “新冷戦”  より抜粋

(前略)米国のギアチェンジを示すのは言葉だけではない。米国は、軍事的にも本気で新冷戦を戦うモードに入ったようだ。米国が次々と米ソ冷戦後の信頼醸成の枠組みから撤退しているのである。

5月21日,ポンペオ国務長官は米国がオープンスカイ条約から撤退する方針を表明した。同条約は欧米の旧東西陣営が相互に査察飛行を認めるものである。中国を抑え込みたい米国にとって、中国が加盟しない同条約に意味はない。そもそも戦略情報を相互に提供する枠組み自体が、米国にとっては過去のものなのだ。軍事的にも中国と対立する米国は、戦術情報の収集にシフトしている。

また、トランプ政権は18年10月にINF(中距離核戦力)全廃棄条約離脱を表明し、翌年8月には同条約は失効した。米国が地上発射型中距離ミサイルを開発・整備すれば、戦術核兵器における中国の優位は失われる。そのため、中国は核戦略の見直しを迫られている。米国にとって米ソ冷戦後の信頼醸成の枠組みは現状に適さない。米ソ冷戦後の世界は終わり新たな米中の冷戦が始まっているのだ。

米国の対中国政策について (3)

(つづき)

政策の実行   Implementation

大統領のNSSに示されたとおり、本報告があきらかにした政治、経済、安全保障政策はアメリカ国民と郷土を守り、米国の繁栄を拡大し、国の強さを通じて世界平和を維持して海外における自由と開かれたビジョンを推進するものである。本政権は当初3年間、ここに示した中国に関連する政策の実行に関して着実な成果を上げることができた。

  • アメリカ国民、領土、アメリカ的生活様式の保護 Protect the American People, the Homeland,and the American Way of Life

米国司法省の中国問題対策(訳注 China Initiative)及びFBIは、企業秘密窃取、ハッキング、産業スパイ行為を主な対象とした調査を行い、国家インフラストラクチュアやサプライチェーンへの不正な外国人投資や米国政府の方針を妨害するような動きを除去するために引き続き努力を続けている。例えば、司法省では中国国有のメディア会社CGTNアメリカに対し、外国企業登録法(訳注 Foreign Agents Registration Act, FARA)の規定に基づいた登録をするよう指導した。同法に依れば登録者には業務の内容を連邦当局に報告し、発行物には適切な識別をする義務があり、CGTNアメリカもこれを了承したという。

中国共産党による米国国内のプロパガンダに対して、本政権では悪意ある行動を明示し、あやまった情報は訂正して透明性を保つように指導している。またホワイトハウス、国務省及び司法省など米国当局者は米国民に対して中国共産党が我が国の自由かつオープンな社会制度を悪用して、米国の国益や価値体系を傷つけようとしていることを理解するように教育してきているが、一方、互恵主義の観点から、中国外交官に対して連邦および州政府要員や学術団体に事前に届け出を要請することにしている。

また政府では、北京が米国の学術団体において各種委員会などの運営に携わるような行動(訳注 co-optation)を従来の産業スパイや誘導行為などの域を超えて中国市民または関係者に強制している事実に注意するようよびかけるとともにそのような行動を阻止するための努力をしている。また大学当局と連携して、米国キャンパスにおける中国人学生の権利を保護しながら、中国共産党のプロパガンダや偽情報の拡散に対応する情報を提供し、米国学術環境における倫理綱領への理解を求めてもいることを挙げておこう。

現時点で中国人学生は全米の外国人学生中最大の勢力になっているが、これら学生や研究者の貢献はまた顕著なものがある。2019年現在、その数は史上最大のものとなり、一方では中国からの学生ビザ取得の拒否件数は着実に減少してきている。米国は開かれた学術的交歓を強く支持しており、外国人学生による適法な範囲における研究活動の成果は高く評価する立場を堅持しているが、一方では少数ではあるが身分を偽ったり、悪意を持って入国しようとする中国人学生を事前に探知するためのプロセスの改善を急いでいる。

米国の研究開発関係者の中で、国立健康研究所(訳注 National Institute of Health)やエネルギー省では、活動の透明性を維持するとともに利益相反行為を防止する目的で規定されている行動要領や報告形式を明確化する規則や手続きを制定しているし、国立科学技術会議(訳注 National Science and Technology Council)の合同委員会は連邦予算で行われる開発に関する標準や推奨する行動基準を定めた。また国防省は開発依頼先が中国の人材募集プログラムと関係することを禁じているが他方、国外からの研究者を増やしていくことも行っている。

さらに米国内の情報システムに対する海外から不正なアクセスを防止するため、”情報通信システムおよびサプライチェーンの保護” および ”テレコミュニケーションシステム分野への外国からの参入審査のための委員会の設置“ について大統領令が発令された。これら法令の実施によって、特定の企業が外国の競合相手からの照会に答えたり関係を持って米国政府、私企業、個人から、私的あるいは機密の情報を提供することを未然にふせぐことができる。また、世界規模でわれわれの情報、すなわち機密の軍事及び関連情報などを保護するため、政府は同盟諸国やパートナーあるいは多面的な会議体などと協力して安全かつ強固な、地球規模の情報経済の根幹をなす、信頼度の高い情報基盤の確立を図っているし、中国に責任ある国家としての行動をとらせるため、同盟国、パートナー国と協力して、不正なサイバー攻撃の確定、あるいはまたは回避する行動をとっていることを指摘しておく。

さらに外国投資リスク検証法案(訳注 Foreign Investment Risk Review ModernizationAct)を準備し、米国内外国投資委員会 (訳注 Committee on Foreign Investment in theUnited States, CFIUS) の権限を強化、従来担当範囲に含まれていなかった投資制度の悪用による国家安全保障への悪影響に対処する。この範囲に該当するものとして、米国内の革新的技術に小数株主として参加し、中国軍の近代化を図る、などということがあげられる。

米国政府は輸出管理規定を改定したがその重点は北京指導のMCF(前記 軍民混淆体制)を通じて超音速技術,量子コンピュータ、人工知能、バイオテクノロジー、そのほか開発途上にある基礎技術に関する情報の逸脱を防ぐとともに、同盟諸国やパートナー国にも同様の外国投資のスクリーニングや多面的な制度会議体などを通じた輸出規制法制の整備をよびかけている。

米国の消費者を中国製のにせものや低品質製品から守るために具体的な方策も実施されつつある。2017年から2018年にかけて国土安全保障省が摘発した中国製の偽造品は5万9千件、金額にして21億ドルに上る。これはほかの国からの輸入されたものの5倍に上っている。衣料、靴、ハンドバッグや時計など有名ブランドの偽造品だけではなく、米国税関や国境警備隊は3度にわたって5万3千丁の中国製銃器および電子部品の不正輸入を摘発した。これらが米国の企業、個人の安全を脅かし、プライバシーを侵害しかねないことはあきらかである。また、関係各機関は高濃度の汚染物質、バクテリアや動物の排泄物などを含むものも発見されている中国偽造の薬品や化粧品について、標準を定めて取り締まりを行っている。

