一冊の本-私の場合  朝井まかて 「眩」   (HPOB 金藤泰子)

「富嶽三十六景」などで知られる浮世絵師 葛飾北斎の娘の葛飾応為が主人公。 当時は珍しい女絵師としての生き方が創作を交えて書かれています
北斎の筆とされる絵の中には部分的に応為や北斎の弟子の筆が入っている事、応為が絵の構図や色遣いを試行錯誤する様子、当時の絵の具と色 筆 下地の作り方が書かれているのは、興味深いところでした。 ベロ藍や日本の伝統色の名が出て来るのも良いです。
北斎はもちろんのこと応為や絵に関する事をよく調べたものと感心します。
応為は20歳の頃に嫁ぎますが、離縁して実家へ戻ると北斎が息を引き取るまで父親の画業を助けています。 江戸調の語り口でテンポ良く話が進んでいき、また、各章の題の付け方が良いですね。
応為の肉筆画とされる第十章三曲合奏図」(本図の制作年代は、ひとまず弘化から嘉永年間に掛けた時期(1844~1856)と推定しておきたい。』久保田一洋氏の指摘) は、元兄弟子 善二郎の三人の妹と結びつけて書かれている創作だと思いますが、読んだ文章から自分の頭の中で絵を想像し、それからネットにある絵と見比べると、絵師応為が ”見る者に音を感じて欲しい“ と描いた絵の中の三人の娘の身体の傾げ具合、手や指先に至るまで細やかな描き方は、想像したよりはるかに動きに現実味が感じられましたが、ほぼ想像通りの構図 色遣いで、 著者の細やかで的確な描写力に感心します。
 (個人的な好みとしては・・・応為が描いた着物の縞柄は描き込み具合が強く思え、私はもう少し柔らかな感じが好きです)
その他の章の絵図の記述につきましても読むと、実際の絵を見て確かめたくなりす。著者の朝井まかてさんは言葉で絵を描いていたようにも思えました
北斎が富嶽三十六景を手掛けた経緯、天保の改革時の悲惨さ、(本日5/27 飯田さん 船津さんがメールに書かれていますが)北斎が招きをうけて小布施の豪商の高井鴻山のところへ出かけて行き、お寺の天井の鳳凰図は親父どのの指図を受けて手伝ったという話も出てきて興味は尽きません。 (この鳳凰図は私も見た事がありますが、本当に応為の手が入っていたのでしょうか?)
北斎が亡くなった後、応為は商家や武家の娘さん達に女家庭教師として絵も教えていたようです。 己の絵の才能に歯がゆさを覚えながらも常に邁進あるのみ、己なりに光と影を見出していきます。
最終章が葛飾応為を江戸のレンブラントと呼ばしめる「吉原格子先之図」です。
応為の生き方を辿ると共に応為の描いた作品を知り、著者の綴る文章をいつもと違う感触で楽しめた1冊でした。
 今年の11月に太田記念美術館にて、葛飾応為 「吉原格子先之図」展覧会が催されるようです。

(菅原)流石、読み上手書き上手の金藤さん。見事なもんですね。

悪乗りすれば、澤田 瞳子の「星落ちて、なお」。これは、画家、河鍋暁斎(キョウサイ)の娘、河鍋暁翠(キョウスイ)の話しです。まー、暇になったら読んでみてください。

なお、昨日の日経に載っていた「台湾漫遊鉄道のふたり」なかなか面白そう(作家は台湾の楊双子)。早速、図書館に予約しました。本来、おとこおんなは関係ないんでしょうが、 女流作家、なかなかヤリマスネ!