ブロードウエイ出身で舞台劇の映画化を得意とし、演技指導、女優扱いの名人で巨匠と言われたジョージ・キューカーが監督した唯一の西部劇「西部に賭ける女
1968」。西部劇とは言うものの、所謂バックステージもので、借金を背負った旅芸人一座が巻き込まれるトラブルと看板女優をめぐる色恋沙汰が小気味よく描かれる。
シャイアンの町に、旅回りの一座ヒーリ劇団が着いたところから開幕。座長トム・ヒーリー(アンソニー・クイン)、女優アンジェラ(ソフィア・ローレン)、若い女優デラ(マーガレット・オブライエン)、その母ローナ(アイリーン・ヘッカート)、シェークスピア俳優を自称するマンフレッド(エドマンド・ロウ)が幹部。この一座オッフェンバッハのオペレッタ「トロイのヘレン」で成功してきたが、劇場主から、この土地には合わぬとの助言でアンジェラが男装し生きた馬に乗り、駆けずり回る舞台演出の「マゼッパ」という芝居が大当り。
しかし土地の暴れん坊で色男のメイプリー(スティーヴ・フォレスト)にアンジェラがポーカーで負けたりして、一座は無一文で町を逃げ出し、ボナンザの町へ。途中アパッチ族に襲われるも、メイリーの助けで逃げ切ることが出来たが、この時のインディアンの服装がいつもの羽で飾り付けたパンツだけでなく、白人同様の恰好が、格を上げている、というのは監督のセンスか。
舞台で生きた馬を使ったりしながら、ソフィアを男装美姿や細いウエスト、縦縞のタイツとか、とっかえ、ひっかえの舞台衣装を楽しませ、子役で有名な23歳のマーガレットも脇役ながらも美しさが光り、その後大成しなかったのが不思
議だ。結局、借金を背負った旅芸人一座が巻き込まれるトラブルは、ボナンザの
ボスであるデ・レオン(ラモンソ・ヴァロ)がメイプリーに5000ドルの借金があり、アンジェラはメイプリーの代理を偽装した借金を受け取りマドリーに届けず町の中心地の酒場を購入、デ・レオンの差し金の殺し屋にメイプリーと間違われ撃たれ負傷したトムとその一行が来る前に、酒場を購入し、グレイト・ヒーリーズ・テアトルとつけた。メイプリーは、アンジェラとトムが愛し合っていることを知り、借金を迫るのをやめるという人の良いところを示す。レオン一味が楽屋を取り巻いたが、アンジェラは、身代わりにマドリーを馬に括り付け、劇場の外へ走り去らせ、その後ヒーリ劇団はトムとアンジェラを中心に成功し、めでたし、めでたし。
主役二人の間をかき回すメイプリー役のスティーブ・フォレストは、ダナ・アンドリュースの弟で、「燃える平原児」で、プレスリーの兄を演じた好漢で、ここでもソフィアの愛人に誤認されるが、当て馬的役柄がもう一つスッキリせずに終わってしった。逆にクインは控え目なながら、借金を背負いながら、喧嘩をすれば強く、ヒロインであるソフィアは、衣裳と共に可愛さを増す等、西部劇とは別の男女の機微を巧みに描いてきているのは監督の手腕なのだろう。
(飯田)色男のメイプリー役のスティーヴ・フォレストが、ダナ・アンドリュースの実弟だということは知らなかったですが、確かに”当て馬的役柄がもう一つスッキリせずに終わってしまった”と言われる小泉さんの感想に私も同感です。
マーガレット・オブライエンは「若草物語」のイメージが強く、他の役はもう一つイメージが違う。アンソニー・クインとソフィア・ローレンは確かに、この映画で主役の役を演じたと思えました。
ところで、この映画は製作者にカルロ・ポンティ(イタリア出身)が名を連ねてますが、ソフィア・ローレンの結婚相手がハリウッドの大物プロヂューサー(セシル・B・デミル等と肩を並べる大物)で90歳のソフィア・ローレンはカルロと1972年~2007年まで、夫婦として長年連れ添った間柄。カルロ・ポンティは自身の製作する映画に、時々、愛妻を出演させて稼がせていたので、この映画もその一本。
映画の劇中出てくる演劇は「トロイのヘレン」と「マゼッパ」ですが、「トロイのヘレン」は往年のギリシャ人の美女ロッサナ・ポデスタ主演の映画でお馴染みの方も多いと思います。もう一つの「マゼッパ」ですが、歌劇「マゼッパ」(チャイコフスキー作曲))でも舞台化されている、今や世界の注目のウクライナのロシアからの独立を画したマゼッパとマリアとの愛憎劇の筈です。
(小田)アンソニー・クインとソフィア・ローレンのインパクトあるふたりがこの映画を引き立てていました。ソフィア·ローレンがこれ程バービー人形のようなスタイルだったとは知りませんでした!
昔デパートで催された、(オーストリア皇妃)エリザベート展で、ガラスケースに飾られていたウエスト50cmのドレス(身長は172cm)を思い出しました。
スティーヴ·フォレスは「燃える平原児」でElvisのお兄さん役だったこと、小泉さんのご指摘で知りました。同じ’60年の作品のようですが、髭無しのほうが、スッキリと知的に見える様な気がします。
(編集子)英語版のタイトル HELLER というのがあやふやなので辞書を引いた。エクスワ―ド搭載新英和辞典にいわく:
(米俗)騒々しい(乱暴な、向こう見ずな)人、扱いにくい人
だそうだ。小泉さんのご感想はいかが。
(小泉) 「西部に賭ける女」のHELLERのことですが、実は。原名Heller in Pink Tights を見た時、Heller という人物が、画面に現れず、座長のHeallyと似てはいるが、違うし、疑問のまま提出してしまった次第です。貴辞書によるHELLERの意味が判明し、小生もパソコンで調べたりした結果、貴文書通り、騒々しい、乱暴な、向こう見ずな人、扱いにくい人で、特に通常若い男とありました。ピンクのタイツを着たソフィ
ア・ローレンがしかも薄物一枚といういで立ちで、劇中馬の背中に仰向けに縛られるというというところ等「ピンクタイツの腕白小僧Heller in pink taightu」の由来になっているようです。それにしても、わかりずらい原名です。
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