米国は中国側の該当機関と協力して、違法である中国製フェンタニール(訳注 鎮痛剤の一種)の米国向け輸出を撲滅する努力をしてきた。2018年12月、大統領は中国の責任者から、中国においてあらゆる種類のフェンタニールを管理するとの通報を得た。2019年に中国側の法的規制が実施され、以来両国の法的執行機関は協力して中国の麻薬製造業者や密輸業者を排除するための法規制を進めてきており、あわせて、中国の郵政機関とともに小型郵便物の監視についても同様な努力を継続しているのである。

  • アメリカの繁栄の維持   Promote American Prosperity

中国の不正かつ目に余る貿易及び産業秩序に対する行動が明らかにされたことに基づき、政府は米国の企業、労働者、農業従事者の保護と、米国製造業の空洞化を引き起こした北京の政策に対応する毅然とした対応を決定し、米国・中国間の経済的関係のバランスを取り戻すことを確約する。われわれは政府の全力を集中し、公正な貿易を支援して米国の競争力を高めることでべく国の輸出を促進する。また、米国の貿易及び投資に対する不正な障壁を取り除く。2003年以降続けてきた、公式な、ハイレベルの対話を通じて経済上の公約を求めてきた北京の説得が失敗に終わった結果、我が国は中国の市場規範を無視し、製品に関税の形式を利用してでコストを上乗せする方法で技術や知的財産の簒奪を図ってきた中国に正面から対抗する。ここにいう関税は米中両国が公正な第二段階について合意するまで存続させる。

我が国が中国に対して市場慣行を破壊する域に達するまでの政府の補助金政策や過剰生産を削減、あるいは排除すべく繰り返し要請してきたにもかかわらず、改善がされないため、米国は自国にとって戦略的に重要な鉄鋼とアルミニュウム産業の保護を目的として輸入税を課すことで対応してきている。これら中国側の不公正な貿易慣行はWTOにおける調停の対象事項であり、複数のケースについて係争し、勝訴してきた。結果として、商務省は中国の広範囲にわたるダンピングや補助金行為について前政権を上回る規模で米国アンチダンピング法ならびに相殺関税法の適用を認める断をくだした。

2020年1月、米国と中国は経済及び貿易に関する第一次の協約に署名した。これは中国側の経済貿易慣行の構造的改革と関連する変更を促し、長期にわたって懸案となってきた米国側の関心事項に対処するものである。本協約によって、外国企業が中国において事業を行う前提として技術移転を強制すること、すべての重要領域において知的財産の保護を強化しそれを遂行すること、中国内での米国の農業および財政関連事業の展開に関する障壁を除去して市場を開放すること、及び長期にわたって中国が展開してきた通貨の不正な規制の除去、などが要求されているほか、実効ある早期の実施を監視確約するための強力なメカニズムを設置した。このような構造的貿易障壁への対処とその公約の全面的実現のため、この第一段階にあっては米国から中国への輸出の増加を拡大させる。中国は米国からの商品およびサービスの輸入金額を四つの領域、すなわち工業製品、農産品、エネルギーおよびサービスの分野において、今後2年間2千億ドル以上増加させることとしていて、よりバランスの取れた交易関係の推進と、米国の労働者に対して公平な機会を創出するという意味で画期的な試みと言える。

国内対応の面では、本政権は米国経済の強化と将来の産業分野、たとえば5G技術などの強化を税制度改革と堅固なディレギュレーションによって実行していく。そのいい例が ”人工知能分野における米国リーダーシップ確立“ に関しての大統領令は、米国政府の先導によって投資と協力を推進し、米国がイノベーションと経済成長のモデルであり続けるための好例であろう。

また、同じ考えを持つ諸国との協力を通じて米国は国家主権、自由市場、継続的成長を基盤とsる経済ビジョンを推進していく。EUおよび日本との間では、国家保有企業、産業補助金、技術移転の強制、などについて、三者間の堅固なプロセスを構築して必要な規範を制定しつつあり、あわせて、差別的な産業標準が世界標準となることを防止するため、各国との協議を継続する。世界最大の良質な消費財市場であり、最大規模の外国直接投資対象であり、地球規模での技術的革新の源泉でもある米国は、同盟諸国やパートナーと一致協力して挑戦を共有し平和と繁栄のための実効ある対応を強力に推進する。米国企業との協力という面では、例えば プロスパー・アフリカ計画(訳注 Prosper Africa),中南米におけるアメリカクレーセ (訳注 America Crese)、インド太平洋にあっては 開発成長促進計画(訳注 Enhanching Develpiment)などの安定的な行動の支援などを通じて国内および国外での競争力強化を図っている。

米国の対中国政策について (2)

(つづき)

 2.われわれの価値観に対する挑戦 Challenges to our values 

中国が世界に広めようとしている価値観は、アメリカ人をかたちづくっている個々人の生命、自由、そして幸福を追求する希求は何人も犯すことができないという信条に対する挑戦である。現在の中国共産党はその政治システムが ”西欧に定着している制度よりも優れたものだ”、という主張を拡大している。北京はみずからの制度がイデオロギー論争において西欧のそれにまさっているのだ、という主張を明言していて、2013年、周主席は中国共産党に対し、この二つの競合する制度の間の ”長期にわたる協力と衝突“に備えよとの指示を出し、”資本主義は消滅する運命にあり、社会主義が必ず優位に立つ“ と宣言した。

周主席は2017年、中国共産党の目標は中国を総合的国力と国際社会への関与の面で指導的立場に立たせることであり、その基盤が中国的社会主義制度であると述べた。その制度とは、マルクスレーニン主義の北京的解釈と国家主義的、一党独裁主義の結合であり、国家主導による経済、科学技術の展開であり、そのために個人の権利を中国共産党の目的に隷属させることだ。この方針は米国および同様の価値観を持つ多くの国々の代議制政府、企業の自由活動、個人が生まれながらに有する尊厳と価値という原則と相いれるものではない。

国際社会において中国共産党はこの周主席の主張を、地球規模の統治を ”全人類が共通の進路を共有する社会の創設“ なるスローガンのもとで推進している。しかし国内において統一したイデオロギーを強制する試みは、中国共産党指導による社会組織が現実には混乱していることを示している。たとえば、

  • 腐敗撲滅のキャンペーンの名目による政治的反勢力の追放
  • ブロガー、市民活動者、法律家などの不当な弾圧
  • 機械的に計算された論理(訳注 algorithmically determined)にもとづく民族的・宗教的少数者の逮捕拘留
  • 情報、メディア、大学、企業や政府機関の検閲行為の厳重な制御
  • 市民、企業、各種組織団体の監視と社会的信用の評価
  • 反政府分子とみなされた人々の一方的な拘留、拷問、虐待

などである。国内の思想統一行動の驚くべき例として、地方政府が焚書活動を行って、“周思想”への同調ぶりを宣伝したことなどがあげられるだろう。

このような北京政府による統制行動の悲惨な副産物が新疆自治区における、2017年に始まった、百万を超えるウイグル族やそのほかの人種的・宗教的小数グループの思想教育収容所への拘留がある。ここでは強制労働、イデオロギー教育、肉体的・心理的虐待が行われてきたし、これらの収容所の外も警察国家として組織されていて、少数民族を監視し、中国共産党への従属を監視するために、人工知能やバイオテクノロジ―などの先端技術が使われている。宗教的迫害はさらに幅広く、キリスト教、チベット仏教、イスラム教やそのほかの宗派に対しては、無害の信者の逮捕、教義の放棄の強制、教義の伝統にしたがった育児の禁止、などさえ行われている。

