新歌舞伎座での観劇は始めてですので、対照的な二つの歌舞伎を楽しみました。歌舞伎は古典伝統にとどまるのではなく、世界史実と現代感覚を取り入れ、変化しているとの動きを感じました。
1, 日本の古典:世話情浮名横櫛・源氏店。これ「お富与三郎」「お富さん」です。玉三郎の粋でシャントした品格あるお富さん、「しがねえ恋の情けが・・・」との名セリフを発する若い細身の染五郎の見せ場も良かったです。
大学2,3年の頃、夏のクラブ活動でお富さんの歌の寸劇をやり、先輩が三味線を弾き、我々数人が「お富さんの歌」を英単語を単純に並べて英語もどきで歌ったことを 懐かしく思い出しました。「粋な黒塀、見越しの松に 仇な姿の洗い髪 死んだはずだよお富さん・・・」を「Pretty black fence over the pine trees, ・・・・」と、恥ずかしくなります、汗顔の至りです。
2, 次世代に変革中との新作歌舞伎:「火の鳥」、8月に初演され、今回は台本/演出を更に練り上げての再演。玉三郎も原純と共に演出に加わってます。好評の様です。
「火の鳥」は伝説上の鳥で、世界各地で、古代エジプトでは「ベンヌ鳥」(不死や再生,創造の象徴)、古代ギリシャでは不死鳥「フェニックス」の物語、 ロシア民話では「ジャール・ブチツワ」として登場。(ガイドブックより抜粋)。
世界各地の伝説を題材として、役者の衣装は日本と西欧衣装を組み合わせ、舞台背景は、日本離れした幻想的大自然、西洋音楽、西洋バレーを取り入れた新作歌舞伎です。
玉三郎の優雅で気品のある「火の鳥」、「大王」役の貫禄ある中車、「王子ヤマヒコ」の若々しい染五郎、「王子ウミヒコ」のモット若い左近、の熱演と脇役出演者の色鮮やかな衣装と動きも素晴らしかったです。
物語は大王が年を重ね病についたところから始まり、二人の王子が対応の望みを聞き入れ、「永遠の力を持つという火の鳥」を捕らえに遠くへ旅立ちます。
火の鳥に出会い捕らえることができずやっとの思いで宮殿に戻ってきた二人は(舞台の上では火の鳥を捜し求め、厳しい現代風大自然環境に放り出され精魂尽き果てた状態),大王に報告、大王はのぞみがかなわないことを知り落胆します。
そこに火の鳥が現れ、火の鳥と3人のやり取りの中で、火の鳥が「真実の永遠は形ある人間の命でなく、“人間の魂”である、”己の魂を磨き、永遠とは何であるかを知り末代まで伝えるように!」と促します。その結果大王は命ある限り民に尽くすことを決意します。大王や二人の王子の様子を見て、火の鳥は、自分の務めは果たせたと告げ、天の叫び、音楽のなかで、舞い上がって姿を消すという物語です。
天に舞い上がるのは宙ぶらりんでなく、舞台上にちらりと見える起重機に乗って、起重機の動きで舞い上がる動作は安全で面白かったです。
館内で気が付いたことが二点ありました:
・自分の耳が遠くなったせいか、舞台上の会話がはっきり聞き取りにくいことが判明。館内で借りた800円のイヤホーンの音を最大限にして聞くといくらか聞こえるという状態になりました。 演技中にはスピーカーは使用されてないようでした。聞き取れるようにする対策を検討しておく必要性を感じました。
・2階の真ん中やや後の席でしたが、舞台まで距離がありますので、オペラグラスを持っての観劇が良いと痛感しました(昨夜オペラグラスを忘れました)
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「玄冶店(げんやだな)」は、歌舞伎の有名演目『与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)』(通称『切られ与三』)の舞台として知られる地名で、実在の江戸(現在の人形町周辺)にあった幕府の御典医・岡本玄冶の屋敷跡を指します。芝居では「源氏店(げんじだな)」と表記され、お富と与三郎の悲恋物語の場面で登場しますが、これは「玄冶」を「源氏」に置き換え実名を避けたものです。(現在の地名では 中央区日本橋人形町3丁目8−2)です。
(船津)ご参考までに!源氏店妾宅の場より与三郎の名科白は下記の通り。
与三郎:え、御新造(ごしんぞ)さんぇ、おかみさんぇ、お富さんぇ、いやさ、これ、お富、久しぶりだなぁ。お富:そういうお前は。与三郎:与三郎だ。お富:えぇっ。与三郎:お主(ぬし)ゃぁ、おれを見忘れたか。お富:えええ。与三郎:しがねぇ恋の情けが仇(あだ)命の綱の切れたのをどう取り留めてか 木更津からめぐる月日も三年(みとせ)越し江戸の親にやぁ勘当うけ拠所(よんどころ)なく鎌倉の谷七郷(やつしちごう)は喰い詰めても面(つら)に受けたる看板の疵(きず)が勿怪(もっけ)の幸いに切られ与三(よそう)と異名を取り押借(おしが)り強請(ゆす)りも習おうより慣れた時代(じでえ)の源氏店(げんやだな)その白化(しらば)けか黒塀(くろべぇ)に格子造りの囲いもの死んだと思ったお富たぁお釈迦さまでも気がつくめぇよくまぁお主(ぬし)ゃぁ 達者でいたなぁ安やいこれじゃぁ一分(いちぶ)じゃぁ帰(けぇ)られめぇじやねえか、死んだはずだよお富みさん……..
(編集子)どうも編集子の知性レベルでは、火の鳥の歌より与三郎のセリフに共感するようで (フナツ、ありがと)。
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