エーガ愛好会 (42) 勇気ある追跡 とグレン・キャンベル

(34 小泉)ご存知ジョン・ウエインがオスカーを受賞した記念すべき作品。この年に同時にノミネートされたジョン・ボイト、ダスティン・ホフマン、ピーター・オトゥール、リチャード・バートンとそうそうたるメンバーよりも、ウエインの演技の方が勝っていたかどうかは判らないが、1964年右肺の癌手術後、死線を乗り越え再びヒーローとして、その後淡々としたウエインが復活し、これまでのものにはない新境地に捧げられたものだったし、長年の功労を讃える意味もあったとも言えるだろう。受賞はならず、あまり脚光は浴びていないが、ウエインと共に、父親を殺された14歳の少女(キム・ダービー扮)を助けるテキサス・レンジャーの若い隊員に扮した歌手グレン・キャンベルが、冒頭で歌う主題歌が歌曲賞にノミネートされている。作曲のエルマー・バーンステインは、この歌曲、冒頭のみで、ティオムキンのハイヌーンが全編に流れていたのとは異なる。ということもあり、どうしても先週放映のクーパーアカデミー受賞作の「真昼の決闘」と較べてしまうが、受賞時、クーパー51歳、ウエイン62歳だが、人物の性格が違うことが要因かも知れないがウエインの方が若く溌溂としていた。

 内容は、父を殺された14歳の少女(キム・ダービー扮)が、大酒飲みの保安官(ウエイン)に賞金を提供し、犯人(ジェフ・コーリー)探しを依頼、これにテキサス・レンジャーの若い隊員(グレン・キャンベル)が加わる三人の道中は、直情的で思慮分別の無いウエイン、法律や持ち前の度胸を武器に男勝りのダービー、ウエインの憎まれ口に何かと突っかかるキャンベルとが、道中おおらかさと骨太なユーモアで、人間臭く味わいのある演技を見せる。これに対し悪役の方は、何となく影が薄い。冒頭父が殺される場面、ポーカーのいかさまに憤激する雇人たる犯人をたしなめるだけのことで発砲され死んでしまうシーンはあまりにも唐突。この犯人が強盗団に入る経緯も何もないので、この強盗団も唐突に現れる。強盗団の親玉は名優ロバート・デュバル、部下には、これもデニス・ホッパーがいたが、何れも演技するような役ではない。それでもヘンリー・ハサウエイ監督は西部劇の醍醐味はみせてくれた。銃撃戦の場面は、荒廃した原野ではなく、森林の緑や川の流れや山並みの美しいショットの中で行われる。最後のクライマックス、相手は4人。「真昼の決闘」で、クーパーが相手4人とあちらこちらと隠れながら射ち合いを演じた写実的で現実的な対決とは正反対、ウエインは、口に手綱をくわえ右手にライフル、左手に拳銃を持ち、敵をめがけて馬を走らせ、次々と倒していく。このライフルをクルクル回すシーンは「駅馬車」でのリンゴ・キッドそのものだった。最後は馬を射たれ倒れ、よもやと思われたが、若き隊員の一撃で無事。最後少女との別れのシーンが泣かせる。身寄りのないウエインに対し、「私の家族と同じ墓地に埋めてあげる、と。

(日本HPOB 小田)勇気ある追跡は前回の放送で観て、風格あるジョン ウエイン、そして風景の綺麗さと、少女の勇気、昔良く聴いていたグレーンキャンベルの事が強く印象に残っております。キャンベルの歌は:

ウイチタ ライン マン、恋はフェニックス、ガルベストン、ハニーカムバック等。そして長い、Yesterday, When I  Was Young( 帰り来ぬ青春)の昔手書きした歌詞(日本語訳付き)を思い出して、引っ張り出し、しみじみと?読みました。

(33 小川)勇気ある追跡、イイねえ、晩年のウエイン。小泉兄の云うとおり確かに10歳若いクーパーより若く見えてカッコいい。主演男優賞とは全く知らなったが彼は世界のエーガ界のヒーローであり我々にとってのレジェンドですね、それまで主演賞を獲っていなかったのですか? 一連の西部劇に少し飽きが来ていたなかで、この映画の緑の多い情景とお爺ちゃん・孫の関係、スカッとすると同時に一緒にお墓に入れてあげるというラストシーンは泣かせたねえ~。

(44 安田)不死鳥のようなジョン・ウエインが60歳を過ぎてアカデミー主演男優賞を初めて獲得した映画。彼が出演した154本もの映画のうち、実に79本が西部劇だっとのこと。まさに西部劇の一時代を創った大功労者ミスター・アメリカであった。映画の内容については小泉大先輩の分かり易い解説・感想に付け加えることはない。粗野で酒飲みな隻眼の保安官を喉が嗄れんばかりに大声を上げて演じていた姿が印象的であった。オスカーを受賞して本当に良かったと思う。映画でもう一つ印象的だったのはアリゾナ・テキサスの緑の少ない荒野が舞台でなく、深い谷と森、雪を頂く山の峰々のワンダラー好みの自然が舞台だっとことである。コロラド州のロッキー山脈中の都市アスペン(Aspen) 近くで撮影されたとのことです。アリゾナのモニュメントヴァレーやテキサスの大荒野も良いが、「シェーン」のワイオミングの山岳風景と同様、ロッキー山脈の山懐が舞台の西部劇も捨て難い魅力があると思う。

(編集子)ウエインがやっと(?)オスカーをもらったということで、ファンの立場から言えば特筆すべき作品だが、小生には助演のグレン・キャンベルのほうがはるかにうれしかったフィルムである。このブログを始めて間もない2017年8月11日、彼の死去を知りそのことを書いた。表面は強がっていたものの初めての外国生活となって何だか気弱になっていたカリフォルニアの秋、やっと探し当てた2軒長屋の狭い寝室の窓の外、隣家との間を隔てた塀の上をリスが走りまわるようなところでしみじみと彼の…….I get to Phoenix….を聴いた感傷のほうが先に立ってしまった。しかしミッキー(小田篤子)がキャンベルのファンとは知らなかった。知っていれば会社でのお付き合いも変わっていたかも? いや、ダンナには関係ないけど。

処で話のついで、安田兄、ペイルライダーでイーストウッドが去っていく山はどのあたりかご存じ?シェーンのリメークだから、なくてはならないラストシーンだけど、見終わった感触は全く別物だったね。

(安田) アイダホ州のほぼ真ん中に位置するThe Sawtooth National Recreation Area 。最寄りの町は Sun Valley。「シェーン」の舞台ワイオミング州の風景とよく似ている。 「シェーン」ではジャック・パランスが怖くて犬が尻尾を巻いて隠れるが、「ペイルライダー」では犬が殺されて始まる。ペイルライダーとはヨハネの黙示録の四騎士の一人。襲われた村の少女は愛犬の墓を作って祈る。祈りが通じたのか、ペイルライダーたるべき死神の牧師として蘇ったイーストウッドが登場して、次々に悪党の敵を倒して去っていく。
ちなみに、Sun Valley はアーネスト・ヘミングウエイがこよなく愛した場所で創作活動を行い、散弾銃で自殺した所でもある(1961年)。彼の墓もある。