中国共産党によるイデオロギーの強制は国内だけにとどまらず、最近では中国政府は他国の国内的問題にも介入してその思想に同調させようとしている。中国共産党は世界規模でその影響を拡大し、最近では、米国、英国の企業活動やスポーツ団体、オーストラリアや欧州諸国の政治機関に接近を図っている。また、中国の持つ技術を利用した権威主義(訳注:techno-authoritarian)を輸出し、権威主義的政治を行っている諸国の市民統制や反対勢力の監視などへの利用、政治宣伝や検閲技術の教育訓練、大衆把握に役立つ大量データの集約方法の使用などを推進しようとしているのである。

中国の党独裁政治は世界一重厚な宣伝ツールを制御していて、北京からの発信は国営テレビを始め印刷物、ラジオ、オンラインなどを通じていまや米国や全世界に氾濫している。外国メディアへの投資がどのくらいあるのか、中国共産党は秘密にしているが、2015年ににはチャイナラジオインタナショナルが外国団体を介して14か国で33のラジオ放送局を支配していること、複数の仲介組織を通じて北京寄りの情報を無料で提供していることが判明している。メディアのほかにも、中国共産党は多くの俳優を起用して米国やそのほかの自由諸国への浸透を推進していて、党の共同戦線(訳注 United Front)組織およびそのエージェントは米国をはじめ各国の企業、大学、シンクタンク,学者、ジャ―ナリストさらに地域や州さらには連邦などの行動に影響を与えて、中国共産党内部に対する外圧の抑制をはかっているのである。

北京は中国国民や関連者に対して、米国の国家及び経済的安全にさらには学界における自由や米国研究開発部門の誠実性(訳注 integrity)さをゆるがすような悪質な行動を継続的に行っている。その例として、技術、知的財産の不当な流用、外国企業との関連性の秘匿、契約及び秘密保護の不正流用を通じて国家予算の研究開発事業への有効な配分を妨害してきた。さらに北京は中国系市民に中国学生の監視を強制し、中国の政治的意向に反した活動に反対運動を行わせ、しなければ、米国教育制度の最大の特質である学問上の自由を束縛すると脅迫さえしている。

さらに党のメディア諸機関、ジャーナリスト、学者、外交官の米国における活動には自由が保障されているにもかかわらず、北京は米国の相当機関に対して相互的な活動を認めていない。政府は駐中国大使を含む米国の高官が、国務省管轄の米国文化センターへアクセスすることさえ、たびたび拒否することがある。これらの場所は米国文化を中国市民に啓蒙する目的で中国の大学が主宰しているものなのである。また、中国共産党について取材しようとする外国人記者は、しばしばいやがらせや脅迫を受けているのが現実である。

3.安全保障への挑戦  Security Challenges 

中国の国力が高まるに連れ、中国共産党がその利益に反すると考える潜在的な脅威を排除し、その戦略的目標を世界的に推進しようという意思と能力も力を得てきた。中国指導者が唱えてきた、脅迫や力づくの行為は行わない、他国の内政に干渉しない、論争の解決は平和的解決による、などと公言してきたことと北京の言動はまったく一致していないのである。北京の言動はその論理に反し隣国に関する自らの約束を軽視して、黄海、東および南シナ海、台湾海峡,中印国境などにおいて軍事・準軍事組織(訳注 paramilitary)による挑発的かつ脅迫的な行為に出ている。

2019年5月、国防省は議会に報告書を提出した。この”中国に関する軍事・安全保障状況(訳注 Military and ;Security Developments Involving the PRC)”は中国の軍事技術的展開、安全保障および軍事的戦略、人民解放軍(訳注 People’s Liberation Army PLA)の組織および運営概念などの現状と今後の展開軌道についての報告である。2019年7月、中国国防相は一帯一路構想は中国人民解放軍念願の海外展開と連携していることを公式に認める発言をした。その対象には太平洋諸国やカリブ海諸国がふくまれているのである。

北京の軍事的増強は米国および同盟諸国の安全保障意識を脅かすとともに世界経済やサプライチェーンに対する複雑な挑戦を意味する。北京の軍民混淆体制(訳注 Military-Civil Fusion MCF) は人民解放軍が先端技術の開発や習得をはかる国家所有及び私企業、大学、そのほかの開発プログラムに抵抗なくかかわっていくことを可能にする。この不透明なMCFの活動によって、米国ほか関連諸国は意識しないうちに、軍民双方に役立つ(訳注 dual-use)技術を中国軍事研究開発プログラムに提供していることになり、中国共産党の国内弾圧の強行能力を高め、米国および同盟諸国を含む外国を脅かすことになるであろう。

中国が意図している不正な手段による地球規模の情報・通信技術の支配願望は、たとえば中国サイバー保障法のようなものに現れている。同法によって、企業は中国共産党が外国の情報にアクセスすることを可能にする中国のデータローカリゼーション技術を使わなければならなくなる。Huawei や ZTE などの中国企業は外国でも中国nの保安機関を通さなければ操業ができないしくみになっているので、このような中国企業の製品・サービスを使用する企業は常に情報漏洩の危険にさらされることになってしまう。

北京はまた、米国へ渡航する中国市民の旅券に米国からの送還を可能にする条項の適切な記載をする、という公約を守っていないので、該当者を米国から帰国させることができず、米国および米国企業に対し、安全保障上のリスクを負わせることになっている。一方で中国は両国間の双務的な領事協定に違反しているため、多くの米国人が中国政府による強制的な出国禁止命令や違法な拘留の危険にさらされ続けていることになる。

 

米国の対中国政策について (1)

後藤三郎君から興味のある文献を紹介してもらった。米国政府の公式文書らしく、持って回った表現も多いが、最近の情勢の判断(とまでいかなくとも解釈)には役立つ情報と思え、独占するにはもったいないので、素人の拙訳を試みた。原文(面白いことに訳文もそうなったが)がA4に印刷して16ページとやや長いので、連続4回に分けてご紹介したい。固有名詞には公式な日本語訳ばあるのだろうが調べる手間を省き適当な訳語を当てたが、訳注 として原文を併記した。翻訳の過程で、言外の意味がありそうに思える単語も同様にした。識者のご指導を頂ければありがたい。

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      中華人民共和国に対する米国の戦略的アプローチ

United States Strategic Approach to the People’s Republic of China

 

 米国と中華人民共和国(以下中国)との外交関係が1979年に樹立されて以来、米国の対中国政策の基本は二国間の交流の深化によって中国の基本的な経済や政治体制がオープンになり、その結果中国がより開かれた社会になることによって、世界規模で建設的かつ責任を有するステークホルダになってゆくことを期待したものであった。以来40年余が経過した今日、このアプローチは中国における経済的・政治的改革を抑制しようとする中国共産党の意志を過小評価していたのだということがあきらかになったと言える。過去20年間、改革は遅延し、減速し、あるいは逆方向に転じた。中国の急速な経済発展と世界各国との関連の深まりは、米国が期待してきた個人を尊重し、自由かつ開かれた体制には結びつかなかった。その代わりに中国は自由かつ開かれたルールを悪用し、国際的なしくみを自国の利益のために書き換えるという道を選んだのである。北京は中国の利益とイデオロギーに一致するように国際的ルールを変更しようとしていることを公言していて、中国が経済的、政治的、軍事的手段を拡大しながら各国の黙認を強制していることは明らかに米国の利益に反し、世界各国の主権と尊厳を危うくするものである。

