Giさんお薦め(お気に入り?) の映画です。石原裕次郎の歌ったヒットソングにヒントを得た兄、 石原慎太郎の書き下ろし。
モノクロの画面、レストランREEFの店の前を、 汽笛を鳴らし貨物列車が走り過ぎて行きます。口笛を吹きながら、 譲次が国際郵便をポストに投函しに行った夜の帰り道、霧の波島止場に雨に濡れて佇む女性(:北原三枝) を見かけます。島木譲二(: 石原裕次郎)は女性に声をかけます。 「夜の風は冷たいよ、寒いでしょう。 帰る所がないなら、僕の所にいらっしゃい 夜の風は冷たいよ」「心配しないで、身体をあたためるんだ」と、 自分の経営するレストランに連れてきます。
「どうぞ、何してる そんなとこに突っ立っていないでこっちにいらっしゃい。
まずこれで身体を暖めるんだ」と、 グラスにコニャックを注ぎます。 この先も二人の会話が続きますが、久しく耳にしていない、 優しい言葉遣いに品の良さもう感じられます。
女性に、あなたは一体誰なんだ?と聞いても 歌を忘れたカナリアと言うばかり。外で物音がすると何かを怖がっている様子です。 (北原三枝は綺麗だったのですね!)譲次は、「1年前にブラジルに渡った兄から、 迎えの手紙がきたら、 もうじき僕もブラジルに行くことになっていて日本には何の未練も ない、 あなたの心の負担にならない人間だから何でも言ってご覧なさい」 と言う。
「俺は待ってるぜ」 1番 2番の歌詞からも、 譲次が待っていたのは兄からの手紙だったのですね。女性・早枝子はクラブ地中海の歌手、 人を殺してしまったから帰れないと、 譲次のレストランで働くことにします。 店を休みにして二人で都電、三輪車が走っている街へ出でて、 ボクシングの試合会場へも観に行きますが、 早枝子が殺してしまったかもしれないと思っていたチンピラ男 柴田の弟に映画館?の化粧室で出会ってしまいます。譲次が追い返すのですが、これで
譲次の兄はブラジルへは行っていないことが分かり、 譲次は兄にも裏切られたかと一時怒って荒れますが、僕に残された たったひとつの夢だからと必死に消息が絶えた兄の身を案じて手が かりを探し廻ります。
さて、柴田の弟が契約の期限が残っているからと、 クラブ地中海の仲間を連れて、早枝子を連れ戻しに来ます。 (悪役、柴田兄弟の兄役が二谷英明だったのには驚きました。 眼孔鋭く、 凄みがあり登場してもしばらく二谷英明とは気がつきませんでした 。 私がTVで二谷英明を見かけるようになった頃は、 穏やかな役柄が多かったように思います。) 物語はアクション劇風に、さらに復讐劇へと進んでいきます。
譲次は元ボクサー 実力では文句のつけようがないチャンピオンでしたが、 腕の力が強過ぎて相手を殺してしまい、 罪には問われませんでしたがライセンスを取り上げられてしまった ようです。 強いので、負ける事はないとは思いましたが、 凄まじい乱闘劇でした(・・;)
兄のブラジル行きのお金も取り戻し「俺は待ってるぜ」 の歌が流れる夜道を帰る
譲二と小枝子の後ろ姿。誓う二人のその幸せを”俺は待ってるぜ”。
(編集子)この広い日本のどこかに、”俺は待ってるぜ” を見た、という人がいるはずだと俺は待っていた。それが (ま、もと上司への強制的義理だてだとしても、だ)親愛なるヤッコだったとは二重のよろこびなんである。
エーガを純粋に一つのワークとして評価する、という見方があるとすれば、それの対極にあるのは映画が自分の中に引き起こしたプロジェクションというか、そういうもので評価する、ということだろう。この作品と小生との間にあるものがそれだ。ユージローという俳優のことも、この歌のことも、高校3年の時、親友の小川拡が教えてくれたことだった。その時はへー、そうかい、という事で済んだのだが、大学進学直前の冬に起きたあるアクシデントが尾を引いて、もう一つ新しい環境になじめず、その上、ちょっとした手術を受けるために慶応病院に2週間ほど入院していた、自分史のなかではひとつのダークスポットとして残っている一種の失意の時期があった。当時はまだ木造のちゃちな病舎の窓から、同室のおじさんたちの応援で(当然外出禁止の時間だったのだ)抜け出し、渋谷まで歩いて行って、偶然見たのがこの映画だった。島木という主人公がかかえる鬱屈が、やっこが書きだしてくれた出だしのフィルムワークの雰囲気と重なって、大げさに言えば琴線に触れたというか、そういうものなのか、難しい技術論やら芸術性などというものを通り越して、今でも、またまた気障に言えば、”俺とともにある”というのか、そういうエーガなのだ。人生黄昏にたってみると、こういうものの見方もできる、という事なのかもしれないが。
作品について言えば、全体を覆っている薄暗い雰囲気と、やっこが指摘したように二枚目二谷、という常識を覆えす英明の凄味のある悪役ぶりそして最後の乱闘シーンの凄絶さはほかの日本映画ではみたこともなかったものだった。
日活がどういう位置づけをしているのかわからないが、この作品のDVDには実に I’ll be waiting なるエーゴのタイトルがプリントされている。グーグルに載っている範囲でいうと ”錆びたナイフ” (この主題歌も好きだ)には Rusty Knife と書かれている。それではエーゴの吹き替えか、と言えばそうではない。どうもこのあたり、このエーガが登場したころの、(エーゴで書くとなんだかかっこいい)的な、小生が嫌悪する出羽守的文化の影響だろうか。ほかにもユージローの懐かしいDVD数点、新装なってアマゾンに並んでいる。そんなに高価でもないし、いくつか試されたら如何。”黒部の太陽” だとか ”陽の当たる坂道” とかの佳作名作もいいが、日活男性路線の原点になった、上記した ”錆びたナイフ” とか、北原三枝との初共演だったやはり慎太郎原作の ”狂った果実” の2曲は主題歌も心に残る作品である。
更に追記。この作品のDVD,ご希望ならばお貸しするのご一報ありたし。