(編集子 : エーガ愛好会シリーズの連番が間違っているとのご指摘があり、先回の345の次に1回344号を掲載する)
2008年制作の西部劇にしては、監督主演がユル・ブリンナーばりに剃り上がったスキンヘッドのエド・ハリスだが、昔風の男臭さと地味な作風で、西部の雰囲気に浸ることが出来た。
冒頭ニューメキシコ準州アパルーサの保安官が助手二人を連れ、ブラッグ(ジェレミー・アイアンズ)の住まいに押しかけ、殺人罪の二人を手渡すよう命じたが、ブラッグは断り、保安官と助手を射殺する。一方、知り合ってから12年雇われ保安官を生業としている二人、バージル(エド・ハリス)とエベレット(ヴィゴ・モーテンセン)がやって来て、町で好き放題をやるブラックを排除してくれと有力者たちに頼まれ、夫々保安官と助手に就任する。
就任早々から、酒場でやりたい放題の部下数名を射殺するとブラックが保安官事務所にやってきて挨拶がてら凄む。そのアパルーサへ、あの「ブリジットジョーンズの日記」や「ジュディ虹の彼方に」のアカデミー受賞女優が扮するアリソン(レネー・ゼルウイガー)が汽車で、町にやって来る。ピアノが弾けることから宿に雇われ、バージルとの恋仲になるのだが、エベレットにも波風を送るかと思えば、他の男へとアリソンは無意識に、その時々で一番強いと判断した男にくっついてしまうという女なのだった。
この映画、バージルとエベレットを中心に、高貴な友情、真の友情こそ揺るぎないことを体現した作品ではあるが、女性にとって生き抜くためには、愛どころではないということを悪女というか憐れな女を演じているのだ。保安官と助手、悪漢と悪女夫々が個性を出し合いながらも貫禄と抑制を利かせた演技を楽しめた。
冒頭のブラックが保安官らを殺したことを証言する部下により法廷で死刑判決が宣告されるが、ブラッグに雇われたリング(ランス・ヘリクセン)とマッキー(アダム・ネルソン)のシェルトン兄弟がアリソンを人質に取って、ブラックの引き渡しを要求し、戦いになるが、途中アパッチとの遭遇もあり、戦いかと期待するも馬の提供で戦いなし。紆余曲折の結果、バージルとエベレット側の勝利に。しかし結果は大統領と過去仲間だったブラックが大統領の恩赦を得ることになってしまった。ブラッグはネバダで銀鉱脈を見付け、町の有力者たちの信頼も得るようになっていた。最後はスッキリしないが、エベレットは彼女であるケイティ(アアリアドナ・ヒル)にも町を出ると話をして、バージルに止めないように頼み、ブラッグと決闘し倒しアパルーサを一人去る。法的手段でない決闘が町を出る決心をさせたのか。バージルはアリソンといつまで続くか分らない家庭を持つことになるようだ。商売女でも先住民でもない女は初めてだからと。
(編集子)原作は ”スペンサーシリーズ” で現代風なHB作家として一時日本でも大人気だったロバート・パーカーである。編集子も当時完全にスペンサーものにはまってしまったが、その後シリーズキャラクターがスペンサーでなくなってからはご無沙汰してしまっている。パーカーは自作のほか、レイモンド・チャンドラーが ”長いお別れ” の続編に着手しながら急逝してしまった後、その話をうけついで ”プードル・スプリングス物語” として完成させている。作品はチャンドラーの後継、という解釈をされるが、当初は主人公をスペンサーという名前で登場させた。このスペンサーシリーズは日本には菊池光の翻訳で紹介され、編集子は菊池の独特な文体に違和感を持ちながら結局全作読み切ってしまった。本のつくりや装丁がスマートだったせいもあって、今も書棚にきっちり収まっている。パーカーはスペンサーものでデビュー後、ジェシイ・ストーンズ、サニー・ランドル、そしてコール&ヒッチと三代にわたるシリーズものを書いていて、この映画はコール&ヒッチものの第一作 Appaloosa の映画化である。このシリーズはほかに Resolution (和訳名 レゾリューションの対決)、Brimstone (ブリムストーンの激突)とまだ和訳されていない Blue-eyed Devil がある。
関連