この北京の挑戦に対して、米国政府は対中国政策として明確に競合していく方向を選んだ。この基盤にあるのは、中国の意向と活動を冷静に見極めるとともに米国の戦略的優位性と欠点を評価し、双方向に発生する摩擦の増加を覚悟することである。このアプローチは中国に関する特定な終局を規定するものではなく、米国にとって重要な国益を保護することであり、その内容は2017年制定の米国安全保障戦略(National Seurity Strategy for the United States of America, NSS)に規定された4本柱、すなわち、(1)米国国民、領土、生活様式の保護 (2)米国の繁栄の推進 (3)力による平和の維持 (4)米国のかかわりあい(訳注:American influence)の推進 である。

この中国戦略に対抗すべき競合アプローチには、二つの目的を設定した。

第一の目的は中国からの挑戦に対し、米国の制度組織、諸国との連携、パートナシップの基盤の対抗力の強化(訳注;Resiliency)によって激化する中国の影響に立ちむかい勝利する(prevail)ことである。第二の目的は北京が米国および連携各国のの致命的(vital)な国家利益を脅かすような行動を辞めるか、削減するようにしむける(compel)ことである。

だが中国に対して明確に対抗するとしても、米国は両国において共通する利点が存在すれば、協調していくことは歓迎する。競合は必ずしも対抗や対立へむかうことを意味しない。米国は中国市民に対する深くかつ永続的(deep and abiding)な敬意を持ち、長い期間にわたってのきづなを持っている。中国の封じ込めとか中国の人々と疎遠になることなどを望んでいるわけではない。米国が期待するのは中国との間の公正な競争を通じて、双方の国家、企業、個人が安全と繁栄を享受することなのである。

中国との戦略的競合に優位に立つには、複数の利益共有者(stakeholders)と協力体制を構築し、わが政府(the Administration)は我々が有する固有の利益と価値観を保護することを公約する。この面で政府にとって致命的なパートナーは連邦議会, 州および地方自治体、企業セクタ、市民社会および学界である。連邦議会は各種のヒアリング、声明、報告書などを通じて、中国が手を染めている悪意ある行動様式(malign behavior)について明らかにしてきた。また一方で連邦議会は米国政府に対し、我々の持つ戦略的諸目的を遂行するに必要な法的権限と資源を与えた。政府はこれに加えて連携先やパートナーがより冷静かつ強固な対策を講じていくための段階的な指針をあきらかにしている。それらのなかでは、2019年3月にヨーロッパ連合(EU)があきらかにした EU-CHINA: A Strategic Outlook が特に重要と考えられる。

米国は連携国、パートナー、国際諸組織などと協力関係を結び、お互いに共有する自由と開かれた関係の原則を支援していくべく、積極的な諸方策を築きつつある特にインド・太平洋領域では、これらの活動は国防省の2019年11月付け 自由で開かれたインド太平洋報告(A free and Open Indo-Pacific: Advancing a Shared Vision)に書かれているし、米国はこのほかにも、相互の理解に基づいたビジョンやアプローチ、ASEAN(Asso-ciation of Southeast Asaian Nation) のインド太平洋概観(Outlook on the Indo-Pacific), 日本の開かれたインド太平洋ビジョン、インドの領域安全保障・成長政策、オーストラリアのインド太平洋政策、韓国の新南方政策、台湾の新南方政策,などと協調している.のである。

この報告の目的は、現政権がわれわれの競合戦略の一部として、世界規模で実行している政策や実際の行動のすべてについて詳細を述べることではなく、前記NSS戦略の実現に当たって、特に中国に特化した部分について焦点をあてることにある。 

挑戦  Challenges 

中国は米国の国家的利益に対して数多くの挑戦状を突き付けている。

  • 経済面での挑戦 Economic Challenges

北京政権は経済面での改革を重視せず、その代わりに国家指導の保護主義を通じた活動で米国企業の活動を妨げ、国際的慣行を守らない上に環境破壊をもたらしている。2001年、WTOに参加した際には、北京は開かれた市場経済政策を認め、その行動原理を同国の商業制度や関係機関に遵守させることに合意した。したがってWTO参加国は中国が改革を推進し、中国を市場原理に基づく経済貿易体制にする路線を推進するものと期待したのである。

この期待は実現されなかった。北京政権は競争原理に基づいた規範や行動を貿易や投資行動に反映させることをしなかったばかりか、WTOのメンバーであることを悪用して世界最大の輸出国に躍り出るとともに自国市場の保護する政策を実行してきた。この経済政策は巨大な過剰産業能力を生み出して世界規模の価格破壊を惹起し、結果として中国が自国企業に与えている不公平な保護手段を持たない競合各国の犠牲の上に市場規模を拡大することになったのである。中国は非市場型経済構造を温存する一方で貿易、投資面では国家主導の重商主義的政策を堅持している。政治的改革も後退するばかりか逆行して、政府と共産党との区別がつかなくなりつつある。任期制限廃止を決定したことによって事実上、周主席の終身在位が定まったことがこの間の事情を明確に示しているといえる。合衆国通商代表部 (USTR) は2018年の報告(注1)において、中国政府の行動、や政策、その実践の多くが非合理的、差別的であって、米国の通商の妨げ、またその行動を制約していると結論した。徹底した調査を通じてUSTRは中国が

  • 米国企業に対し、その技術を中国企業に移転するよう要請し、圧力をかけている
  • 米国企業が有する技術のライセンスを市場で活用することを強硬に制約している
  • 米国企業の有する先端的技術や資産の自国企業への移転を、直接、あるいは不公正な方法で指導している
  • 米国企業ネットワークへの非合法なサイバー攻撃を実施あるいは支援して重要な情報や企業秘密を探っている

と結論付けている。

北京はこのような略奪的経済行為をやめさせると公約はしたが、その多くは破られ、実行に移されていない。2015年、北京は政府指導によるサイバー攻撃を用いた企業秘密の入手をやめさせると公言し、同じ声明を2017年、2018年に繰り返した。2018年後半、米国ほか1ダースにも及ぶ国々が、世界規模で発生している、知的財産や企業秘密の窃取を目的としてコンピュータへの不法侵入が、中国国防省(訳注 Ministry of State Se-sucurity)に関係する業者によって行われているとした。これは北京の2015年の公約違反である。2018年以降、北京は知的財産保護に関する複数の国際公約に署名しているにもかかわらず、世界で起きている公約違反事象の63%は中国によるものであり、その影響は世界中の合法的企業に巨額の損失を与えている。

北京政府は中国がいまや ”成熟経済(mature economy)“ に達したと公言しながら、一方では国際的環境にあってはなお、開発途上国 (developing country)であると主張し、その中にはWTOも含まれている。高度技術製品の世界最大の輸入国、GNP、国防費、対外投資においては米国に次ぐ世界第二位でありながら、みずからを開発途上国であると言い募ってその政策や行動を正当化して、世界規模で多くの分野を組織的に攪乱して、米国及び各国に害をなしている.

