老いた紅衛兵と固く握手した。彼は誇らしげに五星紅旗を掲げていた。
そこは「鴨緑江」を跨ぐ鉄橋、「鴨緑江断橋」である。約100年前に日本が建設した「鴨緑江橋梁」。1950年の朝鮮戦争中にアメリカ軍によって爆撃された断橋。彼らはマッカーサー元帥と対決し、勝利したことを中朝兄弟の絆として祝っていた。
「丹東」は中国と北朝鮮との境に流れる「鴨緑江」に沿った都会である。朝鮮族が多く住む北朝鮮を臨む国境の町でもある。中国も北朝鮮も同じく厳しい監視国家。「鴨緑江」は監視国家が監視国家を監視する自然の大河なのだ。
老いた紅衛兵はつぶやいた。“地上のユートピアと言われた北朝鮮、今では地上の地獄と言われている” 。北朝鮮を臨む支流は幅50m程度であるから泳いで渡れる。双眼鏡で眺めると北朝監視兵は機関銃を抱えて警備していた。
「一歩跨」と掘られた記念碑があった。たしかに一歩跨ぐだけで楽に往来できる。しかし現実は有刺鉄線が数本重ねられて逃亡を防いでいる。「地上の地獄」に閉じめておこうという固い決意の表れである。記念碑の横にある中朝友好の国旗は無言だった。
中国と韓国は今では経済的に強く結ばれている。北朝鮮よりも韓国が友好国なのである。歴史の皮肉と思える。

