僕のK2      (44 安田耕太郎)

ヒマラヤの西部カラコルム山脈に聳える世界第2位の高峰。エベーレストより237m低い標高8,611mの山。パキスタンと中国新疆ウイグル自治区の国境に位置するのだが、インドはインド領カシミールのパキスタン占領地に聳えていると主張している。国境紛争を抱え入山が難しい山である。

登頂の難しさでは世界最高峰のエベレストよりも上で、「世界一登ることが難しい山」とも言われる。その理由として、人が住む集落から遠く離れた奥地に存在することによるアプローチの困難さ、エベレストよりも厳しい気候条件、急峻な山容による雪崩、滑落の危険性などが挙げられる。K2登山に関しては一般的なルートでさえ、エベレストのバリエーションルートに匹敵すると言われる。これらの困難さから、14座ある8000メートル峰の中で最後まで残った冬季未登頂峰であったが、2021年1月16日、ネパールの登山隊によって初めて達成された。2012年3月までの時点で登頂者数306人に対し、死亡者数は81人に達し、その時点でのエベレスト登頂者数は5656人、遭難死者数3百数10人。K2は「非情の山」とも呼ばれる。アンナプルナ峰は、登頂者数191人に対して死亡者数61人に達する。 死亡率が高い理由は、エベレストのような商業登山の対象とならず、難度の高いルート、単独ないしアルパイン・スタイル、無酸素による挑戦の比率が高いことにも起因している。ギネスブック公認ダントツぶっちぎりの世界ワースト1は谷川岳。遭難死者数は累計で800名を超えており、谷川岳単独で、ヒマラヤ8千メートル峰で亡くなった人の総数よりも多いのだとか。一ノ倉沢岩壁登山遭難死者によるところが大きい。

山の話から離れて、K2の話をさせてもらおうと思う。僕は日米2つのオーディオ製品メーカーで併せて40年以上働いたが、2社目の米国会社の子会社の一つにロサンゼルス近郊に本社・工場を持つJBL社があった(今でもある!)。主として民生用、業務用、車載用のスピーカーを製造・販売する業界ではそのブランドが知られた会社である。創立は1946年、僕の生誕の年だ。禄を食む手助けをしてくれた会社の一つと生誕年が同じとは奇遇。

山好きの僕はJBLの最高級旗艦(flagship)製品をEverestとK2の名を冠して世界市場展開をしたいと目論んでいた。凝り性マニアが多い日本市場が高級品の商品企画を牽引していたバブル期に至る「Japan as No1」の時代だった。1980年代遂にEverestとK2を市場導入させることに成功。以来、シリーズ製品は幾代を経て今日に至っている。因みに、現在の両製品の小売価格はペア(2本)でそれぞれ4百万円、3百万円、重量一本100kgを超す巨漢である(写真貼付)。バブル期には人気が沸騰して航空便で輸入するほどの狂乱の重厚長大の時代でした。軽薄短小の代表アップル社のiPod登場(2001年)によって市場は様変わりして今日に至っている。

ここ10年間で、世界の音楽市場は急激にストリーミング(インターネットを介した動画配信や音楽配信に用いられる配信方式)へとシフトし、特にコロナ禍での一時的な打撃からV字回復を遂げました。2023年のデータによると、世界全体の音楽収益の67.3%はストリーミングによるものである。一方で、フィジカルメディア(CDやレコードなど)は17.8%を占めているが減少傾向にある。

世界全体としては、デジタル音楽が主流となりつつあるが、日本の音楽市場はやや異なる。日本では、CDやLPレコードなどのフィジカルメディアが依然として市場の65.5%を占めており 、これは世界でも異例の高い割合である。2022年と比較してもわずか0.3%の減少に留まっていて、依然としてフィジカルが強いことがわかる。日本の音楽市場はアメリカに次いで世界第2位の規模なのだ。

K2未踏ルートからの登頂挑戦のNHK BS放映を観ながら、僕のK2を懐かしく想い出す。