物忘れが気に罹り出したら  (普通部OB 篠原幸人)

正月早々ですが、私と同年配の方々は、最近ちょっとした物忘れが気になりませんか? 毎日、眼鏡や携帯を大騒ぎで探したり、予約の予定をうっかり忘れたり、友人や有名人の名前が出てこなかったり、孫の名前を間違えたり、今日が何日何曜日か忘れて家族に訊いたり、でもこんなことは70歳を過ぎればよくあることです。会社に毎日行かなくなると、曜日が気になるのはテレビの番組探しの時だけだったりして。

でも自分で片づけた重要書類や印鑑・財布や、大事に隠しておいたへそくりの場所が分からなくなったり、更には水道の水を出しっぱなしにして家族に怒られたり、ガスの火を点けっぱなしにして忘れてその場を離れたり。トイレのあと流すのを頻回に忘れて家族に指摘されたり、今まできれいに使っていた洗面所に抜けた髪の毛が何本も落ちてそのままになっていたり、何時も通る道をうっかり間違えたりなどとなると、もう黄ならぬ赤信号ですね。記憶障害ばかりでなく、注意力低下も立派な認知機能障害なのです。

以前に本稿にも書きましたが、家族に同じことを二度続けて注意されたらまず黄信号と思いましょう。これらが始まったと自覚した人は、普通に日記帳をつける気持ちで、新年から「物忘れノート」をつけることをお勧めします。無論、毎日書く必要はありません。忘れものをした時だけ記入すればいいのです。毎日あるようならすぐ病院行きをお勧めします。年月日と何を忘れ、どう解決できたかをメモするだけでいいのです。これを書き溜めて、万一医師に相談する時には、そのノートも一緒に持って行って説明に利用してください。このノートは将来、貴方の健康維持のための財産になるかもしれません。

私も始めました。但しまだ年に数回のみです。これが毎月2回以上とか、立て続けに何回にもなったら、御懇意の医師に相談することです。但し、あまりそのことに無頓着な一般医師は、「お年のせいでしょう」と大体取り合ってくれないことも多いと思います。そんな時は比較的大きな病院の「物忘れ外来」または脳神経内科や神経科の医師に相談されたら良いと思います。

以前本稿でも「MCI」という物忘れの初期症状とその対処法をお話ししました。私の外来にも「軽い物忘れ」を気にして来られる方が沢山おられます。その約半数は検査の結果、「MCI(Mild Cognitive Impairment)」と診断されますが、少なくともその中の1/3以上の方は暫く経つとと良く成られます。但し他の1/3ぐらいの方はアルツハイマー病などの認知症の初期と考えざるを得ない場合があります。但し認知症が全て治りにくいアルツハイマー病ではありません。中には「Treatable Dementia(治療可能の認知障害)」と呼ばれる良くなる可能性のある認知症もあります。

「物忘れ」は年齢のためだけとは限りません。大きな病院では、MRIや脳血流検査、血液検査、神経心理検査やその他の方法を駆使して、物忘れの原因を詳しく調べることも可能です。是非、「物忘れノート」がエピソードで一杯になる前に、調べてもらってください。 もっともその「物忘れノート」を何処にしまったか大騒ぎして探すことにもなるでしょうが。