ヘイトクライム記事について   (HPOB 五十嵐恵美)

Giさんから、「ブログ、目を通していただいて、コメントやカリフォルニアでの事情など、お知らせいただければ幸甚です」とのメールをいただいた.最近、米国各地で起きている様々な人種に関係する事件の一つにジョージア州にあるマッサージ・パーラー3カ所で、8人が殺害された事件がある.その死者の6名はアジア系女性(うち4名は韓国人女性)だったそうだ.この報道は日本でもされたらしく、従妹から「そちらは大丈夫?」と心配する電話をもらった.サンフランシスコおよびロサンゼルス都市部の状況は当地シリコン・バレーと違う.このブロッグではシリコン・バレーの様子を中心に「米国における偏見」に関して思いついたことを書いた.

8名が殺害されたGeorgea州マッサージ・パーラーの一店舗

 

人種差別はアメリカの歴史

https://en.wikipedia.org/wiki/Racism_in_the_United_States

米国における人種差別は今にして始まったことではない.それも有色、黄色人種に対してとは限らず、対ユダヤ人、カトリック教信者、そして9/11以降は中近東諸国からの移民、イスラム教信者への偏見、またペッキング・オーダーごとく、対アイルランド人、ポーランド人、イタリア人、ドイツ人、プエルトリコ人、韓国人、等々を含む新しい移民への人種差別も存在する.

シリコン・バレーの様子

当地シリコン・バレーの状況はと言うと、余りこれに関したニュースは聞こえてこない.シリコン・バレーの生産業はすでに斜陽で、工場はほとんど多郡、他州に移転してしまい、工場労働者数は激減、また黒人が少ない.黒人の人口が多いオークランド市、サンフランシスコ市(中華街が大きく中国系の高齢者の数も多い)でのヘイト・クライムは増加、それに対応する地域の活動家も多いという.KPIX、 CBC系の地元テレビ局、によるオークランド市での人種差別反対のデモ中継は中国人のデモ参加者のインタービューも交えてその様子を伝えている.https://youtu.be/qk0w-Vg8W1I

シリコン・バレーでハイテクに従事する人たちの人種は多様で、米国人以外のヨーロッパ出身の白人も含め、中国人、インド人、イラン人と外国人の割合は高い.米国外で生まれたシリコン・バレー住民は約38%.知的有職者の多くがエンジニア、技術系で、彼らは一般的に「社会的思考」型ではなく、学歴レベルは高く、平均年収は約$150,000(2020)、仕事優先の「自分本位」タイプで、他人のことはあまり構わない集団である.外国人が多いこともあり、シリコン・バレーでは今回のような都市部で多数見られる「アジア人に対する偏見、暴力」はあまり聞かれない特殊な地域である.

Population Share by Race/Ethnicity

シリコン・バレー住民の人種別割合(2019)

https://siliconvalleyindicators.org/data/people/talent-flows-diversity/racial-and-ethnic-composition/population-share-by-race-ethnicity/

 アジア人(35.3%)、白人(32.7%)、ヒスパニック系(24.7%)、黒人(2.3%)、その他(4.9%)

コロナ禍の中、パロアルト市の「銀座」ユニバーシティー通りにテーブルを並べたレストラン

メンロパーク市「目抜き通り」入車禁止のサンタ・クルーズ通りのレストラン夜景

 ベイ・エリアの低所得者と超低所得者の実態

2020年9月21日付けで「Who Is Low-Income and Very Low Income in the Bay Area? ベイ・エリアの低所得者と超低所得者の実態」と題して、収入の差を人種別に解説した記事がある(https://bayareaequityatlas.org/node/60841).ベイ・エリアはサンフランシスコ、オークランド、シリコン・バレーを含む、人口約700万人のサンフランシスコ湾の湾岸地域を指す.現在のベイ・エリアの差別問題は「Equity、資産」の差から発生していると示唆している記事で「所得を対象とした政策は(特に黒人とヒスパニックに対する)住宅における人種平等を促進し(彼らは賃貸家屋に住んでいる場合が多いため)、人種を意識した差別禁止政策も必要だ」と結んでいる.ベイ・エリアの差別は一般的に、知的専門職を持たない低所得の黒人とヒスパニックの生活に影響する差別であり、それに対して特に政策はなく、貧富の格差は増す傾向にある.

国民、国家の安全に関して

日本に目を向けると、大分以前に「日本人は水と安全(Security)はただ(Free)だと思っている」と言った作家がいた.近年、中国(人)が北海道の水権を土地と共に買い続け、最近は基地周辺の土地を買い始めたと聞いている.それに関して某政党が「私権制限との批判を招きかねない」として慎重姿勢を強め、政府は国会成立を目指すが、既に閣議決定は見送られ、提出そのものが不透明になりつつあるという状況を知り(JIJI.COM)驚いた.

コロナ禍の長期化に伴い現在米国で起こっている「暴力」「差別」「ヘイト」の多くは恐らく職を失った(あるいは職に就けない)人々のフラストレーションに起因している部分もあると思う.結論を急いでいるわけではないが、最近の諸々の人種に関する事件、反人種差別の活動は、現在アメリカがひとつの大きな時代の変化のスタート地点に立っている現象のようにも見える.全米がシリコン・バレー化するとは思えないが、少なくともシリコン・バレーは世代を先取りしているひとつの社会モデル、パラダイムであるということは確かである.コロナ禍を機に、欧米では明らかに中国けん制が始まり、国民の「健康」「身の安全」をも含んだ、多様な意味での “Security” に重きを置いた舵取りが始まった動きが見える.