エーガ愛好会(243)  決断の3時10分   (34 小泉幾多郎)

フランキー・レインが唄う主題歌と共に、山間を駅馬車が走ると牛の群が現れ、これぞ西部劇という雰囲気に冒頭から没入させて呉れた。その駅馬車を止めさせ、凶行に及ぶのが,グレン・フォード扮するベン・ウエイドを首領とする盗賊一味。それを偶々目撃したのが牛の持ち主ながら、貧乏生活に追われる「シェーン」で農民を演じたヴァン・へフリンが主役ダン・エバンス。監督がインディアンと白人の関係をインディアン側から描いた西部劇「折れた矢」で、その後インディアン描写に大きな影響をもたらしたデルマー・デイビスだけに、従来型の理想主義を掲げた西部劇とは一線を画した、生活に追われた農夫というキャラクターが主役を演じ、時間で区切られたリアリズム的手法による西部劇を切り開いたと言える。10年後に「3時10分決断のとき」として、ラッセル・クロウとクリスチャン・ベール主演でリメイクされている。

 駅馬車を襲ったウエイドは何食わぬ顔で、駅馬車が襲われたと保安官以下を騙し、保安官たちが追跡隊を編成し町を出て行った間、ウエイドは一人、酒場の女エミー(フェリシア・ファー)を口説くため町に残ったが、逮捕されてしまう。この逮捕されたボスのウエイドを汽車でユマ迄護送する発車時間3時10分までの間に繰り広げる一味との峻烈な攻防と駆け引きを緊迫感のあるタッチで描いたのだった。結論的には、駅馬車に乗車していた町の有力者バターフィールド(ロバート・エムハート)がウエイドを3時10分の列車に乗せる者に200ドルを支払うということに乗ったのは、ウエイドの部下の奪回に来る恐ろしさに、エバンスだけになってしまったのだ。この二人の駆け引き、カネのために護送を買って出たエバンスの男は命を投げ出しても貫き通すものがあるという信念。ウエイドの悪党ながらも、借りを返すと言いながらも、エバンスの潔しさと夫婦の愛情を見せつけられての心の葛藤が、最後に二人共々列車に飛び乗るということで、この地を去る、という男の美学。また旱魃を潤す雨模様も乾いた心に染み入ってくる。・・・列車に乗ってこの地を去る。3時10分のユマ行きで・・・フランキー・レインの唄での終演も心地よし。

(編集子)グレン・フォードが珍しく悪者になるエーガ、ということでタイトルはよく覚えていたが、フランキー・レインの主題歌がのほうが印象的であった。この点は同じ西部劇では バート・ランカスタものの定番、”OK牧場の決闘” にも共通する。音楽がエーガよりも広く人々の間に残るという現象は有名なところで言えば 禁じられた遊び 第三の男 死刑台のエレベータ など数多く思い出されるが、それらに共通するメロディアスな曲ではなく、むしろビーとの聞いた曲、という感じなのだが。                        ヴァン・ヘフリンは シェーン で準主役という役どころだったように、頑固な正直者、という役が多いようだが、脇役のひとりチャーリーという役を演じるリチャード・ジェッケルという男が実は前から気になっていた。特徴のある顔立ちで、もっと出てきていい訳者だと思っていて、とくに西部ものでは、チザム でビリー・ザ・キッドの仲間だったチンピラで一部だったが一風変わった凄味のある俳優だったのだが、出演作には恵まれずB級、C級のカツゲキものしかなかったのが惜しい。中には先回書いたように初演から恵まれたdebutをしながら事故死というロバート・フランシスみたいな例もあるし、やはり人間、運というか万事塞翁が馬、ということか。