乱読報告ファイル (33)  日本共産党に関する2冊  (普通部OB 菅原勲)

「日本共産党―(革命)を夢見た100年―」、中北浩爾、中公新書、2022年

これには、大変、失望した。イデオロギーに凝り固まった岩波新書ならいざ知らず、中公新書であれば、もっと忌憚なく日本共産党(以下、共産党)の真実を抉り出すことが出来るのではないかとおもいきや、その期待に反し、とんでもなく微温的な表現に終始しているからだ。それは、著者あとがきを読んで、やっと納得した。曰く、前作「自民党―(一強)の実像―」が、自民党から好意をもって迎えられたので、今回の「日本共産党」も共産党から好意をもって迎えられるだろう。これが学者(一橋大教授)のやることか!右顧左眄とはこのことを言うのだろう。また、以下で述べる、立花 隆の「日本共産党の研究」には、何故か一言も触れていない。今までもそうだったが、今後も、こう言うコウモリのような人を、一切、信用する積りはない。

余談だが、共産党の機関紙「赤旗」は、著者の意に反して、この著作の広告を載せることを拒否した。

「日本共産党の研究」、立花隆、講談社文庫、1983年     

これは、大変、面白かった。確かに、戦前の共産党を扱ったものだが、立花の構想には戦後も入っていたようだ。だが、残念なことに鬼籍に入って実現しなかった。しかし、ハードカヴァー出版後の共産党の反論、それに対する立花の再反論が文庫では新たに付け加えられており、戦後の「共産党」を理解するには事欠かない。文庫で上中下の3冊、全部で1000頁以上あるから、なかなかに手強い。従って、以下、要点だけを述べる。

スパイ事件(特別高等警察の共産党への侵入)、リンチ事件(共産党による特高スパイ、或いは、特高スパイと思しき人に対するリンチ)などがあって、戦前の共産党は壊滅する。確かに、「蟹工船」の作家であり、共産党員でもあった小林 多喜二の拷問死などがあったのは事実だ。しかし、一方、治安維持法のもと、特高(特別高等警察)が日本の赤色化を護ると言う点で計り知れぬ功績があったのも事実だろう。当時、共産党は、天皇制打倒を旗印としており、それを取り締まる治安維持法が必要だったし、暴力革命も標榜していたから、それを、事前に防ぐためにその共産党員を逮捕、拘束し、牢屋にぶち込む特高も必要だった。戦後、治安維持法は、所謂、進歩的文化人を中心に蛇蝎の如く忌み嫌われ、先の読めないバカなGHQ(連合国軍最高司令部)が廃止命令を出した。その結果、その後、野放しにされた共産党員を中心として、今にも革命が起こるかのように錯覚し、数多の騒擾事件が相次いだのはご承知の通りだ。

現在、共産党は確かに、暴力革命をその綱領から削除している。しかし、その本質は、民主集中制(民主主義集中制)にある。その実態は、立花も指摘しているように、言葉とは裏腹に、換言すれば、独裁制であり、それが、無謬性と混然一体となって活動している。この無謬とは、自分は常に正しく、間違っているのは事実の方だと言う誠に度し難い考え方だ(共産党に支配されている中国)。従って、独裁であり無謬である限り、反対勢力は存在できないわけで、依然として暴力革命の火種は残っていると見做すべきだろう。

ここでも余談だが、立花のこの本の作成要員の中に(つまり、この本は、立花ひとりの力だけで出来上がったものではない)、後刻、皮肉なことに、共産党のスパイが二人紛れこんでいたことが判明している。従って、出版後、共産党は直ちに立花に反論することが出来た。