シャーロック・ホームズのシリーズには、後年、幾人かの作家によって続編が書かれ、翻訳も出版されていて、質的にも評価されている。HBの古典(であると勝手に小生が思い込んでいるのだが)レイモンド・チャンドラーの 長いお別れには、現代アメリカンミステリの代表的作家 ロバート・パーカーの プードル・スプリングス物語 という作品があり、ほかにも短編は数多く書かれている。続編ものの代表作ともいえる プードルスプリングス物語は、原作でほのめかされていた話が現実化した形をとって主人公マーロウがリンダ・ローリングと結婚してから、物質的には恵まれるのだがそれにあきたらず、また私立探偵稼業をはじめる、という筋で、主人公以外には原作とのつながりはあまりない。パーカーの場合は彼自身がつくりだしたスペンサーという主人公のイメージが読者の間に浸透しすぎているので、この作品をストレートにチャンドラーの続編ととらえるにはどうしても違和感があるように思える。
(ウイキペディア解説)
『プードル・スプリングス物語』(Poodle Springs)は、アメリカの作家レイモンド・チャンドラーの未完の遺稿をロバート・B・パーカーが完成させたハードボイルド小説。1989年に刊行された。私立探偵フィリップ・マーロウを主人公とする長編シリーズの第8作となる。『長いお別れ』で出会った富豪の娘リンダ・ローリングと結婚し、プードル・スプリングスの豪邸に住むことになったフィリップ・マーロウ。だが、妻の金で暮らすことを潔しとしないマーロウは町はずれに探偵事務所を開いた。最初の依頼人は、借金を返さない男を捜してほしいというカジノ経営者だったが、一見単純な依頼はやがて殺人事件へと発展する。
これに対して、今回、またまた例によって立ち読み中に発見して買ってきたベンジャミン・ブラック(浅学にして小生は知らないのだが、英国ブッカー賞作家、ジョン・バンヴィルがミステリ執筆時だけに使うペンネームだそうだ)の作品は、マーロウはもちろん、チャンドラー作品に登場するおなじみの脇役がしっかり出てくる。終盤近くにギャングがつけ狙う(何かが―ま、麻薬だろうと想像は出来るのだが―が入っている)スーツケースの外観が、”お別れ” でテリー・レノックスがマーロウにあづけていた ”英国製の豚皮の素晴らしいスーツケース” と分かるので、ははーん、と膝を打つとラストにはそのレノックス本人が登場する。”長い別れ” をしたはずのテリーのほか、グリーン警部やバー二イ・オールズ検事も出てくるし背景に暗躍するギャング筋も同じ名前が出てくる。そういう意味で、変な言い方だが、続編らしい続編、と言える仕上がりになっている。
面白いことはときどきつづけて起きる。この本は、書棚に並んでいる本のカバーに チャンドラー という文句があったので見つけたのだが、その時、無意識に目の端に入った本にも、そのカバーに チャンドラー という文字があるではないか。こちらは全く知らない著者のものだが、(チャンドラーをしのぐ傑作!)というような刷り込みだったことがわかり、いつもの衝動買いの癖で買ってしまった。この本はこの後の話になる。
同じ続編でも、プードルのほうはパーカーが宣言して書いた、となるとそれなりに身構えて読んだのだが、この黒い瞳、のほうは、エーガの話で考えてみると、ジョン・フォードの西部劇の名作(これも小生の思い込みなので勘弁してほしいのだが)騎兵隊三部作、がウエインだけの魅力ではなく、毎回登場する脇役陣に感じる親近感で支えられているのと同じような親近感を覚えながらあっさり読んでしまった。ミステリーである以上、筋書きを描くわけにはいかないが、推理小説としての質、というか出来栄え、については評価は分かれるかもしれないが。