藪漕ぎの小説「バリ山行」(松永K三蔵著)が芥川賞に選ばれました。私は文藝春秋9月号で読了しました。バリ山行とは「バリエーション山行」の短縮でバリ島旅行ではありません。
(1)藪漕ぎの思い出
藪漕ぎはワンダラーにとってはお馴染みの山行形態で非常時にも対応できる登山の技術を学ぶ重要なプランですが、夏合宿等では数々のエピソードを残しており仲間との「苦難と達成感の共有」の面もあったような気もします。
先輩から聞いた話も含めいくつかその例を挙げると
・這松の隙間に足を踏み抜いて身動きできなくなった。(ふりをして休んだ。)
・安いニッカホースを買って行ったら一日でボロボロになった。
・一日にコップ一杯の水しか自由にさせてもらえなかった。
・のどが渇いて我慢できず笹に残った朝露を歩きながら軍手にしみこませて啜った。
・一日中藪の中でもがいて地図の1cmしか進まなかった。
・一日中藪漕ぎをして午後に良いテントサイトが見つかったと思ったら今朝出発した場所だった。
等々思い出話のネタになっています。
(2)小説「バリ山行」について
この物語では兵庫県の中小企業に勤める30代の主人公が社内交流のため会社の登山部に入り休日に六甲山を仲間と一緒に歩いているうちに次第に山歩きの魅力に嵌っていきます。そのなかでバリエーションルートを毎週山行している同僚と出会い、初めてバリ山行を体験しその険しさや厳しさを知るというものです。
ストーリーは会社の方針変更などビジネスの変化に翻弄される中小企業の社員の感情とバリエーション山行の困難さを重ね合わせて展開しています。今までの山岳小説の多くは岩や雪をテーマにしたものが多かったように思いますが、地味な藪漕ぎの魅力や難しさをうまく取り上げて表現していると思います。非常に簡潔で平易な文章なので一気に読めるのも魅力です。
藪漕ぎファンにはお勧めの一冊です。
(編集子)面白い本が出現したものだ.編集子現役のあいだでは 藪漕ぎ というのはあくまでワンデルングの一要素(多くの場合ネガティヴな)に過ぎなかったし、自分も三国山荘創設の前後によく知られた 上越の藪 を何度か経験したくらいしかない。現在の現役の活動の中には “ヤブ” というジャンルが明確に定義されているようだが、自分の中では壮烈な稲包稜線通過第一号を目指したはずで惨敗した苦い経験を思い出すだけで、変われば変わったものだ、という感想しかない。しかしこれも若手(小生から見れば、の話だ、もちろん)OBの中での100名山レースのトップを走っているク二ヒコならではの感想だから親近感が生まれる。現役諸君にどなたかのルートで伝染していけばいいのだが。