エーガ愛好会 (43) ガンファイター 

(34 小泉)
「ヴェラクルス1954」の監督ロバート・アルドリッチの作品。同作品でもどちらかと言えば、悪のキャラクタ―のバート・ランカスターが、善のゲーリー・クーパーを食ってしまったように、このエーガでも、殺人を犯したカーク・ダグラスの方が、保安官であるロックハドソンに花を持たせながら、いいとこ取りに徹している。「赤い河」同様に1000頭の牛をメキシコからアメリカへと運ぶ道程での出来事を描くという西部劇の魅力になるはずのものが、複雑なる人間関係の恋愛色の強いドラマと化している。

物語りは、牧場主ジョセフ・コットンとその妻ドロシー・マローンと娘キャロル・リンレイが牛を運ぶのだが、それにお尋ね者のカーク・ダグラスが、かっての想い人マローンを訪ね、それにダグラスを追ってきた保安官ハドソンも加わり、一緒に旅をすることになる。途中三人の無頼の男たち三人も加わる旅は、ダグラスのマローンへの変わらぬ熱烈な想いと現実の彼女との距離感、彼女と夫との不可解な夫婦関係。ダグラスに惹かれて行く娘リンレイ。ハドソンの方は、妹の夫をダグラスに殺された復讐心を燃やしながら、マローンへの募る恋心といった、ややこしくも捻じれた構図のまま進んで行く。それでも、三人の無頼漢との対抗や牧場主が酒場で簡単に殺されてしまう等の事件もあり、捻じれ構造の対立もお互いに助け合うようなシーンもあるが、ダグラスがリンレイを助け、ハドソンがマローンを助けることから、カップル構図も決まってくる。それにしてもこんな役にコットンよくぞ出演したもの。

目的地が近づき、最後の野営のダンスパーティ、リンレイが、ダグラスとマローンが最初に出ったとき着ていた黄色いドレスで現れる。ダグラスが、歌曲「黄色いドレスの可愛い娘」を唄う。牛を運ぶ途中でも、ダグラスがマローンの馬車の横に、口笛を吹きながら馬車に寄り添う場面もあった。その後、三人のメキシカントリオと一緒に「ククルククパロマ」を歌う場面も良い。音楽は「栄光への脱出(1960)」でアカデミー賞を受賞したアーネスト・ゴールド。

リンレイの熱い情熱にたじろぎながらも、黄色いドレス姿にも魅かれ、彼女と共に生きる決意をし、夕日が沈んだら二人で旅立とう、と約束する。Last Sunsetこれこそが題名である。リンレイが自分の娘と知るギリシャ悲劇的な顛末。落日の最後の決闘に、射たれ倒れ込むダグラス。ハドソンは銃を調べて装填されていなかったことを知る。駆け寄るマローンとリンレイ。
これはとても西部劇とは言えないのでは?じめじめした因果応報のドラマ。どうやら赤狩りの際の当事者だったロバート・アルドリッチ監督、ダルトン・トランボの脚本、というところに要因があるのではないか、といわれている(二人ともかのマッカーシーの赤狩りの対象にされたいたため、ダグラスを赤狩りの犠牲者に例え、自由、芸術を愛する欠点多いが魅力的な人物、ハドソン保安官は法に則って追い続ける面白味の欠ける現実主義者という見方をしている論調)。

二人、ドロシー・マローン相変わらず魅力的、二人が恋焦がれる必然が感じられるが、事実が否かはっきりしないが子供まで作ったのにハドソンを選ぶ理由が判らない。リンレイはTVドラマで時折見たが不良少女っぽい印象であった。

(菅井)監督のロバート・アルドリッチは祖父がSenatorの重鎮で、ロックフェラー家とも姻戚関係のある東部エスタブリッシュメント出身でで経済学も学んだためかこの人の作品は所謂単純明快な典型的な西部劇映画とは一線を画する内容ですね。70年代始めのバート・ランカスターを主役に据えた『ワイルド・アパッチ』のストーリーの展開も一筋縄ではいかなかったような印象が残っています。

(41 相川)「ガンファイター」の話の筋はいただけませんが、 メキシコからテキサスへの牛の移動に関連し 少し調べてみました。 西部劇ファンには お馴染みのことかも しれませんが。

米墨戦争(1846-48年()で アメリカはメキシコから西部(ニューメキシコ・カリフォルニア)を獲得、1848年 カリフォルニアの金鉱発見で ゴールドラッシュに。 人口が急増し西部開拓が進む。
1865年 南北戦争が終結し西部への入植者が増加し 西部開拓が拡大。1890年までフロンティア拡大の活動がつづく。日本では幕末。なお、東部英国移民系の人には 牛肉を食べる習慣はなかったと知り驚いた。

牛は スペイン人がメキシコに入れ、メキシコ人パケーロ(カウボーイ)に管理された。・西部の人口増加に合わせ メキシコから西部に牛の移動(ガンファイターの背景)が始まった。更にテキサスの牛の大量増加にあわせ 西部から東部へのキャトル・ドライブ(主にテキサスから鉄道のあるカンザスまで)が)盛んとなっていくが、インディアン居住区の オクラホマ越えがあり、無法者、牛泥棒も出没、大量の牛の渡河、牛の暴走(スタンピート)等があり、カウボーイはとても危険な仕事だった。

(編集子)この映画の小生の関心はなんといってもドロシー・マローンの魅力と挿入されていた Pretty Little Girl in Yellow Dress  にある。マローンは西部劇では テーブルロックの決闘 でも今回と同じように複雑なシチュエーションで出てきたし、テレビの ペイトンプレース物語 での印象もある。美人であることは間違いないが、なにか翳のある、知的な反抗心(変な表現だが)を感じさせるところが好きだった。調べてみたら小生とは一回り違い、丑年。だからキャトルドライブ、ということはあるまいが。

相川兄のサマリー、感謝。西部の道の始まりはいわゆるトレイルと呼ばれるものから始まったようで、オレゴントレイルはその名残の部分を訪ねたこともある。ほかにはチザムトレイルというのが有名で、ジョン・ウエイン後期の娯楽作、チザム がこの本人と有名なビリー・ザ・キッドをからませたものだし、赤い河 のアビリーンまで牛を運ぶ、というテーマはそっくりチザムトレイルを辿ったのではないか、と思わせる。Pretty Little…のほうはマイク・クリフォードという小生知らない歌手が歌ったものらしい。アマゾンにはこの人のCDが3枚くらいまだ在庫があるようだが、どれにこの曲が入っているのか分からず、ミズテンで買ってみるかどうか、思案中。