エーガ愛好会(97) クリフハンガー  (44 安田耕太郎)

ロッキー山脈に不時着した武装強盗団と山岳救助隊の戦いを描いたアクション・サスペンス映画。撮影はイタリア・ドロミテ山塊で行われ、雄大な山岳景観と演出を凝らしたスリルのオンパレードだった。

ただし、いくら何でもあり得ない設定や話の展開は現実離れしていて、飽くまで娯楽映画だと割り切って観れば山好きには気楽にドロミテ風景を(映画ではロッキー山脈の設定だが)を楽しめる。

ロッキー山脈で救助隊員をしているクライマーのゲイル(シルベスター・スタローン)はある日、険しい高い岩峰で遭難した同僚で親友と彼の恋人の救出に向かうが、彼の目の前で恋人の救出に失敗して滑落させ死なせてしまう。親友は恋人の死はゲイルの責任だと思い込み、彼も自責に駆られ恋人とも別れ、山を下りる。やがて一年が経ち、国際犯罪組織の一味が財務省の航空輸送機を乗っ取り、紙幣の強奪を狙ったが、手違いで紙幣の入ったスーツケースを雪のロッキー山脈に落とす。犯罪組織のボスは悪だくみを案じ、山岳救助隊に救援信号を発信する。財務省の捜査官たちは犯罪組織の犯行だと突き止める。救助に向かったゲイルと恋人を失った同僚の親友は墜落した輸送機を山中で発見するが、犯罪一味は救助隊員を脅し、現金入りスーツケースを探させようとする。一年振りに山に戻ったゲイルは、孤立無援の中で犯人一味と対決し行動を起こす。ここらあたりは、「ロッキー」「ランボー」シリーズで十八番のスターローンの八面六臂の活躍となる。監督は「ダイハード2」などアクション映画を得意とするレニー・ハーリンならではの独壇場の演出。

ただし、スリル満点で盛り上げる場面満載であるが、現実離れした演出がどうしても嘘っぽい。飛行機が不時着して前半分が崖から飛び出しているのに、後のシーンでは飛行機から乗員が平地になっている場所で、前のドアから出てくる。ヘリコプターの燃料が麓に降りれるか少なく心配してるが、主人公を戦うために何度も旋回して燃料を使っていて燃料枯渇など全く眼中にない。頑丈な現金で入りスーツケースが石で叩いて直ぐに壊れるか?雪山でも誰も白い息を吐いてない、寒そうではない。水中から銃を撃って相手を倒す。分かっていながら勧善懲悪のお決まりのエンディングは、めでたし・めでたしで犯人を逮捕、ゲイルは一旦は別れた恋人とよりを戻し、現金も無事回収となる。一度観れば充分である。ただ、4000mの高峰での撮影もあったらしい。スタントマンは一級のクライマーだったに違いない。

ついでに、山岳映画と言えば、邦画では「氷壁」(槍ヶ岳北鎌尾根)、「点の記」(剣岳)、「八甲田山」「黒い画集」(鹿島鑓ヶ岳)、「岳」などがあるが、洋画のドキュメンタリー映画、「メルー/Meru」2015年と「フリー・ソロ/Free Solo」2018年が面白かった。“虚”を描く映画と違い“実”の迫力には参った。共にPrime Videoで見れるはず。「フリー・ソロ」はヨセミテ「エル・キャピタン」と呼ばれる900mの大岩壁をほぼ垂直に素手で登るクライマーを描く実話。

(参考)

(保屋野)NHKBSで毎週日曜日に放映されている「山女日記」(湊かなえ原作、6回シリーズ)を観ていますが、白馬、雨飾、安達太良、八ケ岳と実際登っているので、余計楽しめます。来週は鹿島槍ですか・・・NHKは,グレートトラバースはもちろんですが、先週も、ドロミテ(トレ・チーメ)トレッキングや中国横断山脈(大雪山脈)のミニヤコンカを放映してました。ミニヤコンカは日本人の大量遭難で有名な山ですが、本当に美しい山容です。

さて、「クリフハンガー」は昔、劇場で観ましたが、貴兄と全く同じ感想です。昨年放映された「フリー・ソロ」は見応えありました。山の映画は、やはりドキュメントの方が迫力ありますね。山の歴史や事件を題材とした、小説(氷壁、八甲田山、点の記等)を映画化した作品は、いずれも面白かったですが事前に本を読んでいると、小説の面白さには適わない気もします。

(菅原)何故、こんなにオソロシイ山に登るのか。奇麗よりも何よりも、見ただけでゾットする。小生、近くの御殿山で充分満足してます。

(船津)「同感!!!!」
でもそこに山があるからでしょう。高いところ好きな人—––!(@^▽^@)
でも綺麗ですね!挑戦して登り切ったときの気持ちはやった人以外分からないでしょうね。門外漢の戯言  ではまた。

(編集子)この映画は、はなから “縦になったランボー” だと思っていて、山岳映画、という気持ちはわかなかった。チビ太兄解説の エルカピタン は在米中何度かその下を通って自然の偉大さを感じはしたものの、”山登り”というイメージにつながった記憶はない(あまりにもぶっきらぼーな、ただ、そこにある、というだけの存在だった)。先日本欄で紹介(自然エネルギーについての投稿)した山岳部OBの山川を案内してHP本社に行ったことがあり(当時, 彼のところはわが弱小コンピュータ部門最大の顧客だった)、そのついでにカピタンを眺められる対面のハイキングコースを歩いたくらいが関わり合いである。ついでに白状すると、小生、どういうものか海外まで行って山へ登ったりスキーしたりするということに興味をもったことがない(ただ一度こころみたエベレストトレッキングもその信念?のとおりのぶざまな敗退だったし)。

細かいことだが、チビ太解説で 氷壁(槍ヶ岳北鎌尾根)とあるのは映画の撮影場所か何かを指すのか? 氷壁自体の場は穂高滝谷、なのだが。もっともこの映画にでてきた登山の部分はまことにおそまつで、雪山へはいるというのに主人公がハイキングみたいなザックででてきて幻滅を感じたものだった。保屋野兄が言うとおり、やはり、本は本。この本をきっかけに2年くらいのあいだ井上靖しか読まなかった時期もあったのを懐かしく思い出した。