エーガ愛好会 (286) ピーター・ユスチノフ礼賛

(安田) ブログ上のお問い合わせ『ところでポアロ役だが、小生が特に気に入っているのは ”ナイル殺人事件” でのピーター・ユスチノフなんだが、賛同者いない?』についてですが、全く同感です。時代は20世紀始め、ナイル川沿いの遺跡を優雅に眺めながらの小振りながら豪華客船の中で起こった、上流階級の乗客を巻き込んだ殺人事件。ユスチノフの雰囲気に相応しいポアロでした。

初めて観たユスチニノフ出演映画は「クオ・ヴァディス」(1951年公開)、次に名画「カサブランカ」を演出した名匠マイケル・カーティス監督作品、ハンフリー・ボカート共演の「俺たちは天使じゃない」(We’re no Angels) 1955年公開)。共に封切りより随分月日が経って(25年近く後年)、エルキュール・ポアロシリーズでは 『ナイル殺人事件』 『地中海殺人事件』を観た時期とほぼ同時期に観ました。

1950年代は「俺たちは天使じゃない」。出演映画の若さから(30歳代だったろう)、風格あるKing’s Englishを独特の間合いで喋るやや太り気味のユスティノフは、英国籍イギリス人といってもロシア系の血をひくその風貌と物腰はクリスティ描くポアロ役にピッタリだと思いました。 1974年公開の「オリエント急行殺人事件」も面白い映画で、ポアロ役の名優アルバート・フィニーも良かったが、ユスティノスのポアロには敵わなかったと思います。

(飯田)菅原さんの ≪乱読ファイル:アガサ・クリスティ 再訪≫ の編集子コメントにジャイ大兄の ≪ところでポアロ役だが、小生が特に気に入っているのは ”ナイル殺人事件” でのピーター・ユスチノフなんだが、賛同者いない?とあり大いに賛同と思いつつ「ナイル殺人事件」(1978年)を再々見しました。 

やはり、この映画でのポワロ役のピーター・ユスチノフの存在感は、特に係留中のナイル遊覧船内での最後に乗客全員を集めての犯人の推理シーンでは圧倒的でした。 ポアロ役では「地中海殺人事件」(1982年)にも出演していました。 ピーター・ユスチノフは「クオ・ヴァディス」(1951年)、「エジプト人」(1954年)、「スパルタカス」(1960年)など歴史物で暴君ネロを演じたりする名優との印象がありますが、私はユーモラスな人情味のある3人の泥棒役の一人を演じた「俺たちは天使じゃない」(1955年)が、大変好きな映画でした。 

ところで、アガサ・クリスティの小説のドラマは「名探偵ポワロ」シリーズ(全80本)、「ミス・マーブル」シリーズ(私は5本ほどしか見ていませんが)の他、映画化された分では、上記の2本の他では「情婦」(小説名:検事側の証人)(1958年)、「オリエント急行殺人事件」(1974年)、「アガサ・愛の失踪事件」(1979年)、「クリスタル殺人事件」(小説名:鏡は横にひび割れて)(1980年)、「アガサ・クリスティの奥様は名探偵」(2005年)、ABC殺人事件」(2018年)などが私がテレビ放送も含めて見た映画です。

(編集子)”オリエント急行” はクリスティの作品群のなかでも抜群の面白みがある小説だと思う。この作品では12人が一人を殺す、という筋だが、同じように人気のある ”そして誰もいなくなった” は逆に一人の人間が孤島に集まった客をひとりひとり殺していく、という逆の発想だ。.2冊ともミステリになじみのない方にも是非お勧めしたい,菅原の言う エンタテインメント性 に優れた読み物だ。

映画では日本での翻訳ドラマを含めて3本みているが、1974年の作品が断然光っている。なんといっても出演陣の豪華さはいったいギャラはいくらかかったのか、と心配するくらいだった。ポアロはアルバート・フィニーだったが、ほかにだれがいたか? リチャード・ウイドマーク、ロ―レン・バコ―ル、イングリッド・バーグマン、ショーン・コネリー、ジャクリン・ビセット、アンソニー・パーキンズ、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、ジョン・ギールガットなどなど、知ってる顔がみんな出てる、という感じのエーガだった。あれだけの顔をそろえることはもうないだろうが、これでユスチノフがいたらどうなっていただろうか。2017年版のポアロはケネス・プラナーで、ほかのメンバーもぐっと若返っている(当たり前だが)のを感じる。

テレビで三谷 幸喜による翻訳ものが野村萬斎のポアロで作られたのを見たが、殺される極悪人ラチェットの佐藤浩市が上記2作品でその役を演じたウイドマ―クやウイレム・デフォーなんかよりはるかに凄みがあると感心した。このクリスティ翻訳ものの第三弾が近々出るらしいので心待ちにしている次第。