日本国憲法の第14条には、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」とある。同じく第22条には、「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する」とある。
今年の初めに「企業価値と富を生む無形資産」という本を書き終えてから、暇な毎日になり、若い頃から「年齢制限付き求人」(以下「年齢制限付き求人」)と「定年退職制度」(以下「定年制」)は職業選択の自由に反しているのではないかと疑っていたことを思い出した。
1952年に制定された雇用対策基本法では、社員雇用時の年齢制限について何の決まりもなく、年齢制限付き求人が当たり前だった。それが法律違反になったのは、2007年の雇用対策基本法改正で、「事業主は、労働者の募集および採用に際して、年齢にかかわりなく均等な機会を与えなければならない」と制定されてからだ。禁止される前から行政指導や労働行政官の裁量などで企業の自主的努力を促していたのが実態であり、労働立法・労働行政の関係者の中には憲法違反と認識していた人が多数いたのだろう。
もう一つテーマ「定年制」も高齢者の働く自由を奪う点で、年齢制限付き求人と同じく「職業選択の自由」に反すると私は考える。しかし、定年制を経験した者として法律で禁止するまでのことはないと思う。長期雇用が一般的な日本では、現在進行中の雇用契約が数千万もあり、それを禁止するのはあまりにも非現実的だ。社員・会社・社会に与える影響は甚大で、日本の企業文化に深く根付いている定年制を法律で禁止するのは「やり過ぎ」と思う。将来、仮に定年制が日本国憲法に違反するという判断に至ったとしても、社員の意向を十分に取り入れて柔軟な高年齢者制度にすることが賢明だろう。既にそうした立法はその方向に動いていると思う。例えば、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」では定年年齢が65歳未満の定年制の場合、65歳まで安定して雇用を確保するために次のいずれかの措置を取ることを求めている。
一、定年の引き上げ。
二、継続雇用制度の導入(現に雇用している高年齢者が希望するときは、
当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度)。
三、当該定年の定めの廃止。
これは定年65歳未満の会社に対するもので、すでに65歳定年制の会社には適用されない。現在65歳を定年としている会社が継続雇用制度も併用して「ただし、本人が希望する場合には70歳まで継続雇用する。その場合会社が指定する医療機関で健康診断を受けること」というような事になるのが望ましい。高齢者の働く自由を守るのは大切だけれど、仕事ができる健康状態であることの確認も等しく大切です。