結婚して長女ができるまでの2年ほど、夫婦ふたりで気ままに歩きまわった。ある6月、野辺山の民宿に前泊、真教時尾根をラッシュした時の、平和な時間の感想である。時季は少し違うけれど、今年もあのアルプは穏やかに息づいているだろうか。
赤岳の午後
みおろせば。
六月の積雲にわずかな起伏をしめす
あれは美し森、清里、野辺山、念場が原。
コンターをたどる愚かはやめて
歯にしみとおる胡瓜の涼しさに声を上げれば
東壁にへばりついた季節外れの雪は
昼下がりを退屈そうに落ちていった。
見上げれば赤岳 2899メートル
なんの すでに貧相な岩くれにすぎぬ。
なれば。
今一度 水筒を傾け
去ってゆく雪のバラードを聴こうか。