エーガ愛好会 (247)カウボーイ    (34 小泉幾多郎)

昨12月放映「決闘の3時10分」の監督デルマー・デイビス、主演グレン・フォード による作品。1月6日付飯田さんから、同監督は見せ場を作るのが上手い。とありまし たが、西部劇の体裁を壊さないながらも、単なる西部劇でない種々の工夫が凝らされ ている。

先ずは出だしから驚く。あのタイトル・デザインの革命児ソール・バスによ る洒落たタイトルから始まり意表を突かれる。しかも舞台は西部の荒野でなく、シカ ゴの高級ホテル。宿泊依頼したトム・リース(グレン・フォード)が、入浴したら、 これからオペラを見に行くと言うからまた驚く。残念ながらオペラの場面はカットさ れたが、何を見たのだろう?ホテルの受付フランク・ハリス(ジャック・レモン)は 顧客でメキシコの牧場主の娘マリア(アンナ・カシュフィ)に恋しているものの、父 に反対され、メキシコに帰ってしまう。ポーカーを始めたリースは負け続け、その リースに金を貸したハリスは、カウボーイの仲間入りを果たすことになる。ホテルマ ンから一人前のカウボーイになるまでが描かれることになる。

銃撃戦や戦いの場面は 少ないが、広大な牛の大群のスタンピード、インディアンとの対決、囲いでのロデ オ、暴れ牛との対峙等々、駅馬車の音楽がアレンジされて流れる。大きな荒野をバッ クにしたロケーションの映像は良いし、最後二人が仲良く、あのシカゴのホテルに戻 るのは良いのだが、何となくスッキリしない点も残った。先ずは、牛の方が人間より も大事と言いながらも、その後の二人の豹変ぶりとか、ハリスとマリアの恋も何ら変 異ないまま終わり。途中雇った拳銃使いのドック(ブライアン・ドンレヴィ)は最高 の悪役の筈が、何の活躍の場がない侭に、場面なしで、昔の同僚を撃って自殺するな んて全くの期待外れ。

原作は、フランク・ハリスの自伝「カウボーイの想い出」で、 彼自身の体験を書いているだけに資料的価値が大きいと言われている。

右奥がドンレヴィです

(編集子)そうそう、ブライアン・ドンレヴィは ”大平原” とか ”落日の決闘” それに ”ボージェスト” の鬼気迫る悪役ぶりでなくちゃ。最近の悪役はみんなスマートすぎて迫力ねえなあ。

(菅井)ハリウッドというよりはN.Y.などEast Coastの典型的な都会派俳優のジャック・レモンが西部劇に出演していたとは全く知りませんでした。
軽めのコメディが得意だったジャック・レモンを想定して役やシナリオが作られたのでしょうが、西部劇としてはちょっと無理があったようにも感じました。

ウィキペディアによれば、ジャック・レモンはボストン生まれで名門ボーディング・スクールからハーヴァード大で薬学と化学を学んだという典型的な東のエリートだったようです。この映画への出演は彼の代表作となった「お熱いのがお好き」「アパートの鍵貸します」よりは前でした。個人的にはシャリー・マクレーンと共演した邦題「あなただけ今晩は」(Irma la Douce)が好きです。