乱読報告ファイル (59)六つの奇妙なもの  (普通部OB 菅原勲)

「六つの奇妙なもの」(著者:クリストファー・セント・ジョン・スプリッグ/1937年。訳者:水野恵。発行:論創社/2006年。論創海外ミステリーの第57巻、2025年12月現在、全部で339巻が発行されている)。本来、探偵小説にネタバレは禁物だ。しかし、これから、この本を読むような奇特な人は先ずいないと思われるので、大変、僭越ながらネタバレしながら話しを進めて行くことにする。

なお、題名の「六つの奇妙なもの」(The Six Queer Things)とは、犯人を示唆する有力な手掛かりのことを指している。

話しは、両親を早々に亡くし、しがないタイピストをやっているマージョリーが伯父の家で同居していることから始まる。その伯父が極めて吝嗇なことから、マージョリーはより良い仕事を探し、伯父に猛烈に反対されるものの、独立することを決意する。ここまでは、何のこともない至極もっともな出だしだ。幸いにも、彼女は、実入りの良い新しい仕事を見つけるのだが、それが、霊媒師の兄とその妹による心霊会の書記係であり、また、その兄妹と同居することが条件となっており、これらのことが彼女の大変な不幸の始まりとなる。

ある時、霊媒師によって死んだ母が呼び出されることがあり、それを切っ掛けに、彼女は霊媒師に心酔することになる。その結果、彼女は、却って、混濁した妄想と打ち砕かれた夢が支配する世界に叩きこまれる。その間、霊媒師が毒殺され、検視の結果、実は彼が女であることが判明する(これは、宝塚か)。ここで、スコットランド・ヤードのモーガン警部がその真相を究めるべく登場する。

要するに、伯父、霊媒師、心霊会に頻繁に出席する未亡人、霊媒師が紹介した医者、兄妹の運転手などが一体となってグルとなり、精神病院への強制的な入院などによって、彼女を心神喪失の状態に陥れようとする。しかし、何故、こんなか弱きマージョリーを、皆で寄ってたかってここまで苛め抜くのか、彼らの動機が全く分からないまま話しが進んで行く。この動機が初めて明かされるのは、この本は全体で323頁なのだが、やっと終盤に差し掛かる291頁だ。それは、豪州にいたマージョリーの従兄が可なりの財産を彼女に遺しており、それを初めて知った伯父がそれを入手すべく、関係者に持ち掛けた企みだったことが、ここで、やっと、明らかになる。

しかし、これでは、どう考えても、後出しじゃんけんに他ならない。こんな重要なことは事前に明らかにされているべきだし、そうでなければ、読者に対しフェアであるとは言い難い。つまり、探偵小説の作家は、手の内を晒した上で(これを、E.クイーンの言う「読者への挑戦」と呼んでも良いが)、さー、真相は、と問いかけるのが本筋ではないか。その上で、巧妙な手練手管を弄して、読者を間違った方向に導いて行くのが勝負の為所ではないだろうか。加えて、全体を統括する犯人が(ここでは、統轄と呼んでいる)、確かに、意外な犯人ではあるのだが、出番の極めて少ない兄妹の運転手と来ては、無理矢理、意外な人物を犯人に仕立てたとしか思えない。「奇妙な・・・」にはいささか期待していただけに、失望したとしか言いようがないのは誠に残念だ。

小生、この1907年生まれのスプリッグと言う探偵小説作家がいたことを、今回、初めて知ったのだが、彼はマルクス主義者で、御多分に漏れず、スペイン市民戦争に義勇兵として参加し、1937年、戦場で命を落とすこととなった。従って、この「奇妙な・・・」は遺作と言うことになる。解説を書いている森英俊は、「・・・前作に見られた破天荒なプロットにさらに磨きがかかり、・・・」と絶賛しているのだが、解説は、本来、それをヨイショする人が書くものではあるが、それにしても、これはいささか褒めすぎだ。

実は、「Re-ClaM」(Rediscovery of Classic Mystery)と言う同人誌があるのだが、そこから、今年末にスプリッグの「完全不在証明」(2700円)が出版されることを知り、じゃー、事前に、これまで翻訳されていたスプリッグの本を読んで見ようかなと思い立ったのが、この「奇妙な・・・」だった。さて、1934年に発行されたこの「完全・・・」の出来はどうだろうか?

最後に、A.クリステイーは長編小説を66冊書いたと言われている。小生、勿論のこと、その全てを読んだわけではないが、これまで読んだクリスティーの探偵小説に失望したことは一回もない、バカにされたことは頻繁にあるけれど。そう言う点で、クリスティーは空前絶後、ただただ凄いとしか言いようがない。確かに、論創社を中心に、過去の未訳の、それも、初めての作家による探偵小説が、大量にではないが、連綿と発行され続けている。しかし、残念ながら、そのクリスティーに太刀打ち出来る新しい作品は一つもない。

(編集子)スガチューの読書ぶりはただ感服するばかりだが、およそ聞いたこともない作品をどうやって探すのか、がずっと疑問だった。今回、その秘密がわかって、妙に安心している。こっちは新宿高島屋スクエアに移転した紀伊国屋洋書店にいくか、アマゾンでめくらっぽうにさがすか、くらいしか手段が思いつかないが、いつでも紀伊国屋のミステリコーナーに並ぶクリスティの作品をながめるだけで満腹してしまう。畏友、おそるべし。

ポケットブック読破計画第二段、なのだがここのところ、読破力が著しく衰えてきたこと恐怖を覚えているのが実情である。新しい年を迎えて、と張り切りたい気持ちばかり先走りしている。ただいま現在、最近売り出し中の M.A.クレイヴン ”ワシントン・ポーシリーズ”に挑戦中。どうも 英国人の書いた英語 はやりにくい。スガチュー稿にあたる写真がどうしてもみつからないので、現況報告半分、目下格闘中3冊の写真をもって替える。