一帯一路(One Belt One Road, OBOR)は中国が主宰するいろいろな活動の総称であるが、その多くは国際的な規範、標準やネットワークを北京の利益や構想に役立つ形に書き換え、あわせて中国国内の経済的要求に沿うようにし、その構想と関連する活動によって、中国は自国の産業標準を主な技術分野に定着させ、中国以外の諸国の企業を自国の企業に隷属させようとするものである。北京が一帯一路と呼ぶものには、運輸、情報および通信技術、エネルギー基盤の分野、インダストリアルパーク事業、メディア活動上の協力、科学および技術、文化および宗教面の各種プログラム、さらには軍事および安全保障上での協力などが含まれており、関係する商業上の紛争については中国共産党に属する独自の法廷によって調停するものとしている。米国は中國による持続可能かつ高品質の開発を、国際的規範にのっとるものであれば歓迎するものであるが、一帯一路のもとでのプロジェクトは度々これらの規範から逸脱し、低品質、不正行為、環境悪化、公的な監視や関係コミュニティの無視、不透明な貸し付けや主管する国家のガバナンスを悪化させ、財政的問題を引き起こす契約行為を引き起こしている.。

これら経済的優位性を利用して他国に政治的譲歩を迫ったり、あるいは明らかな報復行為を行う中国の行動が激化していくことにかんがみ、米国は中国が一帯一路政策を不当な政治的影響や軍事行為への転化をはかるだろうと判断している。すなわち、北京は各国政府、指導層、企業、シンクタンクそのほかの機関に対し、しばしば不透明な方法によって、中国共産党の意向と報道の自由に対する検閲へと向かわせるべく、威嚇と誘導を行っていると判断せざるを得ない。中国はすでにオーストラリア、カナダ、韓国、日本、ノルウエイおよびフィリピンなどの国々との交易や観光旅行に制限を加え、特にカナダ市民を拘留するという態度に出て、各国の国内政治や司法制度を妨害する行為を行ってきたし、またダライ・ラマの2016年のモンゴル訪問後、中国は内陸部にある同国からの鉱物輸出を中国経由に制限し、同国の経済を一時的にマヒさせるという行動に出た。

北京はまた、環境保護上の努力を世界的に誇示して ”環境緑化(訳注 green development)の推進をしていると主張する。しかしながら、過去十年以上にわたり、中国は世界最大の、それもはなはなだしい量の温室ガス放出国である。同国は  “2030年ごろまで“ はこの放出を是認するというあやふやで実効の危ぶまれる公約を明らかにしているが、この計画に含まれている排出量の増加分は、他の世界各国が努力している削減量をはるかに上回るものである。一方で中国は多くの開発途上国へ環境汚染につながる火力発電設備を輸出している。さらに中国は世界最大のプラスチックによる海洋汚染の発生元であり、毎年350万メトリック・トンにおよぶ放出をしているし、世界第一の違法、無届、無制限の漁業活動を行って、沿岸諸国の経済を害し、海洋環境を破壊しつづけてが、環境保護に指導的役割を果たすと称する美辞麗句には全く適合していないのはあきらかであろう。

 

コロナはまだまだ続きます    (34 船曳孝彦)

東京を中心にまだまだ新規患者が続いています。東京では20~60人/日で経過し、夜の街の感染が1/3~2/3を占めていますので、予想よりはやや多い原因でしょう。前にも書きましたが、無症状感染者がゴマンといるのですから、新規に感染しても不思議ではありません。COVID19に特効的な薬はまだですし、ワクチンももう少し時間がかかるでしょう。街中へ外出するときは、混雑した電車・バスが最も危険だと思いますが、とにかく三密を避け、ソーシャルディスタンス(実際は2Mは無理なことが多いですが)を守り、マスクをし、なるべく他に手を触れないようにし、なおかつ嗽い、手洗いを頻繁に行って下さい。夜の街は禁です。

これまでを振り返ってみますと、そもそもパンデミックに広がる感染症に対する十分な覚悟がないまま政府対策会議が帰国者センター・保健所という流れで検査し、一人の感染者からどのように感染者が広がるかの追及をして国内の感染を明らかにしてゆこうとしました。それ自体間違いではなく、人の往来が多くなければ十分な把握が出来たかもしれませんが、予想を超えたため、検査を受けられない患者が続出することとなった。それを受けて専門家会議としては対策の変更をもっと強く上申すべきでした。しかし専門家会議自体が根本的改革を忌避し、絞り込んだPCR検査対象を広げることになりませんでした。発熱患者が検査に殺到して医療崩壊を来すことのないようにとの配慮といいますが、結局医療崩壊は起こっており、むしろ最初からPCR検査を広くやっていた方が混乱も少なかったと思います。他国と比べて1桁以上の少なさです。

PCR検査を行政検査と位置付けたことに問題があり、このため検査法も、検体運搬まで法に規制されることとなりました。後に簡易法(これは日本で開発されていたのに国内では正式に認可されていなかった)や唾液で検査するなどの改善を取り入れるのに大変な手間がかかってしまいました。それどころか保健所、国の定めた検査センター以外でのPCR検査データは基本的に認めようとしませんでした。陽性なら登録せざるを得ないにしても、陰性例の扱いは結局判然としないままです。検査の遅れにしびれを切らし、大学や、医師会で独自に検査をしたところでは、検査費用が保険効かずの有料ないし病院持ち、そのデータはパソコンでなくFAXで送り、都道府県で「採用してやるか」という状態でした。日本の死亡率は低いことは確かですが、分母の分からない分子だけのデータで本来死亡率は出せません。それなのに専門家会議副座長が国会で「感染者はこの10~20倍いるかもしれない」などと口にしてよいのでしょうか。

法に基づいた対応と、疫学的根拠(数理疫学に偏った)での判断という原則から一歩も出ようとしない専門家会議の態度に、大いに反発を感じていたところ、昨日突如として担当大臣から専門家会議は廃止するとの発言がありました。国民は政府・専門家会議は一体となって取り組んでいてくれたものと信じていたのに、一体どうなっているのでしょうか。その後の専門家会議座長の発言にも驚きました。評論家のような発言で、まるで反省の意を感じませんでした。今後は別組織としての有識者会議が任命されるようですが、見事なバトンタッチは期待できそうにありません。

問題は第2波対策です。禁止事項が次第に消えてゆきますが、第2波は必ずと言ってよい程海外から押し寄せるでしょう。昨日の報道では、第1便による入国者30人にPCR検査を行い、結果判明まで2週間ホテルに待機させようというものでした。その後の便については未定とのこと。大変な手間と費用が掛かることは分かっていますが、正常に復帰することを考えると、1日何万人もの入国者・帰国者を迎えます。大量の宿泊施設を準備しなければなりませんし、PCR検査も大量に施行(十分可能です)しなくてはなりません。こうしなくてはオリンピック開催など消え去ってしまうでしょう。

