エーガ愛好会 (287) エルドラド  (34 小泉幾多郎)

ハワード・ホークス監督ジョン・ウエイン主演の西部劇三部作のうち。1作目「リオ・ブラボー」は、No.54、3作目「リオ・ロボ」は、No.149にて、ブログに掲載されているが、この2作目「エル・ドラド」は掲載がないので書いてみた。ホークス監督の西部劇の本数は意外と少なく、この三部作のほか「赤い河」と「果てしなき蒼空」の計五本しかない。しかもキャトル・ドライヴ(家畜輸送)を扱った「赤い河」と毛皮猟師の冒険を描いた「果てしなき蒼空」はいわゆる開拓を扱った典型的な西部劇であるのに対し、三部作は土地の所有権と町の支配権をめぐりガンファイターが活躍し、殺し屋の一団に立ち向かう孤独なシェリフとその仲間たちという対決の図式で描いている。この三部作が似たような対決の図式からの安易な焼き直しで、監督が過去の遺産を食いつないでいる等と批判されたりもしているが、西部劇の魅力はマンネリズムに対する快感とする者にとっては魅力でもある。

開巻するとタイトルと共に流れるのは、油絵による西部特有の広大な風景の中、走る牛の大群のロングショットや馬による追跡等キャンバスに描かれた美しい構図。タイトルの中にOriginal Painting by Olaf Wieghorst と記載。ジョン・フォードが愛したフレデリック・レミントンとかチャールズ・ラッセルの流れを汲むデンマーク系の画家オラフ・ウイーグホルスト(1899~1988)が描いたとのこと。この油絵をバックに、ジョージ・アレキサンダーがぶっとい声で雄大な主題歌のメロディを唄う。しかしこの広大なる自然描写の解放された絵が画面に現れるのは、ここだけ。小さな町の極めて限定された空間の中に閉じ込められた状態で進んでいくのは、三部作何れも変わりはない方式。お互いに、プロと認め合った男たちが集まり、より連帯感を深めながら困難を乗り切る。ルールとプライドを堅持しながら、ダイナミックに生き抜いていくのだ。

大筋としては、水源の権利を持つ牧場主ケビン・マクドナルド(R・G・アームストロング)とその権利を狙う新興の牧場主バート・ジェイソン(エドワード・アズナー)の争いに保安官ハラー(ロバート・ミッチャム)はマクドナルドを援助、ジェイソン側は、ネルス・マクロード(クリストファー・ジョージ)等の豪腕ガンマンを雇って対抗。保安官側は、女のことで酒浸りとなり酔払いのその保安官ハラー、豪腕ながら腰に撃たれた弾が残り、痛みと右手に痺れが出るコール(ジョン・ウエイン)、射撃が下手で、ショットガンしか使えないミシシッピー、年寄りのブル(アーサー・ハニカット)、何れも「リオ・ブラボー」での、ディーン・マーチン、ジョン・ウエイン、リッキーネルソン、ウオルター・ブレナンに該当する。最期は、ジェイソン一味がいる酒場に、ハラーが正面から、コール、ミシシッピーが裏から突入、激戦の末、駆け付けたジョーイがジェイソンを射殺するなどして、ジェイソン一味は壊滅。コールとハラーは傷ついた身体を共に松葉杖を突きながらの退場で終幕。

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〈スペイン語〉エルドラド、エル・ドラド、黄金郷 ◆16世紀に宝を求めて探険家 たちが探し回った南アメリカの伝説の地。 el=the、dorado=golden。 〔一般に〕黄金郷 ◆莫大な富またはチャンスを与えてくれる地。

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(編集子)ドク・コイズミ解説に多少補足をさせてもらう。ウエインの老年期に作られた西部劇はこのホークス監督三部作のほか、歴史的事実に立脚した チザム (ヴィクター・マクラグレン監督)とやはり実在したとされる人物にまつわ

クリストファ・ジョージ

る話としてつくられた エルダー兄弟 (ヘンリー・ハサウエイ監督)の2本は、本作について小泉さんが解説しておられる向きとは違って、いわば正統的なつくりの作品である。特にチザムは史実として名高いリンカーン・ウオーを題材にしたもので、この騒動の結果、無法者に転じてしまった若者、有名なビリー・ザ・キッドの青春物語でもあり、小生の好きな作品である。ジョン・チザムはテキサスの牛をカンサスへ運んで財を成した人物だが、有名なチザム・トレイルの開発者でもあり、赤い河 でウエインとモンゴメリ・クリフトがたどった道がそれであるらしい。

この チザム では、今回の エルドラド で敵役だったクリストファ・ジョージが保安官での敵役、として登場するが、エルドラドでは憎めない役つくりだったが、徹底した冷血漢として描かれているのが面白い。テレビ映画全盛のころ、シリーズものでよく見た ラットパトロールの主演だったことも懐かしい。

エルドラドでミシシッピを演じたのはジェイムズ・カーン、また小泉さんは触れておられないがウエインの恋人役モーディを演じたのはシヤ‐リー・ホルト。小生の好みのタイプなんだな、これが。

それと最後にジェイソンを射殺するジョーイはマクドナルドの娘で、話の冒頭、誤ってウエインを撃ってしまい、ウエインはそれが原因で時々激痛に悩まされる、という筋になっていて、これがストーリーの中でキーになる、という筋書きになっている。

*******************************           リンカーン郡戦争(Lincoln County War)は、1870年代後半のアメリカ西部の辺境で起きた事件のこと。当時のニューメキシコ準州リンカーン郡で発生した、二つの派閥の間の一連の紛争事件を指す。この「戦争(War)」は、裕福な牧場主が率いる派閥と、独占的な雑貨店の経営者が率いる派閥との間で起こった。牧場主側の派閥には、ヘンリー・マカーティことビリー・ザ・キッドがいたことで有名な事件である。
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