ニューヨーク市内では昨年の12月15日から、新型コロナウイルスワクチンの接種が開始となりました。使えるワクチンは、当初はまだファイザー製のものだけ。医療従事者から接種が始まりましたが、まず初めは、いわゆるER(救急初療室)で勤務をする医療者、続いてICU(集中治療室)で勤務をする医療者が接種対象でした。接種が開始してまだ1週間。早く接種を受けたいと、ワクチンの接種会場には接種を待つ医療者で長蛇の列ができていました。
受け付けを済ませた後、問診票が渡され、ワクチンの有効性と副反応についての説明を読みました。ワクチン接種自体はものの数秒で終わってしまいました。左の腕を露出して、消毒。消毒が済むと、とても細い針で筋肉注射が行われました。「筋肉注射」というと、深く針を刺されてしまう、怖いイメージがあるかもしれません。しかし、実は痛みが比較的少ないことが知られています。
私のワクチンを接種してくださったのは薬剤師さんでした。こちらアメリカでは、医師や看護師に加えて、薬剤師さんやトレーニングを受けた薬学生も注射ができるようになっています。医師は主に、監視役やアレルギーが起こったときの緊急対応の役割を担っていて、前線で活躍するのは薬剤師さんなのです。日本では、注射をするのは医師、看護師に限られるため、ここは日本とは異なるところでしょう。
接種が終わった後は、約15分の経過観察がありました。ここでアレルギー反応がないかの確認が行われます。今回のワクチンでは、0.001%程度の確率で重度のアレルギーが 報告されており、そのほとんどが接種後15分から30分以内に生じていることがわかっています。また、重度のアレルギーが仮に起こった場合、すぐに治療を始めれば大事に至らずに済むこともわかっています。そういった背景があり、15分から30分の経過観察が行われているのです。実際に、このような対策がとられることで、今のところアレルギーを起こして命を落としてしまったという方は報告されていません。
重いアレルギーが起こってしまうのは怖いと感じられるかもしれませんが、私たちが普段病院で用いている抗菌薬のペニシリンは約5000人に1人の割合、0.02%の割合でそのような重度のアレルギーが起こると されています。それと比べると割合は非常に低いことがわかります。私自身はというと、アレルギー反応などなく、経過観察は15分で終了となりました。
それから接種当日は、まったく無症状で経過をしました。本当に痛みも違和感も何も感じませんでした。なお、接種当日は、一般のワクチンと同様に、激しい運動や飲酒などは控えていただいたほうがいいと思いますが、それを除いては、普通の日常生活を送っていただいて構わないと思います。私自身、接種後は普通に仕事をしていました。
接種翌日の朝起きると…左の肩に肩こりのような違和感があることに気がつきました。これは、動かさなければわからないぐらいのものでしたが、2日ほど続きました。3週間後の2回目接種の際は、これよりも少し強いはっきりとした痛みが出ました。しかし、ともに2日ほどで終わり、3日目には消えていました。
これまで報告されている 研究の結果を見てみると、副反応は私のように注射部位に痛みが出る人が最多ですが、同僚のように発熱などの症状も報告されています。報告された副反応の種類と頻度は、だるさ・倦怠感(51~59%)、頭痛(39~52%)、筋肉痛(29~37%)、関節痛(19~22%)、発熱(11~16%)です。
また、基本的に2回目のほうが1回目よりも頻度が多く報告されています。このため、1回目で問題なかったという方でも2回目に副反応が出ないか慎重に観察していただくことが大切です。加えて、高齢者の方は若者に比べて、こうした副反応が少ないことがわかっています。しかしながら、高齢者で持病がある方の場合には、高い熱が1日出るだけでもご飯が取れなくなってしまったり持病が悪化したりすることもあるかもしれません。
すでに自分のワクチン接種からは50日以上が経過しました。50日が経過した今も、大きな副反応なく経過をしています。何より、このワクチンの一番の魅力は誰もが想像をしなかったほどの高い有効性です。その安心感は、もう一層の頑丈なマスクを与えてもらっているような、とても大きなものです。もちろん、まだマスクも、手洗いも続けなくてはいけませんが、それでもなお、ここまで1年間少なからず抱えてきた不安を大きく取り除いてくれるものでした。
また、このワクチンには、重症化を防ぎ、命を守る効果も期待され、有効性が少なくとも半年ほどは持続しそうだというところまでわかってきています。
日本でワクチンを待つ皆様、もちろん、さまざまな価値観を持つ人がいる中で、私は皆さんに接種をしろと言うようなつもりはありません。ただ、各報道などでリスクばかりが取り上げられやすく、どこか膨張してしまっていることには注意を払う必要があると思います。また、ワクチンを受けることには、自分自身を守るというほか、これまで日常生活の中で感染リスクを共有してきた自分の身の回りの大切な人、両親や上司、友人を守るという意義もあります。この1年、つねに消えない不安と誰もが戦い続けてきたと思います。
ワクチンはその不安や苦しみを緩和できるよう、世界中の研究者が協力して作り上げてきた叡智の結晶です。感染リスクを共有して生活をする中、ワクチンの輪を広げ、皆で皆を助け合う。そんな気持ちでぜひワクチンの接種を前向きに考えていただければと思いますし、何より最後は誰もが納得できる形で決断をしていただければそれが一番だと思っています。
**********************************
筆者は米国内科専門医、慶應義塾大学医学部を卒業後、日本全国各地の病院の総合内科・診療科で勤務。2015年からは米国ニューヨークのマウントサイナイ大学関連病院の内科で勤務し、米国内科専門医を取得。現在はマウントサイナイ大学病院老年医学・緩和医療科に所属。国内では全国の総合内科医の教育団体JHospitalist Network世話人、米国内科学会日本支部の委員等として、国外ではカンボジアでAPSARA総合診療医学会の常務理事として活動を行っている。