エーガ愛好会 (200) 怒りの荒野   (34 小泉幾多郎)

「怒りの荒野 1967」はジュリア―ノ・ジェンマ主演のマカロニウエスタン。監督が「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」でセルジオ・レオーネの助監督を務めたトニーノ・ヴァレリ。音楽が「世界残酷物語」の主題歌モアでアカデミー賞ノミネート等イタリア映以外でも各種賞を受賞しているリズ・オラトラーニ。主人公ジェンマ(スコット・マリー)に対決するのが、リー・ヴァン・クリーフ(フランク・タルビー)。「真昼の決闘」以降本場の西部劇では悪役専門のちょい役だったが、マカロニウエスタンに出演と共に、主演級に昇格し、特にこの映画では、ジェンマが師と仰ぐ射撃の名手に扮し、その渋い眼力と表情が素晴らしい。
父親がはっきりしない娼婦から生まれたジェンマは糞尿処理しかさせてもらえない最低辺の若者が、ガンマンのクリーフに出会うことから、クリーフを師匠として仰ぎ、ガンマンとして成長して行く姿を描く。婚外子として生まれたジェンマが、クリーフを父性への思慕と感じたのかも知れない。その若者が、疑似親子的関係が骨子となり、それに加えて、クリーフから「ガンマン心得10ヶ条」が提供され、それが能書きでない、生き様の掟として画面が進んで行き、最後に至り、ジェンマがそれを実践することにより終焉となるのだった。

その10ヶ条とは、 1.人に頼み事はするな。2.誰のことも信用するな。3.銃と的の間に立つな。4.殴られるのも弾と同じ、一発食ったら最後だ。5.撃つなら必ず殺せ、自分が殺される。6.撃つタイミングを逃すな。7.縄をほどくなら銃を取り上げろ。8.必要以上に弾を渡さぬこと。9.挑戦を受けない奴はその時点で負けだ。10.殺すと言ったら、後へは引くな。

この10ヶ条に基ずきながら、ジェンマは成長して行くのだが、その成長度は早過ぎる感もあるが、力を持つと人間関係は一変する。片やクリーフの方は、過去仲間だった銀行頭取、酒場経営者、牧場経営者等に復讐し、このまま進めば善玉で終わりそうだが、悪玉は悪玉。ジェンマはクリーフに会う前からいろいろ面倒をみてもらっていた元保安官ウオルター・リラ(マーフ・アラン・ショート)とクリーフのどちらにも恩を感じ、身動きが取れなくなるが、クリーフの暴力的やり方、街を自分のものにしようとすることに加え、新保安官となったリラがクリーフに撃たれたことが引き金となり、決闘でジェンマがクリーフを倒す。しかも瀕死のクリーフをガンマン心得第5条通り、とどめをさすのだった。決闘シーン中、勇壮なリズムが躍動し、エレキギターが哀愁の調べを奏でるとトランペットが高らかに吹き鳴らされる。ジェンマは街のために何かしてやろうなんて考え方は毛頭なく、その帰属意識のなさはマカロニウエスタン主人公の素養として必須。また珍しいのは、ジェンマが判事の娘アンナ・オルソ(アイリーン)と恋仲でありながら、全然進展せずに終わってしまったこと。

結論的には、クリーフの超絶なる個性の存在が、ジェンマという華やかさが程良く抑制された駆け出しガンマンの成長過程が描かれ、またガンマン十戒が実践されながらの銃撃戦の数々を経ながら、師匠と弟子のクライマックスへの対決の構成が巧みに描かれ楽しむことが出来た。

(編集子)エーガ愛好会投稿第200号はドクター西部劇で決まった。この企画、第一号は2020年5月15日、小生の ”赤い河を巡って” である。

エーガ愛好会 (1) “赤い河” をめぐって

事の始まりは月いち高尾の帰途、川名君との会話から始まった、”エーガ” 談義である。たまたまこの記事が小泉さんの目に留まり、お互い,懐かしいエーガ(どうも映画、という気がしない)の時代の話を始めた。小泉さんとは小生にとっては鬼の3年生、現役時代、ワンデルングで何回もご一緒しているのだが、エーガファンであることは全く知らなかった。

以下、区切り区切りの投稿は

第5号  めまい (安田)

第10号 懐かしきオールド西部劇(小泉)

第50号 夕陽のガンマン (小泉)

第100号 100号回顧 (中司)

第150号 ペンタゴンペーパーズ (安田)

新メンバーも加わり、今後一層の賑わいが楽しみだ。250号は誰になるか?