さて医療崩壊の問題です。厚労省は再拡大に備え、病床確保と外来新診療体制樹立を7月までに策定せよと都道府県に指示しました。一般病院では、医師数、医療スタッフ、医療器具並びに消耗品(マスク、ガウンなど)、病床及び診察スペースなどなど、全てが不足して「医療崩壊」ぎりぎりの線上にあると思います。それに加えて、感染症診療上のコストに十分な考慮がなされていない、一般病院でPCR検査しようにも病院持ち出しの経費となる、コロナに人手をとられて、予定手術が出来ない(延期)、病院にはコロナ患者が溢れているだろうからと、一般患者が通院拒否、延期などが経営的な「医療崩壊」を起こしています。コロナ用に何10床、あるいは100床以上の空きベッドを用意したものの、コロナ患者数が峠を越えてくると直接減収につながっています。患者数減少と手術症例減少が重なり、病院の収益は非常な落ち込みです。永寿病院などで職員の給料カット迄始まっており、医師、看護婦の退職者が出始め、休業、閉院する病院が出てきています。

厚労省はコロナが始まる前まで、公的病院のベッド数を削減しろ、出来なければ公立・私立の開設者お構いなしに合併せよと通達を出し、病院側から反発があったばかりです。ベッド数など、余力を持っていなければ、このようなパンデミックばかりでなく、巨大震災、巨大噴火、大水害などのとき、対応しきれないことは自明のことと思います。

医療関係者に感謝の拍手を送ろうという国もありますが、我が国の現況はとても拍手だけで済まされない状況です。病院側が耐えられているうちに国は手を打ってほしいものです。沈没する船からネズミが逃げ出すと言います。あるいは拍手の国でも同じ事が起こっているのではないかと思います。第2波の来ないうちに新しい医療体制が必要です。

エーガ愛好会 (7) ”ビッグ・ケーヒル”のこと    (34 小泉幾多郎)

 ジョン・ウエイン(1907~1979)最晩年の作品。仕事一筋で家庭を顧みない連邦保安官ケーヒルとその17歳と11歳の息子との関係を軸に展開。ウエイン66歳の作品だから、親というよりも爺さんに見えてしまうが、時に過去の若々しい姿を彷彿とさせる場面もある。多忙から不在がちの親に反抗し、銀行強盗の仲間に加担した息子達を、その自主性を尊重しながらも反省させるまでを親の愛を示し好演している。自分自身も連邦保安官程でないにしても、仕事にかまけて、子供のことをないがしろにしてきたのではないかと反省してしまう。

 追手にコマンチインディアンを採用したり、そのインディアンの奥さんを侮辱した息子をウエインが馬から蹴落とす等70年代の西部劇らしき場面にも遭遇した。そのインディアン役のネビル・ブランドや悪党ながら若干人情味も見せるジョージ・ケネディ、主役級の息子二人ゲイリー・グライムズとグレイ・オブライエンと脇役も好演。御大ジョンウエインは、悪を憎み連邦保安官としての職務を全うする強い意志と息子達を愛する親の愛情を併せ持つ西部男の真骨頂を年齢を超越して見せてくれた。

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わが ”デューク” ことウエインが亡くなったのは1979年だが、その以前から癌にかかっていたことは公表されていた。一度、病床から復帰して、俺はビッグC(cancer のこと)に勝った!と言ったことが伝えられているが、結局、再発して不帰の客となった。全米で彼の回復を祈る声があったのはけだし当然かもしれない。ジョン・フォード映画の常連だったモーリン・オハラが全米に 何とかして、彼を救って! と呼びかけたのは有名だし、ロサンゼルス近郊、オレンジカウンティ空港は彼の死後、名前をジョン・ウエイン空港と改めたほど、まさに古き良きアメリカ、の象徴だった人物だ。彼の遺作となったのが ”ラスト・シューティスト”で、親友だったジェイムズ・スチュアート、それにローレン・バコールの共演だったが、見ているものにはすでに運命を知っている友人たちが、これが最後、と思って演じているのが感じられる、名作というか、形容しがたい映画だった。”ジョン・ウエインはなぜ死んだか” という本があるが、それによるとネバダの砂漠地帯で映画のロケに参加した俳優の多くが癌にかかり、ウエインもその一人だとしている。ウエイン西部劇で彼の良きわき役だったペドロ・アーメンダリスもその一人で、癌とわかって自殺したというし、科学的に証明可能なのかどうか知らないが、”駅馬車” から始まって彼の主演西部劇にはまずほとんどと言っていいくらい、砂漠が登場するのは事実だ。モニュメント・バレーだったら、癌にはならなかったのか、など思ったりするが、やはり駅馬車が疾駆するのは砂漠でなければならなかったと思う。一時、ジョン・ウエインの再来!などと騒がれたアレックス・コードによるリメイクの駅馬車はワイオミングの森林の中を駆け抜けたが、コード本人もその後不発だったし、やはり砂漠でなければなあ、などと思ったこともあったりした。小泉さんのご指摘通り、ウエイン晩年の作品ではあるけれども同じように老境にはいって作られた ”リオ・ブラボー” ”エルドラド” ”チザム” がいずれもユーモアあふれる、正統的勧善懲悪ガンプレイフィルムだったのに対し、”ケーヒル” には少し違ったトーンがあった。監督はアンドリュー・マクラグレン、アーメンダリスやハリイ・ケリー父子などとともにウエイン西部劇に欠かせなかった愉快な仲間、ヴィクター・マクラグレンの子供である。このあたり、父の親友のありようを知り尽くした演出だったのかもしれない。

 

Sneak Preview (5)  アーヘン、ヨーロッパ誕生  (44 安田耕太郎)

ヨーロッパに関して理解できない点があった。ローマ帝国の滅亡から現在の大陸の中核をなすフランス、ドイツ、イタリアがどのようにして形成されたのか、であった。解く鍵がアーヘンにあるのではないかと睨んだのだ。パリの北駅(Gare de Nord)からケルン行きの電車に乗ってアーヘンに向かった。

アーヘンAachenは鉱泉を意味する。古代ローマ時代から温泉保養地であったという。フランス語ではエクス・ラ・シャペルAix-la-Chapelle。Aixは水・鉱泉のこと。Chapelleは礼拝堂のこと。後述する大聖堂を指す言葉。「礼拝堂の泉」という名の町である。 

東西に分裂したローマ帝国の内、西ローマ帝国は5世紀末に滅亡。そのあとヨーロッパ全域を統一する勢力はすぐには現れなかった。統一したのがゲルマン民族の一つフランク王国であった。フランク王国は5世紀末にゲルマン人の部族フランク人によって建てられた王国で、最初の王朝メロヴィング家時代の732年にはトゥール・ポアティエ間の戦いでイスラム勢力を駆逐した。その後、子供の相続問題で衰退、代わって王朝の宰相であったピピン3世(Pippin III)がメロヴィング王朝を打倒して、自らカロリング王朝を創始して王国を支配。カロリングという名はピピンの父カール・マルテルからとった「カールの」という意味である。732年ポアティエの戦いでイスラム勢力に勝利した英雄がメロヴィング朝の宰相だったカール・マルテルである。

カール・マルテルの孫、ピピンの子カール1世(大帝)の時代8世紀末には、イベリア半島、ブリテン島、イタリア半島南部を除く西ヨーロッパ全域を支配するに至る。カール大帝はフランク国王として40年間、西ローマ皇帝にも西暦800年に戴冠、死亡するまで15年間君臨した。初代神聖ローマ帝国皇帝とも見なされる。神聖ローマ帝国(Holy Roman Empire)は領土的に今日のドイツ+オーストリアと同じだ。これらの展開は日本の奈良時代から平安時代の幕開けとほぼ同時代になされた。カール大帝の後を継いだ息子の死後、残された三人の息子達(カール大帝の孫)はフランク王国を3分割相続した。9世紀半ばのことである。それが今日のフランス、ドイツ、イタリアと重なる領土であった。現在に至るヨーロッパの誕生だ。

