イスラエルの状況分析 (普通部OB 田村耕一郎)

ウクライナ戦争が長引いくなかで勃発したイスラエル―ハマスの紛争について、問題に詳しい友人ジャーナリストからの情報を参考までに転載します。

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イスラエル軍とハマスが「戦争」状態に入ってから1週間が経ちました。これまでに ガザで少なくとも2,300人、イスラエル側では1,300人が死亡し、双方の死者は3,600 人を超えています。
イスラエルはガザに報復の空爆や限定的な地上作戦を実施し、ハマス幹部を数名殺害 していますが、同時に、ガザを「完全包囲する」として、水、食料、電気、燃料など> の供給を遮断しました。これには国際法違反との批判が浴びせられています。
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ネタニヤフはテレビ演説を行い、これまでのハマスへの攻撃は始まりに過ぎない、ハ> マスを破壊して勝利する、時間はかかるがイスラエルはかつてなく強くなってこの戦> 争を終わらせると宣言。イスラエル軍は10月13日にガザ北部の110万人の住民に向け> て24時間以内に南部に退避するよう呼びかけ、14日には2つの退避ルートを発表し、 安全を確保するので10〜16時の間に退避するよう要請しました。 そして住民退避の期限は過ぎました。近いうちにイスラエル軍はハマスに対する大規 模な攻撃を開始するとみられます。

イスラエル軍の作戦の目的は、ハマスを完全に排除することは無理としても、その主> 要メンバー、インフラ、軍事施設や兵器に壊滅的な打撃を与え、その軍事力を恒久的 に無力化(ないし著しく弱体化)させることです。そのために、空爆と地上侵攻を含 む8週間の初期作戦が立案されていると伝えられていますが、以下に述べるとおり、 この作戦にはいくつものリスクが予想されます。

ガザには、幅10キロ、長さ40キロという狭いスペースに220万人もの民間人が住んで おり、そのような密集地域での地上戦には大きな困難が伴います。当然ながらハマス は、イスラエルからの大規模な地上侵攻を予想しており、長い時間をかけて十分な準 備をしてきたはずです。トンネルを活用し、民間人を「人間の盾」としながら、イス ラエル軍に執拗な攻撃を加えつつ、民間人が「虐殺」されるイメージを世界中に発信 することを狙っているのでしょう。

イスラエル軍は民間人の退避を呼びかけていますが、わずかな時間で110万人を移動 させることには無理があり、国連のグテーレス事務総長やEUのボレル上級代表も「現 実的ではない」としてイスラエルの対応を批判しています。 またガザの封鎖によって生活インフラが機能しなくなることもあり、南部からエジプ トの国境(ラファ)を超えて出国を認めることも求められ、エジプトにその対応に向 けた圧力がかかっていますが、エジプトが数十万人もの難民を受け入れることは考え られません。おそらく数千人程度に限定しながら厳重な管理の下、一時的な滞在だ けを認め、国際社会に財政支援を求めると予想されます。
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イスラエ ルは人質の奪還には伝統的に大きな情熱を注ぐ傾向があり、過去には1人の兵士を解 放させるために1,000人ものパレスチナの政治犯を釈放させた例があります。今回 も、人質の奪還に向けた国民からの圧力は高まるでしょう。
一方、ネタニヤフ政権としては、軍事的にも政治的にも、できるだけ早くハマスに強 力な攻撃を行う必要があります。スモトリッチ財務相など政権内の強硬右派は、人質 に重点を置かずに作戦を推進すべきであるとも主張しています。
なお人質の救出については、米国市民も人質に含まれていることが判明し、米国に とっても重要な課題になります。米国が単独で特殊部隊を派遣し、直接に関与するこ とは考えにくいですが、イスラエル軍が地上作戦を開始すれば、これと共同して作戦 を行うことは十分に予想されます。これは米国のコミットメントを示すものとして、 米国内でもイスラエルでも評価されるでしょうが、同時に作戦上の調整も必要になり ます。

地上戦によって民間人に被害が出ることについては米国も懸念しています。イスラエ ルの正当性が損なわれることのみならず、後述するように、イスラエルとパレスチナ の紛争を超えて中東地域全体を巻き込む事態に発展しかねないからです。ブリンケン 国務長官がいち早くイスラエル(それにカタール、UAE、サウジ)を訪問したのは、 イスラエル支持を強調する(それによってイランやヒズボラらの行動を抑止する)の みならず、イスラエルに過剰な行動に出ることのないよう釘を刺すことが主な目的 だったと考えられます。

こういった点にかんがみると、イスラエル側にはまだ準備が必要であり、大規模な地 上戦が始まるまでにはまだ時間がかかる可能性があります。そして作戦が始まって も、これまでのガザ侵攻とは異なり、数日間で終わることはありません。数週間から 数か月かかるでしょう。

(ウイキペディア解説をかき集めてみたのが以下)

パレスチナ人は、パレスチナ地方に居住するアラブ人を独立した民族として捉えた場合の呼称(語源はペリシテ人)。民族的に「アラブ人」と同一であっても、ユダヤ教徒なら宗教的には「ユダヤ人」と呼ばれる。中東でパレスチナと呼ばれる地域は長年、オスマン帝国が支配していた。 第1次世界大戦でこのオスマン帝国が敗れると、パレスチナはイギリスが支配するようになった。 この土地には当時、ユダヤ人が少数派として、アラブ人が多数派として暮らしていたが、1948年にイスラエルというユダヤ人の国ができた。その後は、この土地の中で〝将来、パレスチナ人の国家になりたいと望んでいる東エルサレム・ヨルダン川西岸・ガザ地区を総じて、パレスチナと呼んでいる。

パレスチナ問題の根源は「2つの悲劇」にあるとも言われる。1つは、ユダヤ人が2000年の長い歴史の中で世界に離散し、迫害を受けてきた悲劇で、やっとの思いで悲願の国(=イスラエル)をつくり、それを死守していきたい、二度と自分たちが迫害されるような歴史に戻りたくない、という強烈な意識になっている。
もう1つは、パレスチナの地に根を下ろしていた70万人が、イスラエルの建国で故郷を追われたという、パレスチナ人の悲劇である。いまパレスチナ人が住んでいるのはヨルダン川西岸とガザ地区という場所で、国にはなれないまま、イスラエルの占領下におかれていて、周辺の国にも多くが難民として暮らしている。

ハマスとは、パレスチナ・ガザ地区を実効支配する武装組織で、イスラエルの破壊と、その後のイスラム国家の樹立を目標に掲げている。2007年にガザ地区を掌握して以来、イスラエルと何度か交戦してきた。