エーガ愛好会 (61)  縛り首の木    (34 小泉幾多郎)

マーティン・ロビンスが唄う主題歌が、タイトルバックとラストシーンに流れ物語を説明する。監督が最初にインディアン側に立っての西部劇を作ったデルマー・デイビスだけに、西部劇の形を借りた文芸映画と言ってもいいかも知れないくらい、射ち合いと殴り合いが一回あるだけで、重厚なリアリズム型の西部劇とも言える。ゲーリー・クーパー最後の西部劇。亡くなる2年前だが、まだまだ若々しく「真昼の決闘1952」の頃より若返った感じがする。

新興の金鉱地モンタナのスカルクリークにやって来たクーパー、過去を語らず、世間に深入りせず、そのくせ優秀な医師、ポーカーはめちゃくちゃ強く、さっと勝って、さっさと引き上げるところ等格好いいところを見せる。冒頭縛り首になるべき若者を救ったクーパーは、ラストで自分が縛り首になりかけるが寸前で、マリア・シェル扮する女性に助けられる。助けて助けられる両極端の象徴がタイトル。

マリア・シェルはスイスから父親たちと渡米してきたものの駅馬車が強盗に襲われ、一人助かったものの眼を天日で焼かれ一時眼が見えなくなった。それがクーパーの治療で見えるようになり恋愛感情を抱くものの、クーパーは過去に、妻と弟の不倫関係で焼死させたことにこだわり応じない。

マリアはこの前後、米国で「カラマーゾフの兄弟1958」でユル・ブリンナーと「シマロン1960」でグレン・フォードと共演したほか、文芸大作「居酒屋1956」「白夜1957」「女の一生1958」等に出演し、純真さと芯の強さ、身体全体から感情を絞り出すような演技に定評があった。ここでも眼帯をはずす迄の無表情から、目が見えるようになって美しい瞳が輝く感情の起伏の表現が素晴らしい。

マリアを最初に助けその後金鉱採掘のパートナーとなるカール・マルデン、諦めかけたとき、地震で崩れた根っこに金鉱を見付ける。マルデンが例によって、脂ぎった汗臭いまでの横恋慕が爆発、遂にクーパーとの射ち合いで殺されることに。ここに医師稼業を心良く思わない聖書の聖句を唱えるならず者の占い師、これが若き「パットン大戦車軍団1970」のジョージ・C・スコットが扮しているのだが、「あいつは悪魔だ」の挑発に乗って、興奮した群衆がクーパーを縛り首の木まで引きずって行く。縄の輪が首に罹った時、マリアが現われ、カネの袋からカネを取り出し、男たちは我先にカネを奪い合うことになる。主題歌が流れる・・・カネと引き換えに自由を手にし、縛り首の木から、俺は立ち去る、愛する人と肩を並べて・・・。

(小田)小泉さんの詳しいメールにもありましたが、昔、実家にあったレコードで聴いたテーマ曲を懐かしく聴きました。又よく映画に登場するモンタナの景色…綺麗ですね。クーパーもモンタナの出身。金鉱掘りの人達と違い、医者の役だけあり、キリッとして渋く、素敵なクーパーがこの2年後にまだ60歳で亡くなってしまったなんてもったいない!

(編集子)クーパーももちろんだが、マーティ・ロビンスとはまたなつかしい。もともとカントリ―系の歌手だが、なんといっても高校生時代のヒットパレード番組でで流れた White Sport Coat のあの軽快なテンポがコニー・フランシスの Lipstick on your collar  なんかともども忘れられない !