エーガ愛好会 (88) 陽のあたる場所   (44 安田耕太郎)

映画「陽のあたる場所」はセオドア・ドライサーの小説「アメリカの悲劇」(An American Tragedy) を原作としており、陽のあたる場所は成功した上流階級の人々の生活する場所を意味し、その場所を象徴する存在が、その家族の娘エリザベス・テイラー演じる美しいアンジェラ。共演のモンゴメリー・クリフト演じるジョージは、貧しい家庭に育ち教育もまともに受けていない陽のあたる場所とは対極の謂わば日陰の場所を象徴する存在。陽と陰の好対照とその絡みを描いた映画でもある。アメリカン・ドリームを達成するかに見えた展開が「アメリカの悲劇」の結末で終わる。

映画公開は1951年、エリザベス19歳の時だが、撮影開始時、彼女は17歳。子役として「若草物語」出演など既に映画界では脚光を浴びる存在であったが、「陽のあたる場所」は彼女にとってそれ以降のハリウッドにおける名声と存在価値を決定づける映画となった。「赤い河」1948年、「女相続人」1949年の成功でスターの仲間入りしていたクリフト31歳の時の公開作品。

筋書きと話の展開は短兵急で粗く今ひとつであるが、映画の見どころは、若い主演二人の演技かと思う。「エリザベス、あんなふうに男を誘惑する手管をいったいいつ覚えたの?」と関係者が唸ったティーンエイジャーの彼女の演技は絶賛された。ニューヨーク・タイムズ紙は「裕福で美しいアンジェラを演じたエリザベスの演技は、彼女のキャリヤ中で最高だった」とまで書いた。批評家たちは「陽のあたる場所」を傑作と評価し、中には映画史に50年以上残る作品だとする者もいた。一方、クリフトはこの映画を観て、NYにあるエリア・カザン主宰のアクターズ・スタジオに共に学んだジェームス・ディーンをも彷彿とさせる。ディーンが11歳年下。余談だが、カザンはクリフトに「エデンの東」主演キャル役を申し出たが、クリフトは断る。また、やはりカザンがメガフォンを執った「波止場」でアカデミー主演男優賞を獲得したマーロン・ブランドもアクターズ・スタジオのカザン門下生の一人であり、彼も「エデンの東」出演を断っている。最終的にディーンに決まったというエピソードがある。

そのクリフトは、NYでの舞台歴も長く確かな演技力を備えた、哀愁があり影のある、ある種の暗さが映画の末路を暗示しているかのような俳優というイメージを感じる。この映画でも、或いは「女相続人」、「地上より永遠に」、「終着駅」、「私は告白する」でも然りであった。暗く憂いを秘めたクリフトの陰とは対照的に輝くばかりに明るいエリザベス・テイラーの陽の好対照はこの映画を特徴づけたハイライトであった。なお、アリス役で好演したシェリー・ウインタースは出演当時29歳。1959年の「アンネの日記」と1965年の「いつか見た空」ではアカデミー助演女優賞を、1972年の「ポセイドン・アドベンチャー」でゴールデングローブ助演女優賞を、それぞれ受賞している。

(船津)もう封切り以来何度見ているでしょうかね。
格差社会。裁判のあの弁護士の怖いですねーぇ!
エリザベステラーの可憐さが目立つ!何と言ってもモンティ!母が伝道している設定もーー! しかし、やや深みが無いですね!

(編集子)タイトルが A place  であって The place ではない、ということはこのような場所が一つきりではない、と英文解釈できる。それが アメリカの悲劇、という意味なのだろうか。この作品には関係ないが、シェリー・ウインタースといえば ウインチェスター銃73 を思いだす。

(菅原)昔、陽の当たる場所」見ました(S.ウィンタースが、とっても可哀そう。結局、事故だったのか殺人だったのか?)。と言えば、日活の「陽のあたる坂道」(1958年)を思い出す。原作が、石坂洋次郎。勿論、石原裕次郎、北原三枝、芦川いづみ、など。陽が当たったところが、場所と坂道で、こうも違って来るものなのか。「陽の当たる場所」の原作が「アメリカの悲劇」と来れば、「場所」が真っ暗になるのも致し方ないか。