乱読報告ファイル (20) 百田尚樹 新版 日本国紀

結論から言う。この本は一読に値する。必読、だとすら感じる。日本史のおさらい、という意味もあるが、何となくわかっていなかったことにそれなりの解答があった、という事と、全く知らなかった事実を確実な物証とともに提示されたことに新たな感動がある。

なんとなく思っていたことに確信を持たせてくれた記述はふたつあった。一つは先般、置き配とタブレット という事で書いた、日本のこの文化はどこから来たのだろうか、という事について、自分なりにそうではないか、と思っていたことを裏書きしてくれる記述である。日本という国のはじまりを邪馬台国の存在という事で納得してきたのだが、考古学の専門的知見に加えて、日本という国の地理的条件が育んできた文化のありよう、それの延長として万世一系の天皇という存在についての考察などは非常に明快であり、中国の先進文化を取り入れながら、その中核思想であった、易姓革命、という思想だけは取り入れなかったという史実、その後世への影響、という視点はわかりやすいし、平安から鎌倉、戦国時代にあって、なぜ天皇家が存続したのか、という説明である。また昨今問題になっている女系天皇論にもわかりやすい解説になっている。

もう一つは明治維新という屈曲点を経て、わずか数十年の間に世界列強に並ぶ国ができたのはいったいなぜだったのか、という疑問に対する示唆である。何となく想像していたことをいろいろな物証で説明してくれる、その過程は明確でありかつ説得力があると思う。

全く知らなかった事実は占領下の日本において、GHQの政治の基盤が結局、アジア人種に対する差別意識だったのだ、という指摘である。同じ立場にあったはずのドイツの処理と日本での措置がなぜ違ったのか、という素朴な疑問に対して著者の説明は明瞭であるが、その過程において、WGIP というものの存在をこの本で初めて知り、愕然としながら、なるほど、そうだったのか、と納得することがあった。WGIPとは、War Guilt Information Program の略で、日本国民に戦争責任を考えさせる、戦争の罪悪感を日本人の心に植え付けるための宣伝計画、という、誠に身勝手な、恐ろしい政策だった。この計画の存在は想像ではなく、公式な文書があることがすでに確認されているのである。その中身がどうであったかは本書を読んでもらうとして、納得がいったのは、この計画の実施に参画した日本人が多くいて、事情も背景も知らない、アメリカの若造(だったと思う)学者の暴論を崇め奉ってGHQにすり寄り、そういう連中が政府機関よりも大学をはじめとする教育界に影響を及ぼして来た、という指摘である。そして小生がまさに国を危うくすると思っているいわゆる知識層、というものが形成されたのもここに原因があると知った。このあたりは本書にいろいろな物証とともに記述されているのでこれ以上はふれない。

それに伴って、日本がアジア諸国を侵略した、と今では事実化されてしまっていることにつぃてである。日本が地理上アジア諸国において戦争をしたのは間違いないが、その時戦った相手はアジア諸国ではなく(第一当時の諸国はすべて植民地であり、その国の軍隊というものそのものが存在していない)、その国を支配していた欧米の軍隊であった、という事実を言われてみて初めてそうだと理解した。それらの軍隊と戦い、その結果としてアジア諸国は植民地という立場から抜け出すことができた。これもまぎれもない事実である。こういう論説は今まで、特に左翼系のメディアや学者たちによって、日本の侵略だったのだ、という、まさにこのWGIPの罠にはまった論説によって片付けられてきた。このあたりの史実をこの本は鋭く突いている。そして何よりもそういう教育を受けてきた人たちが今の日本の政治にむきあっているのが現実なのである。ドイツでは、たしかにナチの追求は厳しく行われてきたが、強制であろうとなかろうと、その体制を受け入れた当時のドイツ国民を覚醒するためにこのようなプログラムがあったとは聞かない。白人にはそういう必要はないということだったのか。

歴史にはいろいろな解釈が成り立つ。専門家でないわれわれにはひとつひとつの史実の真偽を明らかにする能力はない。しかしこの本が書いているように、今の我々が直面している問題、憲法改革の是非から安全保障の問題、そういうことの根本にあるのがGHQなる正義の味方であったはずの機関が行政の結果であり、同理屈をつけようがその根底には、当時ぬきがたくあった人種・民族差別であった、という解釈には納得する。そしてまた、良くも悪くも、日本の文化というものがその背景にあった、という著者の主張に改めて賛同する。

今まで、やれミステリを読めとかハードボイルドがいいとか、勝手な熱を吹いてきたが、それはさておき(間違っていると思うのではない)、このコロナ蟄居の有効利用として、まず、この本を読んでほしい。