kWV36年卒仲間はなんといっても数が多く、いろんな奴がいて、いろんなタイプがいた。学者もいればミュージシャンのほうがよかったんじゃねえかと思えた奴、破滅的な呑み助、絵にかいたような音痴、銀時計をもらったのもいれば銀座のマダムまで、思い出すだけで楽しい。そういう中にいわば硬派、というのか、独特の思考体系をしっかりともちつづけ、時としてユニークな発想で仲間を驚かす、”エーガ愛好会”グループの用語でいえば キジン といえばいいか、そういう連中もいた。
その代表的人物,”フミ” こと大塚文雄が退職後、ライフワークとでもいうべき情熱をもって取り組んできたプロジェクトがあったが、先週、その結果として一冊の本を上梓した。編集子とは仕事の場としての アメリカ生活という共通項を持ち、肝胆相照らす部分も多かったので、彼がこの本に賭けた意気込みは尊敬してきたのだが、それがとうとう完成した。友人として嬉しいかぎりである。
本のタイトルは少々長ったらしいし、僻目で見れば世の中に氾濫するビジネステキストの一つにも見えるが、通読してみて、この本を20年前に読んでいれば、という慨嘆に駆られた。
ビジネスの世界にいれば、財務諸表というものに無関心ではいられないし、その知識の深浅の程度こそあれ、理解に努めようとしたものだった。しかしその中でも、どちらかと言えば等閑に付されるというかあまり興味を持たないできてしまったのがこの本のタイトルになっている無形資産、というジャンルだったような気がする。この本はこの領域における知識の拡充、という事もあるが、何より企業経営、というものをあらためて勉強する、(いまさら聞くわけにもいかない)部分の確認、には得難いテキストだと思う。
…….と書いてしまえばこれはどんな本の宣伝にも使える文句になってしまうのだが、本書のユニークなところ、言ってみれば著者が云いたいことがテキストではなくストーリーというかある意味ではライトノベルとして理解できる仕掛けがあることで、それが目次で言えば第三部の(本書は全部で4部にわかれている) 物語で読む無形資産の実践例 というくだりである。大塚が送ってきてくれた本書のタイトルをみて(私なんかカンケーないよ)という顔だった我がパートナーが気まぐれにこの部を開いてみてすっかりコーフンしてしまったのにはおどろいた。彼女の感想は (小説よりおもしれえ)であった。これを 小説のかたちをとった啓蒙書、とすればその意義は素晴らしいものだと思う。
フミは昭和36年、当時はまだ新興企業、というイメージだったソニーに入社、法務関係に従事したあと、当時 ”五番街の日章旗” と言われた同社の米国進出に関わり、その後いくつかの関係会社のトップを経験したあと、JETROに派遣されるなど、一貫して同社の国際事業領域に従事、引退後はアイルランドにわたり地元企業の育成に関わった。上記した(小説よりおもしれえ)部分は其の実録である。あまたのテキスト本に比べて本書が実感を持って読めるのは彼自身の体験で裏打ちされるからだ。
編集子を含めてすでに企業戦線の現場にはいない人間も、企業OBとしてのジョーシキの整理と、もっと広い意味で、たとえば ”日本のGNPは衰退している” などという出羽守的自虐論は正しいのか、などといった、いまでこそ知っておくべき事柄に理解を深めるにはまことにうってつけの一冊だし、後輩諸君やたったいま企業戦線にある子供たちにはぜひ読ませたい本だ。
ただ、同書は プリントオンデマンド方式で上梓されたので、現時点では一般書店では入手できず、アマゾン経由になる。アマゾンの “本” から ”大塚文雄” で検索すればよい。多少手間がかかるのは致し方ないが、その手間に十分すぎる一冊だと思う。
(HPOB 安斎)大塚文雄さんの本 大変興味深く読みました。実務情報もさることながら 実践例のお話は確かに下手な小説よりも面白く、大塚さんのご苦労や実践がよくわかる素晴らしいお話でした。ある意味、アイルランドの中小企業に限らず、どこでも通用する考え方、実践だと思いました。一部 HP 時代の コンピュータ事業部とのやり取りやデル、シスコ時代でも 本社のいろいろ頭の固い方々とのいろいろなやり取りが思い起こされ ビジネスを回していくためには いろいろな無形資産の活用が重要だったと思いました。
ほんとによい本の推薦をありがとうございました。