2024年の本作では、真田広之が『ラストサムライ』(2003年)以降海外での活動を本格化し、プロデューサーとして本作を実現するに至った。20年に及ぶ海外活動の集大成とも思える獅子奮迅の活躍だ。真田本人も「この20年間の集大成。自分にとって非常に大きな第一歩だった」と強い思いを馳せている。黒澤映画の三船敏郎、「ラストサムライ」「SAYURI」「硫黄島からの手紙」の渡辺謙に続く逸材だと思う。
全10話のドラマの内、第1話「按針」(英:Anjin)と第2話「二人の主君に仕えて」(英:Servants to Two Masters)の映画を映画館で観た。アメリカ映画ながら、日本人出演者のセリフは全て日本語。ヨーロッパ人の役柄(スペイン、ポルトガル、オランダ、イギリスなど)出演者は全て英語で邦訳字幕が画面に。1950〜60年代の黒澤映画を彷彿とさせる殺陣シーンでの迫力と臨場感はこの先3話以降を期待させるに充分であった。
ドラマ界のアカデミー賞と言われる第76回エミー賞のドラマシリーズ部門で作品賞、主演男優賞(真田広之)、主演女優賞(アンナ・サワイ)など18部門を受賞するという快挙を成し遂げた。
ヨーロッパとはまったく違う社会制度や生活習慣に驚きながらも、吉井虎長(徳川家康)らの武将やヨーロッパ人宣教師らなどと関わり、政治的に激動する日本で生きていく 実在したイギリス人ウィリアム・アダムス(三浦按針)をモデルにしているが、内容は実在の人物を架空の人名に置き換えた史実と異なるフィクシンである。吉井虎長とジョン・ブラックソーン(三浦安針)を軸に物語が展開していく。僕には興味深く面白かったのは、知っている史実とフィクションのストーリーが展開する未知との遭遇の対比だった。
映画の時代は、天下を治めていた太閤豊臣秀吉亡き後(1598年)、太閤の遺言で世継ぎの八重千代(秀頼)が元服するまでの政治を任された「五大老」のひとりである戦国武将の吉井虎永(徳川家康)は、覇権を狙うほかの五大老たちと対立し、包囲網を徐々に狭められていた。そんなある日、イギリス人の航海士ジョン・ブラックソーン(按針)が虎永の領地である伊豆半島網代へ漂着する。虎永は、家臣である戸田文太郎(細川忠興)の妻で、キリスト教を信仰して語学にも堪能な戸田鞠子(細川ガラシャ)に按針の通訳を命じる。按針と鞠子の間には次第に絆が生まれていき、按針を利用して窮地を脱した虎永は、按針をサムライの地位に取り立てることになるが、第2話まではそこまでの展開は未だ描かれていない。ガラシャ演じる俳優アンナ・サワイはニュージーランド生まれの海外を拠点に活躍する日米両語堪能な日本の女優。いかにも欧米人好みの頬骨の高い顔立ちと姿は、1980年「将軍」の同役を演じた島田陽子とは好対照だ。
プロデューサー真田の関与によって、その時代、身分によって異なる歩き方、座り方、立ち方、お辞儀の所作、デザイン衣装と衣服生地と色彩、室内装飾、建物の巨大セット、日本の美の時代考証、そしてセリフの一言一句まで日本人が観ても違和感ない戦国時代の日本と日本人を描くべくアメリカ人監督・スタッフと打ち合わせを重ねたと言う。これまでのハリウッド作品における日本描写の違和感を克服して見応えのある映画に仕上がっていると思った。電灯がない蝋燭の明かりによる当時の室内の薄暗さ具合が時代に忠実で流石だとも思った。
「SHOGUN 将軍」が描く日本は“本物”なのか? 主演・プロデューサーを務めた真田の功績を引き続き第3話から第10話まで楽しみたい。
細川ガラシャ:
明智光秀の三女で、後に細川ガラシャと呼ばれる明智たまにインスパイア。1563年生まれのたまは、父親が織田信長の家臣として出世する間、恵まれた少女時代を過ごす。1578年、15歳で、同じく信長の家臣であった細川藤孝の長男・忠興と結婚し、5人の子供に恵まれた。しかし、1582年に父親が本能寺の変を起こすと、たまも幽閉の身となる。この間にたまはキリスト教を学び、忠興が九州に遠征に出ている間に洗礼を受ける。しかし、洗礼を受ける直前に秀吉がイエズス会禁教令を出したため、九州から戻った忠興は、たまに棄教を迫った。これが2人の間に深刻な不和を引き起こしたと言われる。1600年、細川家が家康に加勢したとき、たまは大坂に残り、やがて来るべき戦争で重要な役割を果たすことになる。
女優アンナ・サワイ
ニュージーランドで生まれ、東京で育つ。来日してすぐオーディションで選ばれ舞台で俳優デビュー。2009年に『ニンジャ・アサシン』で映画デビューを果たし、英BBC製作のドラマ「Giri /Haji』やApple TV+で配備された「パチンコーPachinko』、映画『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』(21)に出演し、高い評価を得る。 Apple TV+で配中のドラマシリーズ『モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ」では主要キャラクター、ケイト・ランダ役を演じ、カート・ラッセルらと共に主要キャストとして出演した。
キャスト (史実で相当するキャラクターは[ ]内で表記)
・吉井虎永[徳川家康 – 真田広之
・ジョン・ブラックソーン[ウィリアム・アダムス/三浦按針]- コスモ・ジャーヴィス
・戸田鞠子[細川ガラシャ]- アンナ・サワイ
・樫木藪重[本多正信] – 浅野忠信
・樫木央海[本多正純] – 金井浩人
・石堂和成[石田三成] – 平岳大
・戸田文太郎広勝[細川忠興] – 阿部進之介
・戸田広松[細川藤孝] – 西岡徳馬
・落葉の方[淀殿] – 二階堂ふみ
・桐の方[阿茶局] – 洞口依子
・ロドリゲス司祭 – ネスター・カーボネル
・マルティン・アルヴィト司祭[ジョアン
・ロドリゲス] – トミー・バストウ
・中村八重千代[豊臣秀頼] – セン・マーズ
・中村秀俊(太閤)[豊臣秀吉] – 螢雪次朗
・大蓉院[高台院・北政所] – AKO
・大野晴信[大谷吉継] – 黒川武
・木山右近定長[小西行長] – 井田裕基
・杉山如水[前田利家] – 戸田年治(ドイツ語版)
・伊藤輝鈍[宇喜多秀家] – 篠井英介
・明智仁斎[明智光秀]- ユタカ・タケウチ
・黒田信久[織田信長]- 尾崎英二郎