エーガ愛好会 (47)ライフ イズ ビューティフル -20年の歳月

(安田)子供に対する親の無償の愛を描いた映画。イタリアのチャップリンといわれるユダヤ人コメディアン俳優ロベルト・ベリーニが脚本、監督と主演を務めた。妻が映画でも妻役を演じている。原題はLa vita è bella (人生は美しい)。

前半の笑いを誘うコメディー調から後半は一変して、ナチスドイツのホロコーストに巻き込まれたユダヤ人家族・夫婦と息子三人の物語と化す。死が待つ収容所で父親は嘘が希望と未来に繋がると信じ、遊び心のゲーム感覚で息子を騙しながらも励まし、遂には息子は、父親の計画通り双六の上がりのように連合軍によって解放された収容所から生還する。父親が次から次に繰り出す「嘘」と「遊び」の術には感心させられる。映画の根幹をなしている。同じように収容所から解放された母親と会う悦びのシーンで映画は終わる。父親は銃殺される。成人した息子が「父親からの贈り物」と父親の生き様を回想する形で映画が描かれている。

第二次世界大戦中のユダヤ人に対するホロコーストの悲劇を、不条理を正面から描いた「シンドラーのリスト」などと異なり、コメディータッチで描くことの賛否は当然あったと予想されるが、笑いの中に人生にとって大切なことを描き切ったベリーニの真骨頂があった。

オッフェンバックの音楽「ホフマンの舟歌」は映画にピッタリで大変良かった。舞台はイタリア・トスカーナ州のアレッツオ、中世の香りがする街並みと美しい田園風景も見もの。19世紀後半イタリアを統一したガリバルディ、ルネッサンス初期の詩人ペトラルカの名前が登場するなど嫌が上にもイタリア色も醸し出されていた。主人公がアレッツオのホテルで知り合った旧知のドイツ人医師に収容所でも会い、家族3人に救いの手でも差し出してくれるかと期待していたところ謎々を問いかけられる。黄色くてうるさい〜のはいったい何?主人公は答えられない。映画でも回答は分からず仕舞い。調べると、ユダヤ人を揶揄する侮蔑の言葉であった。日本人などアジア人は黄色人種として区分けされるが、実際の肌の色は黄色ではなく、黄土色・赤褐色に近い。ヨーロッパ・アーリア人から観て、ユダヤ人も黄色の範疇に入っていることをドイツ人医師は言いたかったのだ。即ち、彼らより劣等だという優越意識を表した謎解きであったのだ。この辺にもユダヤ人であるベリーニの反骨精神が表れている

(菅原)「ライフ・・・」見ました。ただし、期待が大きかっただけに、失望も、また大きかったのは甚だ残念です。一言で言えば、「ライフ・・・」<<<「ニュー・シネマ・・・」ぐらいの差があったんじゃないでしょうか。
ひとつ、ギャグが余りにも古めかしい。例えば、しつこい帽子の取り換え、玉子の入った帽子を被らせることなど。ふたつ、ヴィクトール・フランクルの「夜と霧」を読むと(イタリアのユダヤ人強制収容所はドイツのそれと違うのかもしれませんが)、余りにも違い過ぎて、全く感情移入出来ませんでした。最後に、R.ベニーニの地とも芝居ともわからぬ演技に、男優主演賞が贈られるなんて、今更ですが、アカデミー賞って理解し難い。

(保屋野)この映画が2月放映の一押しだっただけに、菅原さんの「勇気ある感想」に拍手します。前半は(つまらない)コメディーで、どこが名作なのか・・と我慢して観てたら、いきなり、イタリア駐屯のドイツ軍「ユダヤ人陣強制収容所」での深刻な場面に移り、やがて終戦を迎え、主人公は銃殺されるものの、子供と妻は生き延びる、という(感動的あるいは陳腐な)エンディング・・・ネットでは、「ホロコースト下での親子愛を描いた感動的名作」という評価もありましたが、私の感性が劣化してるのか、私にはあまり伝わりませんでした。

他方、「ボロクソ」の評価も有り、各自の感性によって評価が分かれる作品なのかもしれませんね。ベニーニ監督は「イタリアのチャップリン」だそうですが、(他の映画は知りませんが)、「ライムライト」や「街の灯」等と比較できるレベルではないでしょう。

(久米)「ライフ・イズ・ビューティフル」が封切られてからもう22年も経っているんですね。私も封切り直後に映画館で見た覚えがあります。この時、評価が絶賛されていた割には私は、感動を覚えませんでした。なんとなくあの喜劇タッチがピンとこなかったのです。それで今回TVはパスしてしまいました

チビ太殿いわく、

”22年前封切り直後に映画館で観た時に受けた強い印象と昨日テレビで観た印象は違っていました。疑いもなく僕の感受性と、刺激なり感動を受ける対象が22年という長い年月の間に変化しています。明らかに鈍くなっている気がします。歳も食ってきてもいますし”

本当に同じ思いが多々あります。あの当時はあんなに感動したのに今見てみると何という詰らない作品なのだろうかと思い、私の感受性が鈍ってしまったのだろうかとさえ感じる時があります。又、繰り返し見ても何年も昔の作品でも新たな感動があり新たな発見があることも有ります。
映画鑑賞はそれで良いのだと思います。それと人の感受性の違いもあるのである人には感動を呼んでもある人の心には響かない場合もあると思います。そこが映画の面白さではないでしょうか。

(小川)コブキさん、まさに同感ですね。

(編集子)思いがいろいろある……..か。この年、小生はサラリーマンにおさらばしたのだが。