カール大帝はアーヘンを首都と定め、古典ローマ、キリスト教、ゲルマン文化の融合を体現して中世以降のキリスト教ヨーロッパの太祖として扱われており「ヨーロッパの父」と呼ばれている。フランスとドイツ両国の始祖的英雄とみなされていることから、フランス風及びドイツ風呼び方を共に敢えて避けて、英語風に呼ばれることも多い。

英名はチャールズ大帝Charles the Great、フランス名はシャルルマーニュCharlemagne、ドイツ名はカール大帝Karl der Groβe。スペイン語ではカルロスCarlos。フランス語のシャルルマーニュのマーニュはMagne。ワインの大瓶マグナムMagnumと同じ語源。大きい、偉大な、という意味。 カール大帝は在任中にアーヘンにフランク王国の宮殿教会を建立、のち大聖堂に改築。当時アルプス以北では最大の大聖堂であり、北ヨーロッパで最古である。彼の墓所も大聖堂内にある。

ビザンチン様式を取り入れたモザイク画や「ガラスの礼拝堂」と言われるステンドグラスは壮絶な美しさであった。八角形の聖堂内部は建築様式、古さ、豪華さ、荘厳さなど他に類を見ない。中世には所蔵する聖遺物により、巡礼地ともなっていた。現在ユネスコ世界遺産は1030件あるが、1978年に最初の12件が登録された。アーヘン大聖堂はその内のひとつである。勿論、ドイツ最初。ドイツ語でKaiserdom皇帝の大聖堂ともいわれる。

 

政治的に重要なことは936年から1531年まで歴代30人以上の神聖ローマ帝国皇帝の戴冠式が執り行なわれていたことだ。最後の戴冠式を行ったのがカール5世、ハプスブルク家出身の神聖ローマ帝国皇帝としてスペインも統治した。オランダをもスペインの占領下に置いた。

ついでに、フランス名Charlesmagneのシャルルはチャールズ大帝と同じだということで誇り高き由緒ある名前。僕が訪れた1969年まで10年間大統領だったシャルル・ド・ゴールCharles de Gaulle(ゴールのチャールズ)は驚くべき名前だ。

ゴールGaule(フランス語)とはガリア(Galliaラテン語)即ちフランスのこと。ゴール=ガリア(フランス)のシャルル。言うなれば、現代フランスのシャルルマーニュということになる。彼は心の中ではそう思っていたのではないか?

現代に生まれたフランスの英雄としてアメリカにもイギリスにも伍していた、彼の姿が忘れられない。

話を少し前に戻すが、3分割して出来たフランスに相当する部分が西フランク王国であった。王国のカロリング朝支配も創設から200年ほど経った987年に断絶、王国もフランス王国と呼ばれるようになりユーグ・カペー(Huges Capet)によりカペー王朝が創設された。

そしてフランス革命まで800年間に亘り、フランス王国はカペー朝(dynastie des Capétiens)350年、ヴァロア朝(dynastie des Valois)250年、ブルボン朝(dynastie des Bourbons)200年と引き継がれていったが、断頭台の露と消えたブルボン王朝のルイ16世で終焉を迎えた。その後は短期間のナポレオン帝政から共和制に移行して現在に至っている。

フランク王国が三分割して出来た国家のひとつである神聖ローマ帝国(Holy Roman Empire)は、名前から判断するとどこの国か分からないが、現在のドイツ、オーストリア、チェコ、北イタリアの一部に君臨した国家である。西ローマ帝国の後継国家を称した。首都はプラハ、ウィーン、レーゲンスブルグなどに置かれた。ナポレオンの登場によって1806年帝国は消滅した。

エーガ愛好会 (5)”めまい” みました  (44 安田耕太郎)

Giさんと同じ疑問が沸きました。殺された妻の顔は一度も画面に登場しません。まさか彼女までキムと瓜二つではないでしょう。スチュアートが殺人と断定していたかは、僕には疑問です。彼女が転落したあと、落ちる現場は勿論見ずに、転落地点に人が集まっている時には裏口から逃げるように立ち去っています。自分に容疑をかけられるのを回避したのだと思います。好きな人を失って(と思って)、虚ろに街を徘徊していてキムに瓜二つの女性に遭遇した、と思いました。
この辺の曖昧さは承知の上で、ヒッチコックは既にカラクリを観客に早くから知らせておいて、知らないスチュアートに何が起きるのかハラハラドキドキさせます。サスペンスは英語suspend(サスペンド=宙づり))に由来しているとのこと。精神的に宙ぶらりんになっていて、不安感やハラハラ感を持っている状態のこと。サスペンスはミステリーと違い、謎解きはない。サスペンスは感情(エモーション)を揺り動かすことが絶対的要素、だとヒッチコックは言っています。「めまい」の場合、スチュアートのハラハラ感に観客を同化させ、感情移入させることこそがサスペンスの核だと、言わんばかりです。映像的にサスペンス感を増幅したのが、高所恐怖症のスチュアートが教会の階段を上る時めまいを起こすシーン。俗に「めまいショット」と呼ばれた技法。カメラを後ろに引きながら、同時にズームアップすることで、被写体(この場合、映ってはいないがスチュアート)の位置は変わらないのに、背景だけが遠ざかっていき、めまいを起こしたような感覚に陥らせた。実際のシーンは、階段に似せた模型を作って横に置き、カメラは水平方向に移動させズームアップしたそうです。映画で観たその場面の階段は本物でなく模型です。被写体(人間)は全く映らないので模型でも問題なし。この様なトリックを使ったそうです。仏監督トリュフォーとの対談でサスペンスの神髄と手法について語り合っているのを読んだことがあります。

キム・ノヴァクについて。予定していた女優が妊娠で無理となり、代わりに抜擢されたそうです。ヒッチコック好みの金髪ではなかったそうです。あれだけ人気のあったマリリン・モンローですら使っていません。妖艶・セクシー過ぎるのが理由のようでした。確かにお気に入りは、グレース・ケリー、バーグマン、ティッピ・ヘドレン(鳥、マーニー)、エヴァ・マリー・セイント(北北西に進路を取れ、「波止場」で助演女優オスカー)などの気品あるブロンドだった様です。グレースはモナコへ嫁いで去られ、バーグマンはロッセリーニ監督に持ち去られ、ヒッチコックは落ち込んだそうです。
ノヴァクの東欧白人らしい雰囲気はこの映画にとても合っていたと思います。アップにしたプラチナブロンドに仕立ての良いグレーのテーラードスーツはとても似合うのがこの映画で分かりました。

