”とりこにい” 抄 (9) 真教寺尾根

結婚して長女ができるまでの2年ほど、夫婦ふたりで気ままに歩きまわった。ある6月、野辺山の民宿に前泊、真教時尾根をラッシュした時の、平和な時間の感想である。時季は少し違うけれど、今年もあのアルプは穏やかに息づいているだろうか。

 

赤岳の午後

 

みおろせば。

六月の積雲にわずかな起伏をしめす

あれは美し森、清里、野辺山、念場が原。

コンターをたどる愚かはやめて

歯にしみとおる胡瓜の涼しさに声を上げれば

東壁にへばりついた季節外れの雪は

昼下がりを退屈そうに落ちていった。

見上げれば赤岳 2899メートル

なんの すでに貧相な岩くれにすぎぬ。

なれば。

今一度 水筒を傾け

去ってゆく雪のバラードを聴こうか。