オーディオ装置の話  (普通部OB 船津於菟彦ー44 安田耕太郎)

(船津)安田君のオーディオ論について

五味康祐はギョーカイでは有名なオーディオ評論の巨人でした。僕も彼の著書を愛読しました。泰斗ぶりは半端ない達人でした。剣豪小説家らしく、製品や演奏を首斬り山田浅右衛門の如く、小気味良くぶった斬っていました。タンノイ、ワーフデール共にイギリスの名門スピーカー。

Westminster Royal GR

タンノイは僕が勤めた会社が一時期子会社として傘下に所有していて、五味も愛用していました。工場はスコットランド・エジンバラ近くにあって現役時代訪問したことがあります。クラシック音楽向き、特に弦楽器が素晴らしいスピーカーです。

ジャイと同じで「今日のピアノよかったねーぇ」と言われても生返事「絶対音感」なんて言う物からほど遠いのですが、音よりも「メカ」大好き。オーディオの雑誌は結構高いのですが毎号買っていました。やーぁジャズを聴くならJBL、クラッシックならタンノイとか。カッコに釣られてデンマーク製のバンクアンドオルフェッセンのスピーカーとかイヤフォンを買いましが今も手元にあります。

五味康祐がでかいタンノイでクラッシックを聴いて色々な批評を書いていましたが、オーディオの装置は際限ないぐらいお金かが掛かりますよ!ケーブル一本でもこんなのがこんな値段というグワイ。電源も別に撮るとか!安田君の会社のPRにのせられて、巨万の費用を費やした人数知れずでしょうね。

(安田)

オーディオ狂と云われている人たちも「絶対音感」など持ち合わせているのは極僅か、或いは殆どいないかもしれない。絶対音感を持ち合わせている人は、大多数が幼少の頃から音楽を聴き、楽器を弾いていた人たちであろう。そういう人たちは楽器を演奏する悦びが、オーディオで音楽を聴くより遥かに大きいはずだ。オーディオマニアの大多数はオーディオ機器キチである確率が高い。自らの装置で聴く音楽を、ああでもない~こうでもない~、とよく云っている。昔は可処分所得をオーディオに費やす人が沢山いて、その業界で飯を食べていた僕らにとっては神様のような人たちであった。その傾向は随分昔に廃れてしまい、日本のオーディオメーカーも殆どが廃業か身売りに追い込まれてしまった。

一世を風靡した日本のオーディオメーカーも消え去るか、外資に買収された。アカイ、サンスイ、トリオ(ケンウッド)、パイオニア、ナカミチ、オンキョウ、デノン、マランツ、ティアック、ラックスなどだ。大手家電メーカーも昔(70年代以降)は傘下にオーディオブランドを有して市場を賑わせまたが、ほとんどが消滅した。オプト二カ(シャープ)、ローディー(日立)、テクニクス(松下)、オーレックス(東芝)、ダイヤトーン(三菱)、オット―(三洋)などである。ソニーもオーディオの分野では昔日の勢いは全くない。

僕の務めた会社はハーマンさんとカードンさんが70年前に創立した会社で会社名も製品ブランドもハーマンカードン(Harman Kardon)といった。アンプ製造が経営基盤だった。HPの(ヒューレット・パッカード)二人の共同創業者と異なり両雄並び立たずでハーマンさんが会社を所有して会社名をハーマンインターナショナルに変更。この親会社の傘下に次から次にJBL、タンノイ、オルトフォン、マーク・レビンソン、インフィニティ、スチューダー、AKGなど10数社の子会社を所有するオーディオに特化した業界世界最大の企業に変貌。勿論ハーマン・カードンも存続。70年代後半、カーター大統領時代にハーマンさんは商務長官に抜擢され、会社は他のコングロマリットに売却され、創業者を失った会社は不安定であった。新しい親会社の傘下にはスーツケース・かばんの「サムソナイト社」もあり、僕はハーマンとサムソナイトのアジア担当として、全く異なる業界製品を一人二役で取り扱うなどした時期も。コロラド州デンバーにあるサムソナイト工場でスーツケース・鞄製造の10日間研修を受けたこともあった。

