第二次世界大戦をほんのわずかにせよ、体験した人は少なくなりつつある。当時小学1年生だった僕は外地にいたので、空襲の体験はないが、子供心にいくつかの出来事の聞きかじりはあり、中学生の間に関連した書物に関心を覚えて読み漁ったものだ。その中で、山本五十六元帥のこともいくつか知ることがあったが、米国駐在が長かった元帥は最後まで開戦に反対であり、連合艦隊司令長官に推され、対米戦の火ぶたを切る立場にたたされたとき、(1年や2年は暴れて御覧に入れるが、一刻も早く講和を実現してほしい)と言ったといわれている。
それまでの議論の中でも、米国の経済力を知らず単なる数字合わせや精神論に傾く軍部の人間に、 ”お前ら、一度ピッツバーグへ行って、製鉄所の煙突が何本あるか、数えてこい!” と吠えたそうだ。ピッツバーグはすなわち米国製鐵業界の中心地、もちろんUS スチールの本社があるところで、米国産業界の中核でもあった場所だ。
数日前の新聞で、トランプの例によって訳の分からない発言が伝えられ、新日鉄のUSスチール買収を認めるような意向とされた。その発言のなかで彼はUSSはアメリカの会社であり、ピッツバーグから動くことはあり得ない、と言った、とも伝えられている。これからどっちに転ぶかわからない話だが、ピッツバーグの煙突の数は減るんだろうか?
しかし、いずれにせよ、日本の企業がここまでやるようになるとは、栄光の連合艦隊司令長官も夢にも思わなかったことだろう。専門的な話をする知見は持ち合わせないが確かだと思うのは、ここまで栄光の米国製造業が追い詰められたのは、確かに外国企業との競争に敗れたからでもあるが、そのきっかけは短期の金儲けに目移りし、ITと金融に走り、さらにはITの発達によってグローバリゼ―ション時代が始まる、などという、象牙の塔の連中の、小生に言わせれば妄想とまではいかないまでも現実から乖離した発言が生み出した、製造業の衰退であることだろう。トランプの支持者の多くがかつての栄光ある米国製造業から追われた白人労働者だという現実がこれを裏書きするようだ。トランプの旗印、Make America Great Again は、まさにピッツバーグに何本煙突を残すのか、ということに集約されるような気がする。