アンソニー・マン監督が、ジェームス・スチュアート主演の西部劇「ウインチェスター銃‘73 1950」のヒットによって、その後「怒りの河1952」「裸の拍車1952」「遠い国1954」「ララミーから来た男1955」と、スチュアート主演の西部劇を連作するが、3作目がこれだ。出演者は、途中襲ってくる先住民を除くと5人のみ。脚本が、当時TVラジオの新進ライターだったサム・ロルフとハロルド・ジャック・ブルームでアカデミー脚本賞にノミネートされた。5人のみながらもシンプルなストーリーラインの中にスリルとサスペンスそして心理戦を提供して呉れる。主人公を演じるのは、愛する人の裏切りから曾って所有していた牧場を売払われ、その上駆け落ちまでされた身の上のジェームス・スチュアート、途中で道ずれになる金発堀の夢を捨てきれない老人ミラード・ミッチェル、素行不良で退役となった元騎兵隊大尉ラルフ・ミーカー。スチュアートは売り払われた牧場分を取り返すべく賞金稼ぎとして、目当ての無法者ロバート・ライアンを追う。途中で知り合ったミッチェルとミーカーの助けを借り、崖の上に見付けた無法者ライアンとライアンに連れ添う女性ジャネット・リーを捕えアビリーンまで護送することになり、ここでライアンには賞金5000ドルがかかっていたことを知られ、漁夫の利を得たいミッチェルとミーカー、3人を仲間割れさせて逃亡の機会を狙うライアン、進行と共に、ライアンとスチュアートの間で揺れ動く女心のリーが夫々の思惑でのロードムービーとなる。女心、男を簡単に乗り換えると言えば身も蓋もないが、ライアンからスチュアートへの変心は、雨の洞窟で、置かれたアルミ食器に落ちた雨だれの音が、フォスターの夢見る人になるシーンとなり、二人が心を通わせるのだった。音楽は「リリー1953」でアカデミー作曲賞のブロニスラウ・ケーパー。リーは「若草物語1949」の長女から4年後、「サイコ1960」の7年前で、へアーがショートカットの一番美しい時か。
開巻早々から雪を被った山々が背景に見える自然の景色が美しく、青空の下の疑心暗鬼な人間模様が小さく見える。いきなりの断崖を挟んだ登攀から始まり、断崖の垂直の構図に崖からの落石等高低差を活かした戦いはスリル満点。最後の渓谷を挟む断崖での戦い迄続く。撮影監督が「陽のあたる場所1951」でアカデミー撮影賞の名匠ウイリアム・C・メラー。この5人以外の戦いは、ミーカーが先住民女性に悪さをしたことから先住民に襲われ、スチュアートが脚に怪我をするも撃退する事件のみ。ミッチェルは、ライアンから金鉱の在り処を教えると巧みに持ち掛けられリーと共に、脱出させられ射殺される。これを知ったスチュアートとミーカーは激しい射ち合いの末、ライアンは激流に落ち、ライアンの死体を拾い上げたミーカーは流木に流されてしまう。この最後の戦いも渓谷沿いの断崖での戦いとなる。開幕でスチュアートの拍車が大写しで描写されるが、最後にスチュアートが断崖を登るのにピッケルとしての助けと相手ライアンの顔面をやつける飛び道具となる題名通り重要な小道具だった。結果は、一人になったスチュアートが賞金を独り占めできることになり、ライアンの死体を馬に括り付けようとしているとき、リーからそれでも一緒に行くと言われ、賞金稼ぎの生き方と牧場をやっていた自分とは違うのではないか、自問自答の結果賞金をやめても新しい生活を求めることを決心し、死体を埋葬し、二人新天地カリフォルニアに向けて旅立つのだった。
拍車(はくしゃ)は、乗馬用のブーツのかかとに取り付ける金具のこと。 西部劇に登場するカウボーイのブーツについている、あの歯車です。 拍車を馬の脇腹に当てて、刺激を与えることで馬を加速させます。 金属製ですが、先端は尖らせず丸くするなどの工夫があり、馬を傷付けることはありません。
(飯田)異色の西部劇「裸の拍車」を再々見しました。さすが、アンソニー・マン監督だけあって見どころ満載に仕立ててあり、観終わって疲れを感じるほど次々と見どころが出てきます。小泉さんの解説・感想文の ≪5人のみながらもシンプルなストーリーラインの中にスリルとサスペンスそして心理戦を提供して呉れる≫ の部分が、この映画の組立を十分表現していると思います。
本当に5人以外は途中で襲って来るインディアンが出て来るだけで、コロラド州を撮影現場にした雪を頂くロッキー山脈が幾度も遠方に背景として見える風景は、この映画の影の主役とも言える光景です。後半の銃撃戦からは“空と陸と川の3つの要素“を上手に使って、J.スチュワートの崖をよじ登る場面では「空と陸」、旅の途中で川の畔で野宿するシーンやR.ライアンが撃たれて川に転落死した後の場面では「陸と川」というように、UPを多く取り入れた撮影を交えて上手く製作されていると思います。
5人の中では、善良なアメリカ人の代表のような(この映画では賞金目当ての元保安官で故障した愛馬を殺してしまうやや複雑な善人役)J.スチュアートよりも、悪人役の(他の映画では善人役も演じる)R.ライアンの方が味が出た映画かな~とも思いました。