カーターの次にレーガンが大統領に就任すると、民主党員のハーマンさんはビジネスの世界に戻り、売却していた会社を買い戻し、暫くしてNYの株式市場に上場。ハーマンさんの奥さんは下院議員を務め、夫婦そろって知られた人たちだった。10数年ほど前、ハーマンさんは他界したが、ワシントンD.C.でお別れの会があり、出席した。会場は彼の名前を冠したコンサート・ホールHarman Hall(カーネギーホールの類)で、数名の人が故人を偲んで挨拶したが、最初に登壇したのがクリントン元大統領でビックリした。グリーンスパン元FRB議長、オルブライト元国務長官、ワシントンポスト紙社主などそうそうたる顔ぶれであった。途中のインターバルではヨーヨー・マのチェロ演奏といった具合でセレブのお別れ会を経験した。

NY株式一部市場に上場されていた会社と言えどもカリスマ創業CEOが他界したとなれば、経営陣にオーディオ業界と無関係なビジネススクールMBAを持ったいわゆる「プロ」の経営者が乗り込んで来て、財務諸表重視と株主優先策の全く面白くない会社になった。オーディオが一世を風靡した60年代~80年代と打って変わって、従来のオーディオ製品だけでは食っていけない時代となり、会社も多角化を余儀なくされ、業界は弱肉強食、そして変化に適応できない会社は消えていった。。8年前に退職したが、良い時期に足を洗ったと思っている。

Project Everest DD66000
日本国内定価:660万円(税込ペア)

ワンダーフォーゲル部出身で山好きが昂じて、JBL製高級スピーカー開発に当たり、僕の主導で最高級製品に「エベレスト」と、2番手の製品には「K2」と命名した。それぞれ1本、定価3百万円、2百万円する。現在でも世界中で販売されている。JBL製品には昔「オリンパス」(Olympus ギリシャにある信仰の山)という高級スピーカーもあった。

確かにオーディオ製品は高額だ、世間の常識に照らせば異常だ。アンプでも一般家庭用の電気は電圧も90~100Vで安定していないので、電源ノイズの除去や電圧の高度の安定化を計るため高級アンプには電気を整流するトランスを内蔵している製品が多くある。百万円、2~3百万円の製品もザラだ。ケーブルも蛇のような太さで何十万~百万円超えの製品まである。繁栄が長続きする業種ではない。今はそれらのメーカーは細々と粗利益率を高くして稼いで食いつないでいる。ハーマン社は車載、業務用(映画館など)、民生用、家庭用と多岐市場に進出して成功した数少ない会社の一つとなった。今ではハーマン社の最大の顧客はトヨタ自動車。トヨタ・レ

No32L プリアンプ
国内定価: 320万円

クサス車載オーディオ(ブランド付き)を一手に引き受けており、顧客リストにはベンツ、BMWも続く。自動車会社の付加価値高騰戦略と合致したwin winの結果である。

オーディオの音源もアナログレコード盤、テープからCD,そして今ではデジタルへと便利・廉価になった。趣味性が薄れてきたのは確かである。ヘッドフォン、イヤフォンも台頭、Bluetoothでワイヤレスで音楽を聴くマルチメディア全盛の時代になってなって来ました。オーディオ製品が「Commodity化」(日用品化)されてきたと時代になったのである。

(編集子)ここに紹介されたのが世界トップクラスの ピン ならば、小生ここ10年飽きずに使っている自作品は材料費(多分)3万5千円の キリ である。申し訳ないがスピーカーはその後廃業してしまった国内企業製。スイッチを入れて真空管が温まるまで待つ、その感覚が何とも言えないのだが ー 現代人には受け入れられないだろうなあ。