オリンピックについて―米国の世論  (HPOB 五十嵐恵美)

現時点(6月1日)米国ではこのコロナ禍の中「ゲームをキャンセルするのが最も安全なオプションかもしれない」というのが、プレスも含め(米国オリンピック委員会を除いた)米国の主流のように見える.また、バイデン米国大統領が開会式に恐らく出席しないであろうと予測されているのと同様、米国一般国民のオリンピックに対する関心は一概に低いように感じる.

オリンピック開催中止をめぐる基本的な問題はIOC(国際オリンピック委員会)とホスト都市との間の契約にForce majeure(不可抗力)の項目が入っていないことらしい.不可抗力は、戦争、ストライキ、暴動、犯罪、伝染病、突然の法改正、またはイベントなど、当事者の制御を超えた異常な出来事または状況が発生した場合に、両当事者を責任または義務から本質的に解放する契約の一般的な条項であるが、IOCとホスト都市との契約によると、戦争や内乱などの非常に例外的な状況下でのみ、開催を中止できるという.出場する選手たちも例外にもれず、コロナを含む病気、感染にかかった場合、IOCに全く責任はなく、個人選手の責任となるらしい.よってオリンピック参加にあたり選手はIOCの誓約書にサインを求められるという.

オリンピックが現在ほど商業化され、メガ・イベントに膨れ上がったのはここ20年ほどとのこと.IOC は、その収入の約 70% が放映権から、約 18% がスポンサーから得ていると考えられている.よって、オリンピックが開催されなければ、IOC の財政とオリンピックの将来に深刻なダメージを与える可能性があり、IOCが「コロナ禍の中の緊急事態下でも大会を安全に開催できる」と繰り返し主張してきたことを考えると、IOCが中止を決定する可能性はほとんどないように思われる.

もし東京都がIOCの意思に反して契約を破棄して開催をキャンセルした場合、リスクと損失は日本側に転嫁される.東京 2020 の予算は 126 億ドルに設定されたが、実際の費用はその 2 倍になる可能性があると報告されている.オリンピックに関係するすべてのチームが多額の保険に加入しているにもかかわらず、オリンピックが開催されない場合の損失は依然として大きいといわれている.

延期と国際的にみられるオリンピックのファン離れは、開催国と IOC の両方にとって、通常のオリンピックの予想利益をすでに押し下げている.多大の費用、予想できないリスクを考えるとオリンピック招致を望む意志のある先進国の都市はもうないのだそうだ.2024年パリ、2028年ロス・アンジェルスのオリンピックが先進国都市がホストする最後のオリンピックになるだろうといわれている.最近IOCは中国に接近しているそうで、将来のオリンピックは中国中心のオリンピックになるであろうと予測するジャーナリストもいる.また契約に反映しているように、IOCの持つ絶対的ともいえる権力に疑問視が投げかけられているのも事実のようである.

Statistics and Research

Coronavirus (COVID-19) Vaccinations https://ourworldindata.org/covid-vaccinations?country=~JPN

The New England Journal of Medicine(世界で最も広く読まれ、最もよく引用され、最も影響を与えている一般的な医学系定期刊行物、5月25日付)の記事(https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMp2108567?uery=featured_home)

によるとコロナ禍で安全にゲームを遂行するために作られたIOCのガイダンスは「科学的に厳密なリスク評価に基づいておらず、感染が発生した場合、その要因、最もリスクが高い参加者等を考慮していない」と否定的で、「WHOが労働​​安全衛生、建築と換気工学、感染症疫学の専門家、およびアスリートの代表者を含む緊急委員会を直ちに招集し、これらの要因を考慮し、リスク管理アプローチについて助言することを推奨する」と提案している.日本におけるPCR検査数、ワクチン接種普及率の低さ、および感染率がより高いイギリス変種株、インド変種株感染の激増等を考慮した提案である.