米国におけるヘイトクライムの実情 (普通部OB 田村耕一郎)

米国では、最近、「アジア系市民」への「ヘイトクライム(増悪犯罪)」が深刻な問題となっています。米国の中西部、「インディアナ州」にお住いのMIさん(商社マンOB)から、その実態と背景をご報告いただきました。一部をご紹介します。

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ここに来て、アメリカではアジア人に対する差別問題がクローズアップされています。今日(3月31日)も、ニューヨークで、アジア人女性が暴行されているニュースが流れました。

私の住む町ではその様な事件が起こったこともなく、全く意識さえもしないのですが、都市部では増加傾向にあります。そして、アジア人に対する暴行事件の多くが、白人だけでなく黒人の人たちによって行われていることです。差別される者が、他の者をまた差別するという構図になっていることを悲しく思います。

3月16日にアトランタの韓国人が経営するマッサージパーラーで起こったシューティング事件は、一種の ASIAN HATE 及び HATE CRIMEと思われることから、シカゴ総領事館から3月17日付で在米日本人に、「アジア系市民に対する嫌がらせ等に関する注意喚起」という通達がありました。この通達は全米の領事館から出ています(原文添付)。

3月23日には、米国と中国の政府間会談がアンカレッジで行われましたが、その会談は米中の対立を浮き彫りにしました。米中の対立が今後先鋭化して行くと、中国人に対する HATE CRIME が増加するかも知れません。一方、白人や黒人の人たちには、アジア系の人種を識別できないことで、日本人も巻き添えを食う危
険性が増すことになります。

インディアナ州の南部に住む私の友人の息子さんが通っている学校で既にASIAN HATE の事件が起きました。もう二週間前のことですが、中国人の女の子が、他の生徒から「アジア人、アジア人」と揶揄されたのです。その場に先生は居られなかったのですが、その友人の息子さんや他の数人から事件の報告を受けて、学校側はその中国人の女の子に何があったかを聞いたのですが、彼女は何も無かったとしか答えませんでした。しかし、学校は他の生徒からの情報をもとに対応を検討する会議を持ったとのことです。トランプ大統領の四年間で、BLM運動が起こるほどに黒人への差別が表面化しましたが、黄色人種に対する差別も多かれ少なかれ存在したことはなんの不思議もありません。

今後中国が大国となりアメリカと互角又は凌ぐような力を持つようになれば、その昔(19世紀後半から20世紀前半)起こった「黄禍論」が(当時は日本に対してでしたが)、今度は中国に対して再燃することが容易に考えられます
人種差別は、主に教育レベルの低いそして低所得者層の白人の人たちが中心となっています。学校における子供たちの差別もまた、彼らの親たちの差別をそのまま反映していると言えます。レベルの低い白人の人たちは、経済力も能力も何も無いがゆえに、ただ白人ということにすがって他人種を差別することで優越感を持とうとするのです。白人の間にも階級社会が形成されていて、教養の無い底辺の人たちに、「立ち上がれ」と呼びかけたのがトランプ大統領です。トランプ大統領は、Anti-ducation さえも訴えかけました。

そうした差別を感じる「白人」は「黒人を」、そしてアジア人を差別し、「差別を受けた黒人」が、また差別の矛先を「アジア人」に向けています。こう言った差別の連鎖がこれ以上深刻化しないて収まってくれることを願ってやみません。

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From: 在シカゴ日本国総領事館 <chicago@mailmz.emb-japan.go.jp>
Sent: Wednesday, March 17, 2021 6:55 PM
To: inoue-m@msn.com <inoue-m@msn.com>
Subject: アジア系市民に対する嫌がらせ等に関する注意喚起

全米において、アジア系市民に対するヘイトクライムやハラスメントが発生しており、在留邦人の方が当事者となるケースも確認されています。今後も根拠のない情報に基づいた個人的偏見によるヘイトクライムやハラスメントがアジア系市民に向けられる可能性があることから、未然に危険を回避し、ご自身の安全を守る行動を取るよう、十分注意してください。

1 2月25日、シアトル市ダウンタウンのインターナショナル・ディストリクトにおいて、アジア系市民に対する悪質な傷害事件が発生しました。また、2月28日には在留邦人がニューヨーク市マンハッタンの Lower East Side の路上を歩行中、走行中の車両から男性にタバコの空き箱を投げられ、「ニーハオ、ニーハオマー」と声をかけられて嫌がらせを受けたとの事案が発生しました。

2 ヘイトクライム等を注視している関係団体からは、シカゴ市内においても、アジア系住民に対する以下のヘイトクライム等の被害発生が報告されています。
○ 散歩中に正面から歩いてきた見知らぬ男から、すれ違いざまに腕を蹴られた。男は、何か言葉を発しながら立ち去っていった。
○ 買い物中、マスクをしていない見知らぬ男性が近づき、話しかけてきたことから、距離を取るように促したところ、侮辱的な言葉を浴びせられた。
○ 地下鉄に乗車していた際、目の前にいた見知らぬ男性から「国へ帰れ」「コロナウイルスで私たちを殺してくれてありがとう」といった言葉を浴びせられた。
○ 歩道にいたところ、車内から「自分達の国へ帰れ」と大声で叫ばれた。

3 ヘイトクライム・過激主義等を注視している関係団体によると、シカゴを含む全米の16都市を対象に行った調査において、アジア系市民が被害者となるヘイトクライムは2019年が49件だったのに対して、2020年は122件に激増しており、今年に入ってからも増加傾向にあることから、十分注意が必要です。

4 上記ヘイトクライム等の被害に遭わないためには、周囲の状況に応じ、以下の対策を取ることが有効な予防策となり得ます。
○ フード、帽子やマスク等で顔を隠し、一見してアジア系市民であることを周囲に悟られないようにする。
○ 複数名の者が理由もなく近づいてきたら、目線を合わせないようにしてその場から立ち去る。
○ 見知らぬ者から注意を引くような言動をされても、無視をして相手にしない。
○ 意味がわかる言葉で話しかけられても、理解ができないふりをする。
○ 車両から声かけや嫌がらせを受けた場合は、車両と反対方向に立ち去る。
○ 身の危険を感じたら、大声で周囲に助けを求める。

5 在留邦人の皆さまにおかれましては、一般的な防犯対策と同様に、観光客が立ち寄らない犯罪発生率の高い地区を訪れたり、深夜の一人歩き等危険を招きやすい行動は可能な限り避けていただき、なるべく複数名で行動してください。また、不審な場所や人物を感じた場合には、速やかにその場から離れる、相手を刺激しない等してご自身の安全を守る行動を優先するように心掛けてください。
万が一ヘイトクライム等の被害に遭った場合には、警察(911番)に通報して頂くとともに、当館にもご連絡を頂きますようお願いいたします。 (以下略)