エーガ愛好会 (4) ”めまい” のこと

“めまい” は編集子にはちと特別なエーガである。この映画を見たのが自分にとって生まれて初めての”デート“ だったからである。相手は水原八恵子、すなわち現在のオクガタである(だから今、こうして書けるのだが)。場所は確か日比谷映画だったと思うが、当時あのあたりに洋画専門のロードショー館が固まっていたから、ひょとすると有楽座だったかもしれない。なんとかキミマロのセリフではないがあれから40年(プラス)、再び隣り合ってみることになったが、昼飯のときのシャルドネが効いてきて、5分くらい眠ってしまったのはこの40年プラスの時の功(?)かもしれない。1週前は ”知り過ぎた男“ だったから、2週続けてヒチコックものを見た事になるが、記憶は断片的で、改めて時間の魔力を感じた事だった。しかし、今回は一つ、疑問を持つことになった。

“めまい”のストーリーの中心は妻を殺そうとする夫が友人の刑事(ジェイムズ・スチュアート)に妻の監視を依頼するのだが、その時には本人ではなく違う女性(キム・ノヴァク)を妻と思いこませ、あたかもキムが自殺したようにみせかけておいて妻を高い塔から突き落とす、というトリックである。スチュアートが疑われることはないのだが、自分に過失があったように思いこみ悩む。その後、街でキムに酷似した女性を見つけ、トリックを見破ることになるのだが、今回おかしいなとおもったのは、スチュアートは殺された人妻の本当の顔は知らないわけだから、もし死体の検証に立ち会っていれば、あきらかにキムが偽物であることはすぐわかったはずである(判別できないほど顔がつぶれていたのなら別だが)。しかし映画の中では彼が死体確認に立ち会う場面はない。

それと、いつ、どうしてスチュアートが(自殺ではなく殺人ではないか?)という疑問を抱くようになったのかが映画の場面では定かではない。街で(サンフランシスコという大都会の中で)偶然キムに再会し、解決へもっていくというのは不自然だから、意識して探していたに違いない。このことは再会以後のスチュアートの行動が確たるステップ(事件当日と同じ服、髪型にさせて現場へ連れていき動揺させる)で導かれることから明白である。僕が今回抱いた疑問は、“なぜ死体確認に、現場にいた現職の刑事が立ち会わなかったのか?” とうことである。どなたか、この疑問にお答えいただけないだろうか?

(菅原)小生、お気に入りのキム・ノヴァクに60年振りに再会しました。キレイだけど、超ダイコンですね。従って(これって、また、独断と偏見か)、ヒッチコックは二度とノヴァクを使っていません。しかし、小生、大不覚をとりました。今のいままで、「めまい」はヒッチコックのものだとばかり思っていたら、タイトルにボワロー=ナルスジャクの「死者の中から」が原作とあるじゃないですか。シモーヌ・シニョレが出たコワーイ「悪魔のような女」の原作者です。

ヒッチコックは、映画が始まって暫くしてから、用もないのに門の前を左から右に過りました(これが彼の役どころ)。それにしても、60年前、外出するに際し、日本でもそうだったんでしょうが、米国では帽子を被り、上下おなじ色のスーツを着用し、靴はフローシャムだったかどうか。今なら、さしずめ、野球帽、ティーシャツ、ジーパン、ナイキの厚底靴と言ったところですかね。そう言えば、ヒッチコックは「知り過ぎていた男」でも、スチュワートがソフトを頭に乗せていたのに、今回も帽子なし。ヒッチコックの売りって禿頭であることなんですか。

(金藤)「めまい」観ました。子供の頃に観たヒッチコックの印象しかないのにわざわざ書くのも恐縮ですが、今日の「めまい」は私の印象の中のヒッチコック映画と、ストーリーの展開が違うような気がしました。 原作者が他にいたのですね。ヒッチコックがどこに出て来るか、見るのを忘れていました。 もっと注意深く観なくては・・・それでは、皆さま、めまいと熱中症にお気をつけてお過ごしください!

(中司―金藤)めまい がおわるとすぐ 新選組血風録。今日は夕方まで忙しい。

そろそろ表へ出よう! (39 堀川義夫)

昨日(6月12日)、鎌倉のアジサイ見学に行ってきました。梅雨入りでしたが夏日となり空は真夏の様に入道雲も発生、明月院は満開!長谷寺はほぼ満開の状況で楽しい一日でした。

明月院 それなりの混雑の中、鑑賞者は100%マスク着用で真っ盛りの明月院ブルーを楽しみました。

7月の月いち高尾は梅雨を吹き飛ばして、ぜひ皆さんで高尾に行きましょう!!7月8日水です。

珍しい沙羅双樹の花

明月院から炎天下を葛原岡神社⇒銭洗弁天⇒佐助稲荷神社⇒カフェテラス樹ガーデン⇒大仏⇒長谷寺へハイキング。汗びっしょり。途中の洒落た樹ガーデンでキーマカレーと生ビールで寛ぐ。

 

 

長谷寺のアジサイ

明月院とは趣の違うアジサイの路は、今年はコロナの為か現時点で神奈川県民限定で往復はがきで事前申し込みが必要。特別拝観料は「かながわコロナ医療・福祉応援基金」寄付され、1日1000人までの入場とのこと。細かいことは抜きに、満開に近い素晴らしいアジサイを楽しみました。

 

明月院とは異なり様々な種類のアジサイを見ることが出来ます。

(37 菅谷)茶毒蛾の後遺症は如何かな?

普通は治るのに最低1週間は罹ると聞いていましたが早くも鎌倉でアジサイ見物とは、貴兄も休まない御仁ですな!明月院も長谷寺も絶好のタイミング、写真が素晴らしい。

神奈川県民限定とは羨ましい限り、私はせいぜい高幡不動のアジサイで我慢することにします。府中街道沿いの妙楽寺も結構お薦めです。

(43 猪股)素晴らしい紫陽花見事ですね。とても綺麗に
撮れています。ありがとうございます。

家に閉じこもっていないで、外に出ようとのことですが、体調イマイチなこともあり、今ひとつ、怯む気持ちがあります。そんなことで、STEP3に緩和されましたが、まだ疑心暗鬼です。

7月から活動を始め、月一高尾から参加させていただこうと考えています。

(36 後藤)見事なアジサイの写真ありがとう。我が家の庭のものとは全く違い品の良さを感じます。アジサイは本当に季節の花として気持ちを豊かにさせてくれます。次回の高尾を楽しみにしています。

(39 三嶋)菅谷さんの仰る「妙楽寺」は川崎の多摩区長尾 でしょうか? 地元ではアジサイ寺として有名です。先週もウオーキングで行ってきました。

この近くの 「枡形山」 もお勧めですよ。エッ それ何処?  生田緑地の 最高峰(84m)です。行かれた方も多いでしょうが、展望台からは 都心を始め 天気が良いと男体山も望め、 アジサイ、菖蒲 も盛りでした。
広い敷地の中には 日本民家園、岡本太郎美術館、科学館 もあり のんびりと楽しめます。コロナ騒動のお陰で 私は良さを再発見しました。
(38 町井)自然豊かなところにお住まいで羨ましいのですが、嫌な虫の被害もあるのですね。お気の毒でした。

でも、良くおなりになって鎌倉にいらっしゃったのは羨ましい!神奈川県民限定で、東京から行ってはいけないのでしょ。NHKのニュースで長谷寺の紫陽花を映していましたが、貴方の写真の方がずーっと美しく、素晴らしいです。7月8日、楽しみにしておりますが、自粛生活で2キロ太りましたので、歩けるかしら?