エーガ愛好会(44) レベッカ  (44 安田耕太郎)

(44 安田)   レベッカは、ヘブライ語の女性名リベカの、ヨーロッパ諸言語形。旧約聖書にも登場し、うっとりさせる者、魅惑する者、束縛する者という意味がある。この映画の題名にふさわしい。

前半はモナコで出逢った二人のラブロマンス。大金持ちのイギリス紳士の夫の屋敷、不気味なマンダレーに着いてからは一変してサスペンスの様相へ変わっていく。

タイトルにもなっている、1年前にヨット事故で亡くなった前妻「レベッカ」の姿は、一切出てこず、主人公ジョーン・フォンティーンの名前は一切明かされず、場面に応じて「奥様」「ハニー」「あなた」などと呼ばれる。名前のない主人公と、姿のないレベッカ、この二人の対比がこの映画の不可思議な筋を形作っていく。

生前は知性・美貌・家柄の良さもあって夫(ローレンス・オリヴィエ)の心を掴んでいた前妻レベッカの完璧な存在が、さながら亡霊のように主人公の心を不安にして追い込む。多くを語らない夫、レベッカを崇拝していた屋敷を仕切るメイド長は、邸宅内を生前のままの状態に保ち、殊更に前妻の美しさ、華麗さ、偉大さを強調する。レベッカの私物には全てRの刺繍が施され、至る所でRの刺繍を目にさせられる。この世にいないはずなのに、美貌・崇拝・羨望・畏怖・嫉妬と様々な形でレベッカが姿を見せない「主人公」のようにあらわれる。

新婚生活を送るも先妻の物が至る所にあり落ち着かず気味が悪い。レベッカの幻想により狂っていく主人公フォンティーン。夫に喜ばれようとレベッカの肖像画から同じドレスを着ると、無論フォンティーンは美しいのだが、死して尚、影響力を持つレベッカの影に怯えるかのように夫に叱責されて、涙にくれる。全てのことが空回りしてしまう主人公を見事に上手く演じている。美しく聡明なのに自分に自信が持てなくてオドオドしているヒロイン。ずっと見えない敵に怯えている心理描写が巧みだ。 強烈な存在感を放つレベッカと垢抜けしない主人公との対比の妙が面白い。

そして物語は後半のクライマックスへと突入する。埋葬されているはずのレベッカの死体が難破したヨットから見つかり、物語は一転、後半の惹き込まれ方は、さすがヒッチコックの面目躍如たるものだ。レベッカへの想いが、実はそうではなかったことを夫が告白。物語は意外な方向へ予想し得ない結末へと展開する。

この映画の立役者の一人ははメイド長を演じたジュディス・アンダーソンだ。不気味な存在感と秀逸な演技のインパクトは凄まじいばかりに強烈だった。ヒチコック映画には打って付けであった。スリラー映画「危険な情事」1987年でグレン・クロスが演じた怖い女に似通った不気味さだった。

フォンティーンにとっては、オスカー主演女優賞を獲得した「断崖」の前年の映画であるが、「断崖」より主演女優賞に値すると感じた映画であった。彼女が悪夢から目覚め、敢然と困難に立ち向かう決意をして強い女として豹変する様は、姉のオリヴィア・デ・ハヴィランドがオスカーを受賞した「女相続人」における彼女の豹変ぶりに踏襲されているかのようだ。ローレンス・オリヴィエは、シェイクスピア俳優として舞台劇を演じているかのような感じがした。「レベッカ」制作は1940年。ヴィヴィアン・リーと結婚した年。そのせいかどうかは不明だが、新妻フォンティーンとのラブシーンは、殆どなく淡白で軽いキスシーンが一回あっただけ。実生活の新妻リーの影を意識した、と言うのは穿った見方であろうか?それとも、レベッカに影に翻弄されているオリヴィエは、新妻との甘かるべく新婚生活に没頭出来ない、とするヒッチコック演出であったのだろうか?

エンディング近くに登場する主治医役のレオ・キャロルがいぶし銀の演技を見せていた。アメリカ進出後のヒッチコック映画には彼自身のカメオ出演を除くと、最多の6回出演している。「レベッカ」に加えて、「断崖」「白い恐怖」「パラダイン夫人の恋」「見知らぬ乗客」「北北西に進路を取れ」である。全て観たが、彼の鼻の下の長い顔は忘れることが出来ない。

 

(36 栗田)「レベッカ」はこれで5回目かな。最後に観てから数年経つので。やっぱり、白黒映画の醍醐味を教えてくれます。

DVDも持っています。J・フォンテーンが役にピッタリです。姉のハビランドより控えめでいいな。「This is IT」も何回か観ました。 M・ジャクソンはやっぱり天才ね。何をやっても様になる人はそういません。
唯一つ理解できないのは、何であんな整形をしたのかな。あんなチャーミングな顔を授かっていたのに・・・

(41 久米)ヒッチコックがイギリスからハリウッドに渡っての初作品です。

サスペンスですがいかにもイギリス的な文芸作品の香りがする作品です。私が初めて見たときは小学生でしたのでた だただ怖い想い出ばかりでしたが後年観た時はジョン・フォンティンの美しさとローレンスオリヴィエの渋さ、それに恐ろしい侍女役のジュディス・アンダーソンの名演技始めにLast night I dreamt I went to Manderley againというヒロインの言葉で始まる作品です。

(編集子 Harper 社刊 Rebecca  の表紙と 第一ページ の書き出しをあげておく)