エーガ愛好会 (329)左ききの拳銃   (34 小泉幾多郎)

「俺たちに明日はない1967」でニューシネマを誕生させ変革の時代の寵児と言われたアーサー・ベン監督のデビュー作。モノクロであり、広大な西部の景
観も出て来ないし、TV映画を観ている感じで、まだまだ革新的な時代の寵児出現という感じまでは認識しなかった。しかしこの作品の主演が「銀の盃1954」「傷だらけの栄光1956」に次ぐ主演3作目のポール・ニューマンで、当時マーロン・ブランドのコピーと言われていた時代だったが、西部開拓期の反逆児ビリー・ザ・キッドの演技によって新しいスターの誕生が予告され、作品自体も、従来の西部のヒーローとは変わった視点から描いていたと言えるのかも知れない。

現存しているビリー・ザ・キッドの写真

伝説のアウトロー、ビリー・ザ・キッドの生き様を生々しく、また人間味豊に描いた作品で、精神的に追い込まれて行く様をリアルに演じている。

冒頭、熱気と疲労にやられたウイリアム・ボニー(ポール・ニューマン)別称ビリー・ザ・キッドが牛商人一行の代表タンストール老人(コリン・キース=ジョンストン)に救われる。その一行がリンカーンと言う町へ入ると、自分らの経済的損失を受ける恐れを抱いている保安官ブラディ(ロバート・フォーク)、副保安官ムーン(ウオーリー・ブラウン)、商売敵の家畜商ビル(ボブ・アンダーソン)とモートンの4人は、タンストールが町へ入ろうと峠道を歩いているところを待ち伏せ射殺してしまう。それを知ったビリーは、恩人の仇とリンカーン街道で保安官ブラディとモートンを射殺する。副保安官であるムーンは法の名により、ビリーに制裁しようと知人の隠れ家に逃げたビリーを取り囲み、火をつける。焼死した情報が流れる中、辛うじて脱出したビリーは旧知のサバル(マーティン・ギャラガーガ)と美しい妻セルサ(リタ・ミラン)のもとに身を寄せ、養生する間に、セルサといい仲になったりする。

仲間の牧童チャーリー(ジェームズ・コンドン)とトム (ジェームズ・ベスト)に合流したビリーは、連邦保安官が来たとおびき寄せ、副保安官ムーンをチャーリーが射殺、最後の一人ヒルは腕の経つパット・ギャレット(ジョン・デナー)に保護を求める。パットは結婚式を控え、それどころではなかったが、結婚式当日、恐怖に発砲したヒルをビリーが射殺し、結婚式だけは血で汚さないよう警告していたパットは怒り、保安官に就任、自警団を組織し、ビリー以下3人を追うことになった。トムとチャーリーは射殺、ビリーは捕獲され、絞首刑の宣言を受ける。鎖につながれたビリーは、トイレに行く機会を狙い逃亡、逃げまどうが、結局サバルとセルサの家に辿り着くものの、ビリーと懇意だった出版社のモールト・リー(ハード・ハットフィールド)の情報から、パットに知られていた。この家の二人からも愛想を尽かれ、この世に未練をなくしたビリーは、ピストルをサバルに渡し、撃つように願い、家を出たビリーは、待ち構えていたパットに声をかけられ、振り向いた一瞬、弾を受け絶命した。

雇い主の仇を討つことで、晴れ晴れとした気分で、大きな罪の意識はなく、人との暖かい交わりを求めながらも、雇い主タンストール老人以外の人たちとは誰一人とも、そういう生き方が出来ない不器用な若者を丁寧に描いていた。

(飯田)「左ききの拳銃」のストーリーが書き難かったと言われるのは、御尤もですが、小泉さんの感想文の最後のパラグラフで、ストーリーの総てを言い表していると最初に読んだ時に思いました。その部分は以下のパラグラフです。

≪雇い主の仇を討つことで、晴れ晴れとした気分で、大きな罪の意識はなく、
人との暖かい交わりを求めながらも、雇い主タンストール老人以外の人たちとは誰一人とも、そういう生き方が出来ない不器用な若者を丁寧に描いていた。≫

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ビリー・ザ・キッドを描いた映画は多くあり、トーキー以降次の通り10作品。未見①⑨⑩1.      ビリー・ザ・キッド1930ジョニー・マック・ブラウン ②最後の無法者1941ロバート・テイラー ➂ならず者1943ジャック・ビューテル
➃テキサスから来た男1953オーディ・マーフィ ➄左ききの拳銃1958ポール・ニューマン ⑥チザム1970ジョイフリー・デュエル ⑦ビリー・ザ・キッド21歳の生涯1973クリス・クリストファーソン ⑧ヤングガン1988エミリオ・エステベス ⑨ビリー・ザ・キッド1989ヴァル・キルマー ⑩ビリー・ザ・キッド孤高のアウトロー2019ディン・デハーン

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この映画の背景にある史実はリンカーン・ウオーとして名高い抗争である。ウイキペディアの抜粋:

リンカーン郡戦争(Lincoln County War)は、1870年代後半のアメリカ西部の辺境で起きた事件のこと。当時のニューメキシコ準州リンカーン郡で発生した、二つの派閥の間の一連の紛争事件を指す。この「戦争(War)」は、裕福な牧場主が率いる派閥と、独占的な雑貨店の経営者が率いる派閥との間で起こった。牧場主側の派閥には、ヘンリー・マカーティことビリー・ザ・キッドがいたことで有名な事件である。

地域の物資、商売を事実上独占していた雑貨店「ザ・ハウス」を、郡庁所在地のリンカーンに所有していた経営者たちは、ニューメキシコ州サンタフェの土地の役人とも親密な関係にあり、トーマス・B・カトロンを筆頭とした、地域の法の執行を牛耳る政治/犯罪組織、「サンタフェ・リング」を形成していた。

24歳のジョン・タンストールは、イギリス人の牧場主で、地域の銀行家かつ商人。 彼と、法律家のアレクサンダー・マクスウィーン英語版、地域に莫大な頭数を抱える有名な牛飼いのジョン・チザムの3名は、マーフィーとドランの派閥のギャング「ザ・ボーイズ」に対抗するため、乱暴者の徒党「レギュレーターズ英語版」(整理屋)を率いており、この中にビリー・ザ・キッドも含まれていた。タンストールは「ザ・ハウス」の真向かいに雑貨店を開き、チザムから買った牛を納品した。チザムは、以前からマーフィー派を快く思っていなかったのでタンストールに協力した。

(編集子)上記小泉リストの6番目、チザム は実在の人チザムの話で、ジョン・ウエインとベン・ジョンソンという筆者ごひいき二人至極明快な仕立ての活劇だが、キッドは快活で正直な青年として描かれていて、名保安官となるパット・ギャレットとの友情もからむ、ここのニューマンものより爽快感のある作品だった。ジョン・チザムが開拓した牛の運搬ルートはチザム・トレイルとよばれてまだそこここに残滓がみられるはずであり、かの ”赤い河” も明示的ではないがこのルートの話だろうといわれている(本題には関係ないが、”チザム” で雇われガンマンを演じたのがクリストファ・ジョージで、彼の凄みのある悪漢ぶりは記憶に残っている)。